追加閑話
該当する章:妹は姉の婚約者が欲しい
風雲急を告げる小鳥 ※アレス視点
「ん?」
何時ものように騎士団の訓練場で訓練をしていると俺の方へ向かって小さな鳥が向かって来ていることに気付いた。
「んー……ああ、伝書鳥か」
このままでは俺に追突しそうだな、と悠長なことを考えていたところでその鳥が魔法で出来た存在であることに気付いた。
伝書鳥は騎士団でもよく使う魔法だ。ただ、この目の前まで来ている小鳥とは違い大抵の場合、他の生物に攻撃されないようにと大鷲などの猛禽類を形取ることが多い。
目の前まで飛んできていた伝書鳥である小鳥が俺の目の前で羽ばたきながら静止している。
伝書鳥はあくまでも鳥の形をとっている魔法であるため、別に羽ばたいて飛んでいる訳ではない。あくまでも羽ばたきは普通の鳥への擬態にしか過ぎない。
先に説明した通り、目の前にいる伝書鳥は小鳥だ。
伝書鳥に小鳥を使うのは密書などを送る場合が多い。まあ、個人のやり取りをする場合に使うことも多いので密書である可能性はそう高くはないのだが。
それで、この伝書鳥を飛ばした者は誰かというと、おそらく知り合いだろう。
ここ数年は直接会っていない上、年に1~2回程度しかこのようなやり取りをしていないため、咄嗟に相手がわからなくなることがある。
腕を前に差し出すと目の前にいた小鳥は俺の腕に止まった。そしてその小鳥の脚には小さな紙が括り付けられている。
それを外すと小鳥は霧が晴れるように消えて行った。
「大きさ的に現状報告くらいか?」
小さな紙だ。書き込める内容なんてたかが知れている。
そう思ったところでふとおかしなことに気付いた。
「そう言えばこんな時間に伝書鳥が来るのは初めてじゃないか?」
あいつは相手が迷惑に思う時間をさけて手紙を送るような人物だったはずだ。こんな時間に手紙が到着するように送るのはおかしい気がする。
そう思ったが小鳥の伝書鳥で手紙のやり取りをしているのは家族とあいつくらいだ。手紙以外のやり取りならばほかにも数人いるが、少なくともこの伝書鳥は手紙を持っていたからその線はない。
嫌な予感がしてすぐさま手紙の内容を確認する。
『お久しぶりです。アレス
突然で申し訳ありませんが、私の周囲で少々厄介な事態になりそうな気配があります。場合によっては家から逃亡、最悪、国外への亡命を視野に入れなければならない可能性があります。
何事もなければそれが1番いいのですが、何かが起きた時の逃亡先としてグレシア辺境伯領及び家へ向かう許可を頂きたい所存です。
不躾ではありますが、早急の返事を求めます。
レミリア・オグラン』
確認した小さな紙はぎっしりと文字で埋め尽くされていた。その状態と書いてある内容からかなり緊迫した状況である可能性が高いことがわかった。
「おいおい、亡命も視野に入れなければならないなんてかなりヤバイ状況じゃないか」
この手紙の送り主であるレミリアは俺の幼馴染だ。とある事件が起きる前は年に数度、俺の父上が領主を務めるグレシア辺境伯領にちょくちょく訪れていた人物だ。
最近直接会っていないとはいえ個人的には受け入れたいところだが。
「俺が判断していい物ではないな。すまない。少しだけ席を外す」
同じように訓練をしていた同じ隊に所属する騎士たち断りを入れ、すぐにでもこの話を伝えなければと父上が居る屋敷に急ぎ向かった。
「なるほど、あちらの状況がいまいち把握できないが、このような手紙が突然届くとなると、あまりいい状態だとは思えないな」
訓練場から屋敷に戻った後すぐに父上との面会を申し込み、入室の許可が出ると同時に父上の執務室に乗り込んだ。そしてレミリアから受け取った手紙を渡し、その内容を確認しそう言うと父上は何か考え込むように顎を触った。
「確か今日はガーレット国の第2王子の婚約者発表の日だったはずだな」
「そうなのですか?」
さすがに他国の情報はあまり知らない。次期当主として執務をしている兄上であれば把握しているのかもしれないが、次男である俺には他国の国勢に関する情報はあまり入って来ない。
「一応、我が家の密偵もガーレット国の王都に潜伏させている。今日の内にそれに関する詳しい情報は入って来るだろう」
アレンシア王国に属している我が家がガーレット国へ密偵を忍ばせているのは別におかしくはない。我が家は爵位にもある通りアレンシア王国の辺境に位置しているため、むしろガーレット国の首都の方がアレンシア王国の王都よりも近いのだ。
それに辺境伯は王から直接近隣の監視を求められている。それは魔物だけではなく国も該当する。
「判断するのはそれからですか?」
「いや、こちらに避難して来る分には問題ないだろう。保護するかどうかは情報が入り、本人から話を聞いてからだな。それに、ここへ来るかどうか、ましてや来ることが出来るのかは現段階では未確定だ。正式な決断は出来ない」
来ることが出来るかどうか、か。たしかに、レミリアの立場はガーレット国の中でも高かったはずだ。易々と国外に出ることが出来るかどうかはわからない。
とは言え、ここへ来る許可は得られた訳だ。
「わかりました。ではそのように返事を送っても大丈夫ですか?」
「ああ」
父上の返答からして手紙の返事として書く内容は、『受け入れは拒否しない。今後の経過によって対応を決める』程度だろうな。
レミリアからしても悪くはない返事のはずだ。保護するかどうかが決めっていない所が不安要素ではあるが、受け入れを拒否していないのだから問題はないだろう。
そうして俺は小鳥の伝書鳥の脚に括り付けられる大きさの紙に、先ほど得た返事を書き、伝書鳥を使いレミリアの元へ送った。
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