国境での出来事 ※他視点

 

 ガーレット国とアレンシア王国との境界にある国境門。その中のグレシア辺境伯領にある国境門へ十数人程、ガーレット国の騎士団が向かっている。

 今回の行軍は戦いのためのものではなく純粋に国境を越えるための移動だ。とは言え、他国へ向かうため騎士団の者の武装はしっかり装備している。


 そして騎士団、ガーレット国側の国境門を越えると休憩することもなく、そのままアレンシア王国グレシア辺境伯領の国境門に向かった。


「国境門の通過許可をくれ」


 普段見かけない他国の騎士団がいきなり通過許可を求めて来たことに、軍関係者用の門を担当している警備隊員は内心驚きながらも平静を装う。


 警備隊員が驚いた理由は、軍に所属している者が国境門を通過することは滅多にないからだ。アレスたちのように例外の者がいない訳ではないが、それは非常に少ない上、事前に先触れなどされているものだ。


 今回のガーレット国の騎士団について、アレンシア王国の国境警備隊の面々には一切先触れなどはなかった。そのため門を担当している者が驚いているのだ。


「こちらには貴方たちが通過するような通達は来ていませんが」

「急を要する事態故、通達はない。いいから通過許可をくれ」

「正式な手続きを踏んでいない以上、貴方たちに通行許可を出すことは出来ません」


 騎士の言葉に警備隊員はにべもなく断りを入れる。


「緊急事態だと言っているではないか! いいから通行許可を出せ!」


 どうやっても警備隊員が通行許可を出すつもりが無いのを察したのか、騎士が怒鳴り声を上げる。

 警備隊員はそれに動じることもなく騎士たちの様子を観察した。


 騎士たちが何か焦っているらしいのはわかる。しかし上からの通達が無い以上、武装している騎士たちを通過させるのは問題外だ。それに警備隊に話しかけた騎士は急を要するや緊急事態とは言っているが、その内容については一切言葉に出していない。そこが警備隊員にとって一番警戒に値すると判断された。


「上からの許可が出ていない以上、私に何を言われてもどうすることも出来ません」

「ちっ」


 アレンシア王国とガーレット国は友好関係にある。そのため、国家間の一般人や商人の移動は制限されていない。しかし、国軍に所属する騎士などは話が別だ。

 友好関係にあるとはいえ、それはあくまでも表面上の話であって、国の内部ではどのように考えているかなどわからない以上、完全に信頼することは出来ない。


 その状況で軍の関係者を安易に国家間の移動を許可して、内部から侵略されないと断言することは出来ない。特にガーレット国の内部は王が代替わりしてから不安定なのだ。何をして来るかなどわかったものではない。


「我々はガーレット国の国王より直接指示を得てここに来ている。お前がどうこう言える立場ではないのだ。速く通行許可を出せ。さもなくば……」


 騎士はそう言って腰に携えている剣の柄に手を添えた。


「はぁ。私がどうこう、貴方がどうこう言っても意味はないですよ。それと、この場で私を斬りつけた場合、国家間の問題になると思うのですが、それを理解しているのですか?」

「っ貴様!」


 警備隊員は自身を武力で脅そうとした騎士の態度を見て、呆れたような態度でため息を吐き、そう言葉を出した。

 警備隊員の馬鹿にしているような態度に騎士が怒りから身を震わせる。


「ここはアレンシア王国の国境門であって、ガーレット国の国境門ではありません。それにガーレット国の国王の指示だとしても正式に許可が出ていない以上、ここを通すことは出来ません。貴方たち軍の関係者がここを通行するにはアレンシア王国の国王の許可が必要です。なので、一度戻られてからアレンシア王国へ移動の許可の申請をしてきてください。そうすれば、私が貴方たちを止めることはしません」

「ああそうかよ! なら許可を取ってくれば良いんだな」

「ええ」

「お前たち。一旦騎士団まで戻るぞ」


 騎士は警備隊員の事を睨みながら他の騎士たちにそう指示を出した。


「近い内にまた来る。その時は覚悟しておけ」


 そう言って騎士はアレンシア王国の国境門から遠ざかって行った。

 警備隊員は5年前の事件の影響が騎士団の質にまで及んでいたことを知り、面倒なことになりそうだと思いながら騎士団を見送った。

 そして騎士団の姿が見えなくなるとすぐに警備隊の詰所に向かう。


 それから数分も経たない内に、詰所から伝書鳥が数羽どこかへ飛び立っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る