第36話「破壊」

「ここを、破壊するですってっ?」


「そう言いました。とゆうかこれしか方法ないですよ、彼を救う方法は。」


驚きで、目を見開く恋夏さんに私はそう言って諭す。


「でも無理ですわ!そもそもこの部屋から出られないし、それにこの施設もよく知らないって言うのに!」


「やらないで後悔するのと、やって後悔するのなら、私はやって後悔したい。だからやるんです。」


確かに恋夏さんの言う通りで、これは不可能に近い。でも私だって無策で言ってるんじゃない、それに私はここをよく知れる方法がある。


「これはここの地図です。これがならさっきよりかはもう少し勝算あるでしょう?」


「これを一体どこでっ……」


それは内緒、でもこれならばここから出る方法も書かれているはず。

なぜならこれを書いたのはここの最高責任者なんだから。


「止めましょう、ここにいるふたりで!」


それに彼の計画もこの国の計画もご破算にすれば、あの男は救える。

そもそもここは古代の研究所。何があっても可笑しくないから、爆発してもおかしくないし変じゃない。

希望だがどちらにしろあの男に目が行くとは思えないし、同時に恋夏さんも助けられる。


だから私はそれまでに覚悟を決めよう。

瑠さんの元に帰るか、装置を使って元の世界に帰るかを、計画が始まるその前に。


――それから体内時計で2日、3日ぐらいたった頃。

私と恋夏さんで計画を練っていたが、あの男の計画がどこまで進んでいるのかがわからない為そこまで時間がなかった。


「ここを外せば出れるのですね。」


「はい、今見張りが居ないその間にさっさと脱出してしまいましょう。」


さっさと出たがための強行突破、それを私は選択した。

理由は2日、3日前まで遡る。



****


恋夏さんの話によれば、既にここに入る前に私の居た国の軍部の『鍵』と連絡をとってここの場所を密告していたようだ。

そしてその鍵は1週間前にこの国に入ったらしく、既にここまで来ているらしい。


「だから焦ってあんなに慎重だったあの男はこんな強引な方法に出たのか……」


「私のせい、ですわね。私が余計なことをしなければそしたら花菜様は無事に帰れたかもしれなかったのに……」


「いや、恋夏さんのせいじゃないよ。」


どちらにしても私はここに残った。

そもそもここが私の最終終着点なんだから、これは恋夏さんのせいじゃない。


それよりも、どうやって連絡とか取れたんだろう。


「それは私の式神を使ったからですわ。」


「式神……?そんなものまであるのか。」


恋夏の式神は鳥で、小さいが何体も作れるらしく、五感も共有できるという優れものだ。連絡を取るにはかなり優秀すぎる。


「それとですね、あの花菜様の恋人じゃなくて旅仲間の方なんですが……」


「……え、マジですか。」


変な一文が聞こえた気がするが無視だ。

どうやらその『鍵』の中に瑠さんもいるらしいが、とんでもないことになっているとの事。


「なんか、飢えた狼みたいになってましたわ。」


「ナニソレコワイ。」


目を血走らせ、ギラギラとした殺気を振り撒きながらこちらに向かっているらしい。

思わず片言になった私は悪くないはずだ。

なんか莉さんの悲鳴が聞こえそうだ。

いや莉さんはそこまで怖がらないな、その周りの人が哀れだ。


「…………早く出よっか。」


「……そうですわね。」



****


とう言うことがあった。

まあ、別にそれが引き金になった訳では無いが私は強行突破をすることにした。


そこからはここの地図の暗記とここの出る方法を調べれば、どうやらここの隔離部屋隣の調合部屋と繋がっていて隠し通路があるらしく、そこから出れるようなっている。


そして、この地図の端っこに少し歪んだ文字でこう書かれてあった。


『総合司令室:自爆機能あり』


「な、なんでこんなものがあるんですの?」


「…………」


恋夏さんはこれがあ意味がわからないようだったが私にはわかった。


全て無くすつもり、だったのかなあの人は。

でもきっとその前に死んじゃったのかもしれない。

夢の中でしか会えない彼に、私は思う。

だったら私が叶えるよ、全て無くしてあげる。もう終わらそう、過去の確執全てを。


「――ありがたく使わせてもらうね。」


「何か言いましたか?」


「ううん、なんでもない。」


私のひとりごとに反応した恋夏さんに、首を振って息を吐く。


目の前の壁にはぽっかりと空いた穴があり、簡単すぎるぐらいにもう出れる準備は完了した。

だが、不可解すぎる。

確かに見張りがいるが、せいぜい1日に2人交代の見張りだ。これじゃあいつでも出ていいよってことになる。

そもそも神族の恋夏さんじゃあ、無理やり神通力を使って出れる可能性が高いのに、どうしてここまで手薄なんだ?

あの男の狙いは一体。


「花菜様、行きましょう。」


「……うん。」


暗く、小さな通路を真っ直ぐ行けば直ぐに壁にぶつかる。

耳を当て、外から音がしないかを確かめたがどうやら人はいないらしい。

取っ手の付いた壁をゆっくりと前に押し出せば、薬とカビの匂いがする。

真っ暗な部屋にある唯一の光に慎重に動いき、物をなるべく動かさないように窓の着いてある扉まで向かった。


「外には誰もいないみたい。」


「ではやっぱり、兵器製造の一角部いっかくぶに集まってる可能性が高くなりましたわね。」


いやほんと良かった勘が当たって、ここにいたらどうしようかと思ってた。


「先を急いで、あの男を助けよう。」


「ええ、勿論ですわ。絶対に犠牲になんてさせません。」


……あの男はどう思ってるんだろう。

こんなにも心配してくれて、こんなにも思ってくれる相手がいるって言うのにどうしてこんなことをするのだろうか?

いや、こんなの私が口出しすることじゃない。


「だって私も同じだから……」


懐にある鍵の存在が強く私を引き寄せる。

ここずっと考えていた、これからの事を。

でもやっぱり何度考えたって私の前にある道はどれも後悔の多いものばかりだ。


いや、今はそんなこと考えてる意味は無い。

恋夏さんのために、あの男を止める。


「あともう少しで、自爆装置のある司令室と言うところに着きますわ。」


「うん。」


曲がった道を真っ直ぐ進めばあと少しで着く。しかしそこに近づくにつれなんだか騒がしくなってきた。

まるで争っているかのような、そんな激しい音。


「――っ、――敵襲っ!!」


「クソっ、もうこんなに早く着くなんて!」


「上の連中は一体何をっ。」


人の出入れが激しく、莉さんが持っていたような銃撃音が曲がった先の奥から激しく聞こえさっきの人が言ったことを理解した。


「まさか、鍵がもう来たのですの!?」


「そうらしい、この混乱に乗じて司令室に急ごう。」


通りで出口から遠いあの場所に人が居ないわけだ。

しかもここも人が手薄で司令室までの道が行きやすい。


このまま動こうと前に出た瞬間、後ろから声が聞こえて2人は動きを止めた。


「おい、お前らどっから出たんだ!?」


「「!?」」


しまった 、後ろにいただなんて!

男は驚いたがすぐに冷静に戻ったのか私達を捕まえようと手を伸ばしてくる。

そんな、こんなところでっ。


私が思わず目を瞑れば、ゴンッと鈍い音がなり誰かが倒れたような物音がすぐ横でする。


「――へっ?」


倒れた男の後ろにいる恋夏さんはどこから取り出したか分からないような鉄も棒を、どうやらこの男にぶつけたらしい。

よくよく見たらたんこぶがある。


「お、おいお前一体どうしたん、なんだお前ら!どっから……」


「はぁ!!」


他の奴らが気づき始めるが、それを片っ端から殴りつける恋夏さん。


「花菜様、早くお行き下さいませ!ここは私が!」


そう言いながら黒服の男を殴りつけていく恋夏さんは、ぶっちゃけ滅茶苦茶かっこいいし男顔負けだった。


「恋夏さん!危なかったらいつでも逃げてください!」


私はそのまま恋夏さんにそこを任せて司令室まで走る。

ここまで暴れてしまえばもう隠密行動なんて意味なんかない。

既に司令室は目と鼻の先にある。走ればあっという間だ。


「ハァ、ハァ、着いた!!」


司令室の扉にも見覚えのある窪みがあり私は急いで懐から黒いボタンを取り出して、窪みに嵌める。


『認証を確認、ゲートを開きます。』


扉はゆっくりと開かれ、私は狭い隙間に無理やり入っていく。


入って周りを見渡せば、広いTHE司令室みたいなところだった。

こんな形なら自爆装置はきっとあの1番上にある机の所にあるはず!


1番上まで階段で昇って机を見れば、沢山のボタンやパネルの付いてあるところに、あの窪みが鎮座していた。


「まさか、そもそもこれ自体がここの自爆装置のボタンだったってこと?」


私がゆっくりとそれを嵌めれば、違和感なくそのボタンは鎮座して異質な存在を放っている。

これを押せばもう、後戻りなんてできない。

それでも私は、もうあの人と……


「……」


無感情にそして静かに私は、黒いボタンを押してあの場に向かう。


司令室にはもう、誰もいなかった。


****


施設全てに響いた警報が、全員の耳に届く。


『自爆機能を発動します。自爆機能を発動します。施設にいる研究員は直ちに避難してください。爆発まで、あと60分です。』


赤いランプが施設を満たし、言葉を聞いたものは全員がパニック状態で逃げ出した。

最早敵味方などどうでもよく、我先に逃げだものもいれば、救助し一緒に出る者もいた。


しかし、その中でも異彩を放っていたのが数名。そのものたちは大きい声で一人の名を呼んだ。


「花菜っ!!何処にいるんだ!!」


「花菜ちゃんっ!!早く出てきて!!」


「クソっ、あの男もどこいった!?」


「叫ばないでちょうだい!いいから早く……」


瑠と莉の2人だ。

しかし2人の求める花菜はいなくて、2人は司令室を通り過ぎて角を曲がれば誰かとぶつかる。


「――っ貴女は情報をくれたお嬢さんじゃない!」


「そんなことはどうでも良いのです!花菜様は、花菜様は一体どこにいるのです!?」


「どういうことよ、一緒にいるのではなかったの?」


「そ、それは……」


「いいから探すぞ、話は道中で聞く。おいお前、花菜のいきそうなところはわかるか?」


「……分かりません。私はってきり司令室にいると思ったのですが。」


しかし2人は行く途中ですれ違ったことなんてないし、人に気配はなかった。

どこに行ったのかが皆目検討もつかず、完全に踏み足となってしまう。

だがこうしている間にも刻一刻と時間が経っていく。もう既に5分切っていることに若干の焦りが見え始めた。


「あの子ったら一体どこにっ。」


『教えよっか?僕もこんな終わり方って嫌だし。』


無機質な声が、何処からか聞こえてくる。

姿もないのに聞こえるその声は、サイレンの音を完全にかき消していた。


「誰だっ。」


「一体どこから声が……」


『そんなこと気にする必要ってなくない?それよりもほら、早くしないとあの子行っちゃうよ。』


無機質な声なのにどこか人間くさい話し方とその言葉に、瑠は一抹の不安を抱く。


「早く、案内しろ。」


『はいはーい 、じゃあこっちだよ。』


言葉と共に電灯がチカチカと点滅して動く、それに不安を抱きながらも全員が走って追いかけた。


その間も、瑠は考えずに居られなかった。

この声が言っていた『帰ってしまう』という意味に、酷い不安を抱いて足を動かす。


その後ろから、あの男が付いてきているのにも気付かずに。

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