追手到着とその結果
アレスと婚姻を結んで2日目。ようやくガーレット国からの騎士団がグレシア辺境伯の屋敷に到着しました。
大事を見て私はガーレット国の騎士団の前には出る予定はありません。強引な手を使ってくるつもりはないと思いますが、下手に相手を揺さぶるようなことはしないに限ります。
「私は呼ばれたら出ていけばいいんですよね?」
これから来る騎士団に対する対応の確認を目の前で待機しているグレシア辺境伯様にします。
「ああ、そうなる。あちらの宰相の関係者とはいえ、強引な手に出ないとは限らない。最悪は会い次第、強引に連れ去ることも想定しているからな」
「そういうのはないとは思いますが」
「私も、そう思いたいところだが、どうしてかあちらからくる騎士団の人数が多い。友好のためという目的にしては過剰な人数だ。もしかしたら脅しくらいはしてくる可能性もある」
数の圧力は結構強いですからね。特に武装しているとなれば尚更です。しかし、本当にガーレット国は何を考えているかがわかりませんね。いえ、私を連れ戻す、という部分は理解しているのですが、それ以外のことがわからないという感じです。
しばらくして待機している場所に執事が入ってきました。そしてグレシア辺境伯様へ耳打ちしすぐに部屋から出て行きました。
「ここから見える範囲に騎士団が到着しているようだ。私はこれからそれらの対応をしてくるのでなるべくここから離れないようにな」
「わかっていますよ」
グレシア辺境伯様はそういうとすぐに部屋から出て行きました。ドアの向こうを見ると先程部屋に入ってきた執事が待機していましたので、おそらくあの執事も同行するのでしょう。
「ふむ、それじゃあ俺も持ち場に戻るかな。ここにいても仕方ないし、見られない方がいいというのもわかるが、じっとしてるのもな。騎士団の詰所の中にいれば見られることはないだろう」
「そうですか」
私と同じように部屋に待機していたアレスが席を立ちます。グレシア辺境伯様はアレスにも私と同じように待機しているように言っていました。ただ、私とは違い相手の視界に入らなければ騎士団の仕事をしているようにとも言われていましたから、そちらを優先するのでしょう。
「俺は行くが、レミリアは大丈夫か?」
「待っているだけですからね。大丈夫も何もないですよ。それにここまでしてもらっているのですから、これくらいは従わなければなりません」
「父上も打算があって行動しているから気にしなくてもいいと思うが。まあ、それだけではないのはわかっているが」
「それでも良くしてもらっているのですから」
「そうか。まあ、レミリアが嫌じゃなければいいか。それじゃあ俺は行くな」
「はい。行ってらっしゃい」
「ああ」
アレスはそういうと私の頭に触れ、優しく撫でてから部屋を出て行きました。
・
アレスと辺境伯様が部屋に戻ってきました。
想定していたよりも早く済んだようです。
ですが、この場にアレスも呼ばれた、という事は私が出張る必要は無い……いえ、もしかしたら出て行く必要があり、それにアレスが随伴するという事なのかもしれません。
「友好としてここへ来ていたガーレット国の騎士団は既に帰った。だから、そう緊張する必要は無い」
「……そうですか」
どうやら、私が出て行く必要は無かったという事ですね。
そう思うと同時に緊張していた体から必要のない力が抜けていきます。
「まあ、来た者は正直言って拍子抜けも甚だしい程度の者だったがな。だが、これでガーレット国側の考えはある程度読み取れた。いや、あれは宰相の考えか」
「父上。さすがにその話しの内容を知らない私たちにそのような事を言われても、話について行けません。先になにがあったのか、教えていただけませんか?」
1人で結論、いえ、自身が感じたことを述べていたグレシア辺境伯様にアレスがそう問いました。
「ああ、すまない」
「それで、ガーレット国の騎士団とはどのような話をしたのですか? 拍子抜けと感じたという事は、宰相の関係者はいなかったという事なのでしょうか」
「いや、おそらくその者はいた……が、あくまでも関係者というだけなのだろうな。正直、あの宰相が送り出した者とは思えなかった」
「そうですか」
辺境伯様がここまで言われるという事はあまり能のある方ではなかったのでしょう。それに宰相の関係者という事で構えていた分、その差でより低評価になっていそうでもありますね。
「納得して帰還して貰えた。そう判断してもよろしいのでしょうか?」
「納得はしていないだろ。しかし、あの者が送られてきたという事はガーレット国側もある程度、このような状況を予測していたという事なのだろうな」
「どういう事でしょうか」
「既に説得することでどうにかなる、その段階を越えている可能性を高く見積もっていたという事だ。おそらく今回の友好と称した遠征は、レミリアを連れ戻そうとした、という事実を得るためのものだろう」
「何もしなければ、レミリアの亡命を受け入れた、そう捉えられてしまうため、それを避けるための遠征だったという事ですか」
「そのようだ。ガーレット国としてはレミリアを手放すのはあまりいい事ではないからな。国内の情勢としても、国外に対する外聞としても。まあ、要するに今回の事の原因を誰かに押し付けるための行動という訳だ」
アレスの言葉にグレシア辺境伯様は深く頷き、そう続けました。
私はガーレット国にとって王子と婚約していた重要な人物『だった』訳ですので、その人物が国外へ亡命している、というのは周辺国からすれば外聞が悪いでしょう。それを私の意志ではなく誰かの意図でそうなった、もしくはそうならざるを得なくなったとし、国の責任ではない、そうするための遠征だったという事なのでしょう。
ガーレット国の上層部が考えそうな手ですね。
「とりあえず、これでガーレット国がレミリアに直接手を出すようなことは今後起きないことは確実だ。国王経由で抗議文書が送られてくる可能性もあるが、形だけの物であろうし、この事はアレンシア王国の国王も把握している。問題が起きるようなことはないだろう」
「え? 国王が関わっていたのですか?」
「他国の貴族と強引かつ最速で婚姻まで結んだのだ。それをするには王命なり、それに近い事をする必要があるだろう」
まさか、私とアレスの婚姻に国王まで関わっているとは想像していませんでした。
「それは、凄い手間を掛けてしまったという事ですよね。申し訳ありません」
「こちらにも利があっただけの話だ。さすがに何もなければ私も手を出すことはしないし、王も動くことは無かっただろう」
おそらくアレンシア王国はお母さまの母国ですし、それの関連で何かがあったのでしょう。さすがに利だけでは国家間でのわだかまりが起きるようなことは避けるでしょうから。
「そうかもしれません。ですが、それで私は助かっているのですから感謝すべきだと思います。本当にありがとうございました」
そうして、私は何の憂いもなく、ここ、アレンシア王国グレシア辺境伯家の者として過ごすことが出来るようになりました。
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