国境を超えます

 

 アレスの操る馬に相乗りして、ガーレット国とアレンシア王国の境目にある国境へ向かいます。


 馬車では1時間程かかる距離でも相乗りとはいえ馬に乗っていけばもう少し早く国境へ着くことになるでしょう。


 そして暫く道なりに馬を走らせていると、ようやくガーレット国側にある国境門が見えてきました。


 今見えている国境門はガーレット国とアレンシア王国の丁度境目にある、という訳ではなく境目から少し離れた位置に在ります。これは両国間の境界が川などにより明確に分かれていないので、境界そのものがはっきりとわからないためにそうなっているのです。


 そしてガーレット国の国境門の向こうには何もない平野があって、さらにその先にはアレンシア王国の国境門が存在するのです。


 国境を通過する人にとって、短期間に2度も国境門を越えるための審査をしなければならないのは面倒な事ではあるのですけれど、境界線は国土に影響するため、下手にギリギリのところに国境門を作ってしまうと、境界線に触れてしまう可能性があるため仕方のない事なのです。


 アレスの馬に相乗りしたまま、ガーレット国の国境門を通過します。


 アレスは軍関係者のため一般の人が通る門ではなく、軍関係者用の大き目の門を使います。

 こちらの門から国境を通過する場合は、軍関係者であることを示す印章を示すだけで審査は殆どされません。私は軍の関係者ではありませんけれど、軍関係者に同行しているため、2、3の質問に答えただけで馬から降りることなく、門の先へ通過することが出来ました。


「警備されている軍の方、少なくはないですか?」


 国境門の中で案じた疑問をアレスに投げかける。昔、この国境門を通過した時は、確か今の数倍の人数が居た記憶があるのです。


「うーん、まあ、そうだなぁ」


 何故かアレスが言い淀んでいますね。どうしてでしょうか? 他国の軍に関する情報のため、安易に言うことは良くない、という事なのかもしれません。


「まあ、5年前にあったあれの影響だな。まだ、軍の再建が整っていないらしいんだよ」

「ぇ? あ、そ……そうでしたか」

「ああ。だから、王都の軍に呼び戻された人員の補充がされないまま、国境警備隊は放置されているらしい」


 5年前のあれの影響なら仕方がありませんね。王都の方でも未だに混乱が残っているくらいですから。


 5年前、ガーレット国では国の存続を脅かす大事件が起こりました。


 事の始まりは国王が急逝し、新しく若い後継者が国王の座に就いたことです。

 元より次期国王として教育を受けていた新しい国王でしたが、実績が乏しい者では国の上に立つには不十分だと、一部の上位貴族たちが難色を示したのです。


 そのため、国の上に立つに十分な実績を作るため、国内の僻地にある魔物が巣食うエリアへ討伐の遠征に向かいました。

 当時はスタンピードの予兆が確認され、普段からスタンピードが起きてもそれほど苦戦するような場所ではない、という事でちょうど良い実績作り、また、比較的に安全と判断され、新国王の参加が許可されたのです。


 そして、国で有数と言われるほどに回復魔法を使えるという事で、お母さまもその進軍に同行することになったのです。元より、軍の遠征に回復士として随伴することが多かったのも選ばれた理由でした。


 まあ、このように国境門にも影響が出ているのでわかるでしょうけれど、結果は失敗。しかも新国王を失うという、失敗どころではない大問題が起きたのです。


 何時もなら小型の魔物や中型の魔物しか出て来ないはずの魔物が巣食う森から次々と大型の魔物が現れ、最後にはドラゴンが姿を見せたのです。


 国王が参加していたことにより、どうにか大型の魔物を相手取るのが可能な戦力はあったのですが、ドラゴンの襲撃は予想していなかったため、軍は半壊。最後尾で指揮を執る形となっていた国王の元までドラゴンが到達してしまいました。


 そしてドラゴンは国王を殺し、その近くに居た者たちも全て亡き者にしたのです。その近くに居た者の中にはお母さまも含まれていました。


 だからでしょうね。アレスが言い淀んだのは。


 短期間に、しかも立て続けに国王を失ったガーレット国は大混乱に陥りました。しかも、すぐに王位に立っても問題ないと言える人材が居なかったのです。


 一応、新国王の弟が王の補佐役として就任していましたので、その方を新たな国王として立てることは出来ました。ですが、元より補佐をするための教育しかされておらず、王としての知識が殆どなかったのです。


 そのため、今国王として立っている前国王の弟様は中継ぎの国王として執務を引き継ぎました。

 そして、元より次期国王として目され、教育されていた前国王の長男である王太子様が、近く国王の座に就くことになる予定なのです。


 その王太子様は現在20歳。まだ国王を継ぐには早いと言われていますけれど、既に王としての執務の一部を請け負っているらしいので、次期国王として貴族間ではとても期待されているようです。


 まあ、そういう感じでここ数年、国王に関する問題と遠征の時に失った軍力の補充、遠征に行くように仕向けた貴族たちへの責任の追及で手一杯だったため、他の近隣国よりも関係が良好であるアレンシア王国との国境門の人員については、後回しにされていたという事なのでしょう。


 アレスたちがガーレット国内に居た盗賊を捕獲していたのもこれの影響でしょうね。人数を見た限り、盗賊を捕まえに行けるほど人員の余裕はなさそうですから。

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