第35話「近代武器」

コツンッ、コツンッ。

硬い石と土の交じった階段からは冷たい硬質的な音が静かに響く。

暗く続く階段は1本の松明のみでしか先まで見えなかった。


「ここが施設の、中?」


「まだ地下に潜って浅いですが、あと少しで着きますよ。」


男がそういえば、段々と石と土の階段は元の世界でよく見なれている白い石材に変わって行っている。

なるほど、途中までああしてカモフラージュしてたって訳か、天井がむき出しの土石の壁だったのも埋められて隠せるようにするためワザとしていたってことね。


「……そろそろ着きます。」


階段を降り切り、男が鉄の扉をまた開ければ、パッと目の前が白い、人工的な明かりになりどこもかしこも真っ白でそこは多くの人が想像するような研究所そのものだった。

起動してないパネルの着いたパソコンは何十台にも及び近くのテーブルには少し黄色く変わった書類が何十枚も散らばっていた。


そしてこの光景が、あの時見た夢の中とよく合致していて少し懐かしさまで感じてしまっていた。


「ここが、研究所……」


「はい、私たちはここであの古代の遺物である『化学兵器』について調査しているのです。」


男は近くのテーブルに置いてある紙をどかせ、あるものを取り出した。

それは『銃』に似ているものだったが、それ自体は莉さんも持っていた物でそこまで珍しいものでは無い。ただし似ているのは形状のみだった。

そう莉さんが持っているものは現代の銃にとても劣っていて、連射のできないタイプのものだが目の前にあるものは、この時代では決して作ることの出来ない『ライフル』だったのだ。


「これらの武器の研究が最も私が優先しているものでして、どうやら貴女ご存知らしい。」


ってことは、他にも研究しているのですね?」


「ええ、もちろんですとも。こちらをどうぞ。」


目の前に書類が置かれ軽く見れば、それら全てが戦争に繋がる武器であまりにも時代を先取りしすぎた危険な武器だらけに少し頭痛を感じる。

この男いや、この国は一体何を考えている?

そしてこの男はどうしてここまで簡単に私に話すんだ。


「なぜ……それを私に簡単に教えるのです?」


「それは勿論、あなたも協力してもらうからですよ。それをもって、ね。」


男の目線の先には私の持っている黒いボタン。その目に少し寒気を感じる。


「このボタンが欲しいなら、さっさと私から奪えばよかったのでは?」


「そのボタンは、人族のみにしか使えないのですよ。1回別の落ち人の持っていたもので試しましたが残念ながら、とゆうことでね。」


「その、最近落ちた落ち人が居ないのは何故です?」


「死んだからですよ、脱走の途中罠にかかってそのままだと。いや〜、捕まえるの苦労したんですがねぇ。だって落ち人は何故かあの国にしかですから。お陰でこっちも向こうでいちいちあんな回りくどい手を使わざる負えなくって大変でしたよ。」


私は唖然とする。

そして同時に新事実と男の話から推測する嫌な予感に気分が悪くなっていく。


「……その落ち人って元の世界に帰るため研究を、していません、でしたか?」


もしかして最初っから私の行く先にこの男から逃げれる手なんて無かったんじゃ?

そんなことがあるわけが無いと、僅かな希望を込めて聞くが私は完全に忘れていた、私の勘はよく当たってしまうことに。


「――おや、まさかあなたが旅していた目的地はその方の?なら申し訳ございません。もう全て、貴女が着くその前に終わってしまいました。そうそう言い忘れてましたが、私の知る限り落ち人はあなた一人だけですよ。」


「そん、な……」


もうこの世界に、私と同じ境遇の人は居なくなってしまったって事?

目の前がクラクラして、頭の奥がガンガンと響く。


「そういうことで、貴女はもう私に協力する他ありませんがどうなされます?」


それは2度目にこの男にされた提案じゃない提案。

目の前に置かれた漫画などで見なれたライフルは無機質に光を反射していた。



****


「それで私はどうすれば?」


「貴女のそのボタンが必要なのですよ。いまでも開かない『最高責任者の部屋』の鍵として。」


最高責任者の部屋の鍵が、このボタンだって言うの?

男はそのまま私に背を向け研究所の中を歩き出す。


所々がボロくなって時代を感じさせるが、それでも古代と言われるほどの研究所の電気が使えることが古代の技術の凄まじさを教えさせられる。

男は多くの部屋を無視して一つだけ異質な雰囲気を匂わせる部屋に立ち止まった。

その部屋は扉が大きく、ドアノブのあるところには小さくそしてよく知る卵形の窪みがあった。


「さあ。」


「…………」


男に促されて部屋のドアノブに近づく。

卵形の窪みに黒いボタンはピッタリでそのまま赤いボタンを押した。


『認証を確認、ゲートを開きます。』


無機質な声と共に、扉は自動的に開く。

後ろで男が声を小さくあげたことに気づいたが、それよりも目の入った部屋の書類の数に私は驚いた。


瑠さんと遭遇した兵器の設計書。

近代武器を詳しく書いた説明書や製造方法。

それら全てがこの部屋に置いてあった。


「これが、これがこの部屋の宝……!」


男が喜びの声を上げて書類に夢中になっているのを、私は静かに目線を外して机に向かった。


その机の引き出しが、何故か私にはどうしても開けなくてはいけな気がして、私は男を目線の端でとらえて静かに開ける。

そこにあったのは、特殊な形をした鍵と、その近くにはなにかの地図があった。


「これって、まさかここの地図……?」


地図には詳しく場所が書いてあってとても見応えするものばかりだったが、何よりも目を引いたのは赤い文字で書かれたひとつの場所。


『異界転送装置』そう書かれていた。


「見つけた。」


思わず小さく声を出して後ろをむくが、男はこっちに気づかない。

この男、いくら私が弱いからって油断しすぎなのでは?

そう思ったが、私は気付かれないよう懐にそれを仕舞い、男に話しかける。


「これで私の役目は終わり、ですよね?」


「ん?ああ、そうですね。これで貴女のお役目はおしまいです。」


「では、お聞きしたい。なぜ私を貴方は『婚約者』として縛り付けたのです?もっと別のでも良かったのでは?」


お陰で私は酷い目にあった。

だいたいこの男が何を考えているのかがサッパリ分からない。

この黒いボタンが欲しかったのならその日にさっさと私に使わせればよかったのだ。

なのにこの男はそうしなかった、それは一体なぜ?


「その事ですか、いいですよお添えて差し上げます。……それはですね、ここに潜んでるネズミを捕まえるためですよ。ねえ、子ネズミさん?」


「え?」


男は書類を置き扉の向こうに話しかける。

そこから見なれた黒服の男と、そして……


「恋夏、さん?」


捕まった恋夏さんの姿があった。


****

恋夏さんはいつもの着物姿だったが、裾辺りに血がついていた。


「いつから気づいていたのですか?」


「全く気づきませんでしたよ。あの国の鍵が既にこの国に潜伏していたのも、恋夏、貴女がこの国の密告者、裏切り者だったのもね。」


嘘だ、そう思ってしまったのも無理はないと思う。

だってこの男の顔は愉悦に満ちた残虐な笑みだったから。


「よく言いますわ!既にお気づきだったくせに、わざと私を泳がしましたわね!」


「おやおや、『貴族界の賢姫』というものがそんな顔をしては行けませんよ?」


「くっ……!」


「それにしても通りで、あの鍵がこんなに早く我々の場所を突き止めるわけだ。お陰でここまで苦労しましたよ全く。」


恋夏さんは悔しそうに顔を歪ませて叫んだ。いつもの彼女らしくない言葉遣いに私は驚かされる前に、彼女の言った言葉が私の何かにカチリと嵌った。


「宰相様、なぜ貴方がこんなことをなさるのですか!この国ををこの世界を、貴方は戦争という炎で焼き切るおつもりなのですか!またあの悪夢を私たちの手で、始めるというのですか!?」


まさかこの男、世界中に戦争を吹っ掛けるためにここを研究してたって言うの?

私は驚いて2人の話を整理するのに精一杯になる。何かがどんどん嵌って私の足をしばりつけ動かなくなった。


そんな私を、男は恋夏さんには目もくれず憂いた瞳でこちらを見ている。

なんでそんな目でこっちを見るんだ?なんでそんな、罪悪感で押し潰れそうな目で助けてほしそうなそんな目で……


私はその時、初めて男の本当の顔を見た気がして思考が止まる。

男は小さく黒服に命令して、私と恋夏さんを連れ行かせた。


「……もう何もかもが、遅いんですよ。私も貴女ももう終わりなんです。だからせめて、せめてあなた達だけでも……」


「一体どういうことで?」


「……連れていきなさい。」


私の疑問に応えることなく命令する男。

黒服はそのまま私の腕を引っ張り何処かに連れていく。


「――ッ!お待ちください!もう一度お考えてっ、宰相様!宰相様!!」


男の言葉に恋夏さんは苦しそうに叫ぶ。

私が連れ去られる前に見えた男の背中は、泣いているようだった。


そして私たちはそのままこの研究所の奥にあるなにかの隔離部屋に入れられた。

窓ひとつない真っ白い部屋で、ベットがふたつだけ置いてある。


「うぅ、宰相様……どうして?」


「恋夏さん一体どういうことか、説明していただけますか?」


連れていかれる途中で泣き始めた恋夏さんも心配だが、あの男が言った言葉がどうしても気になる。

私は恋夏さんの肩を掴んで聞く。

形振りやってられずに乱暴のなるが、恋夏さんは諦めたような目でポツリポツリと話し始める。


「この国は昔、幾度なく多くの国々に戦争を吹っ掛け、それで大きくなった国なのです。そしてそれが災いして、何度も繰り返す戦争に兵士たちは疲弊し国力は最底辺まで落ちることになったのですわ。」


「なるほど、そしてそれを利用して今まで苦渋を舐めさせられた国々や奴隷に落ちた国が一気に攻めいろうとしている、という訳ですね?」


「その通りですわ。」


そりゃ古代の遺物を使ってでも勝たなくちゃ行けなくなるよね。

でもなんかこれどっかであったような状況ぽくないか?

まあ、いいや。それよりもこの考え自体は普通なんだ、でもじゃあなんであの男はあんな目をしていたんだ?

それにそれが理由としてもあの男の行動が謎すぎる。恋夏さんのこの態度にあの言葉『この国も』って、まるであの男はこの国が戦争して他の国を攻めると言うよりこの国自体を……


考えた先で、私の最後のピースが嵌って今までが鮮明に映った。


「――そっか、この国を裏切っているのはあの男なんだ。あの男はこの世界からこの国を消そうとしている。だからその為にここの技術が必要なんだ。」


あの男が何故私を『婚約者という立場に縛った』のか、その理由は私をこの国から守るためであり、ただの落ち人出なくさせるためだった。。

だからこそ、同じくこの国の裏切り者たる恋夏さんを家庭教師として選び、私と合わせたんだ。


「でも今更それを知った所であの方はもう止まりませんわ……」


「いやあるよ、止める方法。」


「え、?」


あるじゃないか一つだけ。

なーにいくら製造方法があろうともそれを作るのにもまだ時間がかかってしまう。

今のところで来ているのはライフルだからそれらの銃類はほとんど作れてしまうだろうが、あのロボットを作らせる訳には行かない。

だからその前に――


「この施設を、破壊する!!」










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