該当する章:辺境伯領での暮らし
遠征中の悲劇 ※アレス視点
魔の森の近くで魔物が多数うろついていると報告を受け、その後騎士団の斥候が確認したところ魔物の集団が魔の森の縁に集まっていることが判明した。
スタンピード、と言うには規模が小さいものではあるが、領地に住む住民にとっては脅威に違いはない。
少しでも早くこの事態を収拾するためにグレシア辺境伯軍から3部隊を出動させることが決まった。
そして俺もその中に組み込まれている。
俺が所属している隊の隊長が今回の遠征をまとめることになっているため、俺は隊長の代わりに所属している隊をまとめる役目を負っている。
俺たちが魔の森に近付いて行くと、そこが物々しい雰囲気に包まれていることがわかった。おそらく魔の森から出ようとしている魔物たちの魔力がここまで漏れ出して来ているのだろう。これはかなり厄介なことになるかもしれない。
今までも間の森の魔力を浴びたこともあったが、今回のものはそれをはるかに上回っていることがわかる。
「想定よりも厳しい戦いになりそうだ。魔の森には奇襲を得意としている魔物もいる。各自、周囲を伺いながら慎重に進んで行くように」
「「「はっ!」」」
隊長がそう言うと同時に俺たちは目の前の魔の森へと歩を進めた。
魔物たちとの戦いは案の定、苦戦を強いられた。
予想していた数よりは集まっていた魔物の数は少なかった。いや、これはおそらく俺たちがここへ到着するまでの間に共食いでもしたのだろう。ちらほら魔物だった物の残骸が残っていた。
「複数で纏まって行動! 1人になるなよ!」
隊長の声が森の中に響く。それに合わせて隊員たちも動いていく。しかし、そううまくいかないことも多いわけだ。
「ぐぅっ!」
隊員の1人が横から奇襲を受けた。すぐに気付き対応したが相手が悪い。いや、悪いどころではないな。
「オーガグリズリーだと!? どうしてこんな場所に居やがる。お前はこの森の奥に居るもんだろうが!」
魔物に向かって言うのは無意味だと思うが、そう言いたくなる気持ちも理解できる。オーガグリズリーは魔の森の頂点に近い位置に座する魔物だ。しかも普通なら森の縁、餌の少ないところにまで出て来ることはない魔物。俺たちが相手にするとしたら、1つの隊でよくて対等か下手をすれば壊滅する程度の強さを誇る。
これまで魔物を倒し続けていた後に戦うような魔物ではない。
「まさか、これまでの魔物はこいつに追われて?」
「その可能性はあるだろうが今気にする事ではないぞ!」
おそらくその可能性が一番高いだろう。そうでなければこのような事態にはなっていないはずだ。
「グハっ!?」
盾持ちの隊員が盾ごと吹き飛ばされる。正直相手に出来ていない。ギリギリこの場に押しとどめているだけだ。
既に幾人かは戦うことが出来ない状態。このままではジリ貧か。
「これは仕方ないか」
森の中、しかも時期的にあまりするべきではないのだが、このままでは最悪死者が出てしまう。こればかりは仕方ないだろう。
「皆下がれ! 俺が対応する!」
俺の言葉を聞いて隊員の多くはすぐにその場から離れていく。これから何をするかしっかりとわかっているようだ。しかし、その中で動けなかった隊員が居た。
足をやられてしまっているのか、それとも別の箇所か。ともかくすぐに動けるような状態ではないらしい。
「ぐっ、副隊長! 俺ごとやって下さい!」
「出来るか馬鹿者!」
どんな状況でも仲間を巻き込むような攻撃をするつもりはない。すぐさま俺はその隊員へ向かって走り出す。それに合わせるように他の隊員も動き出した。
「回収! からの即離脱だ! 巻き込まれ――」
しまった。そう思った時には既に遅く横からオーガグリズリーが迫り、俺に向かって腕を振り下ろしているところだった。
「くっ!」
咄嗟に身を守るように剣で攻撃を捌こうとする。しかし、咄嗟に出した剣では碌に力が入っていなかったため、オーガグリズリーの腕によって容易に弾かれてしまった。
「ぐあっ!!」
肩から衝撃。肉が裂け得くれて行くような感覚を感じた。
「副隊長!?」
「アレクシス副隊長!?」
これはまだ致命傷ではないな。即死はない。これならヴァルグの回復魔法を使えばどうとでもなるだろう。
激痛の中、そう即座に判断した。どうやら咄嗟に出した剣も少しは役に立ったらしい。オーガグリズリーの腕が最初に狙っていたのは俺の頭だった。しかし当たったのは肩口。ぎりぎりのところで死を回避することが出来たようだ。
しかし、このままでは他の隊員も同じような目に合ってしまうかもしれない。それだけは避けなければならない。
「ふざけんな! お前が居なければもうちょっと楽な遠征だったかもしれないというのに! さっさと死ね!」
意識が途切れ酢になる痛みの中、俺は全力で魔法を放つ。
俺の魔力から発現した炎はオーガグリズリーの毛皮を焼く。そして延焼に至るが、そこで魔法の発動を止めることはない。
炎が周囲の草木に燃え移る。普段であれば燃え広がることはないのだが、時期が悪い。この時期、グレシア辺境伯領はとても乾燥している時期なのだ。そのため落ち葉などの枯草などはとても乾燥している。
彼は等に延焼した炎が俺の皮膚を焼く。しかしまだ、オーガグリズリーは死んでいない。
「早く仕留めるぞ! このままでは副隊長が――」
隊員の一人がそう言って動きの鈍くなったオーガグリズリーの元へ駆け出す。それを感じ取った俺は魔法の発動を止めた。
そしてそれと同時に俺の意識は途切れた。
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※この話、あまり魔法を使っているシーンがありませんが、しっかり魔法は存在します。平民だと使える者は少ないですが、貴族の大半は普通に使えます。
アレスが使える魔法の種類は火ですが、これは家系的な物です。
本編中で出ていた肌の爛れは自爆。ただし名誉の自爆。
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