侯爵からの呼び出された後 ※リーシャ視点

 

「あのクソ侯爵。なんで私を呼び出すのよ。お父様の説明で十分だったでしょうに。結局呼び出した理由が今後の予定を聞くだけとか、伝書鳥だけで十分でしょ? ふざけないで欲しいわ」


 ゴルネイ侯爵との面会の後、王宮内の通路を自室に向かって進む。


 本来なら今日は婚約者であるグリー王子と会食の予定だったのだけど、ゴルネイ侯爵からの面会依頼が急遽舞い込んできたせいでその話が流れてしまった。


 本来なら王子との会食が優先されるものではあるのけど、どういう訳か、グリー王子から面会の方を優先するように、との指示があったために面倒な面会を拒否することが出来なかった。


 何故王子はあのようなことを言ったのかしら。いえ、元より私と王子の婚約は政略的な物のため、愛などの特別な感情は存在しない。それに王族である以上、貴族との関係を大事にするのもわかるのだけど。

 ただ、ゴルネイ侯爵は王族の間でもあまり評判の良い貴族ではないのよね。そんな者と婚約者を関わらせる、というのは外聞的にも良くないのではないかと思うのだけど。


 私がゴルネイ侯爵に接触したのは、お姉さまに嫌がらせをするためだけだというのに、ここまで面倒なことになったのはお姉さまが勝手に居なくなった所為ね。なんで勝手に家から出て行ったのよ。本当に嫌なお姉さまです。


 すぐに見つけ出したいところですが、お姉さまが居なくなって既に数日が経っています。それに、お父様の指示で探しているというのに未だに見つかっていない。

 何処に居るのかはわかりませんが、何事もそつなくこなすお姉さまですから、おそらく簡単に見つかるような安易な所には居ないでしょう。もしかしたら、既に他国へ移動してしまっている可能性もあります。

 どうにかしてお姉さまを見つけ出し、ゴルネイ侯爵の元へ持って行きたいところです。



 先ほどグリー王子にゴルネイ侯爵との面会が終わったことを伝えるため、王子の執務室へ行ったところ既に就寝したとの返答がありました。何やら、返答を持ってきた使用人の様子が変だったのですが、王子がこの時間に寝てしまっていたのはここへ来てから何度かあったことなので、もしかしたら使用人のあの様子は王子に対して呆れているだけなのかもしれません。


 しかし、今回が初めてではないとしても、夜とはいえ、まだ早い時間だというのにすでに寝ているのはどうしてなのかしら。

 もしかして、グリー王子に振り分けられている執務の量が少ないという事なのかしら。まあ、そうであれば近い内に婚姻する私にとってはいい事よね。王族の一員になったというのに執務漬けなんて御免なのだから。


 自室に戻り、就寝するための準備をします。部屋で待機していた王宮に来てから世話係として私付きになった使用人が、私の着ているドレスを脱がしていきます。


 さすが王宮の使用人ね。家に仕えていた使用人によりも所作が綺麗だし、丁寧だわ。こういった対応を体感すると、王子の婚約者の立場を得られて本当に良かったと思う。これに関しては抵抗してこなかったお姉さまに多少感謝してもいいわね。


 それに食事の質も家と比べ物にならないくらいに良いのも嬉しい。ああ、でも、今日の会食が無くなってしまったのは残念でならない。会食で出される食事は王宮で普段から出される食事よりも良い物なのよ。


 今日の会食が無くなったことを思い出すと、あのクソデブゴミ侯爵に対する怒りが沸々と湧いてくるわ。いっその事、あの侯爵の顔面を殴りたいくらいね。でもまあ、今後私は王族になるのだからそんなことをする訳にもいかないし、そもそもあの侯爵に触れたくもないからしないけどね。


 怒りを抑えるために王子にまた会食の予定を入れてもらおうと考え、使用人によって整えられた寝台に寝そべり、私はそのまま眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る