第34話「秘密の扉と気づいた想い」
ここに来てもう2週間。
瑠さんはまだ私を探してくれているんだろうか?それとももう私の事なんて諦めてしまったのかもしれない。
月夜の夜、そんなことを考えた花菜の顔は暗くなる。
夜に、花菜は瑠から貰ったお守り石を眺めて1人耽っていた。
「花菜様、入ってよろしいでしょうか?」
「ん、ああ!いいよ入ってきてー。」
少しの絶望に沈んでいきそうになった時、部屋の外から恋夏さんの声が聞こえる。
しまった忘れてた。今日はあの日だったね。
私は首飾りをもう1度服の中に隠す。
なぜこんな時間に恋夏さんが来たかと言うと……
「では、始めましょうか!」
「はい、恒例の女子会ですわ!」
そう今晩は女子会なのである。
****
「ですからあの方はどうしてこの私の想いにお気づきにならないのですか!!」
「うわー、もう出来上がっちゃった。」
絡み酒の恋夏さんはどうやら泣き上戸でもあるらしい。
恋夏さんは成人なので酒は飲んでもいいらしいがどうやら神族には珍しく酒に弱く、すぐに酔っ払ってしまうとの事。
因みに私は未成年なのでジュースだ。
赤い色のジュースはなんとも言えない甘さで何味か全くわからんが美味しい。
そうして私は暴れる純粋無垢な乙女こと恋夏さんの愚痴に付き合っていた。
「私は、私は……こんなにもあの方をお慕いしておりますと言うのに!!!」
「いやホント、人って何が好きになるかわからんよね。」
そう、恋夏さんの好きな人は私の
これを第1回女子会で聞いた時は死ぬほどびびった。正直頭の心配を心からしてしまうほどにはびびったのだ。
しかも結構長い片思いらしく、最初は私のことが気に入らなかったらしいがこの待遇を見て少し冷静になれたらしい。
だがそれでも好きだと言うのでこの愛は本物だ。くさいことを言うつもりはないが多分きっとこれが『真実の愛』なのかもしれないね。
「なぁにぃ〜笑ってるんですにょ!?こんな、こんにゃいきなりのぽっと出のおんにゃにゃんかに〜!!!」
「ハイハイ、私はあんな変態なんかに恋なんかしませんので安心してください。」
「本当でしゅか?あのお方は顔だけは宜しいんですからそれで釣られちゃったとかはないんですね?」
「絶対にご安心を、顔のいい人なんて見慣れてますから。てか顔だけって。」
そう瑠さんとか瑠さんとか瑠さんとかね。
あー、なんか考えたらすごく会いたくなってきちゃった。瑠さん、今なにしてるのかな?
「でも、でもぉ〜花菜様も可愛らしいから絶対にあの方は好きになってしまうに決まってますわ……」
いや、それをあんたが言うか。
可愛らしいってどう考えても恋夏さんの方でしょう。だってなんかすごいお嬢様だし格式高いしお上品なんだからどんな男も絶対恋夏さんの方に行くわ。
だって私が男なら行く。
「ですから安心してください。」
「うむぅ、まあ確かに?花菜様には既に心に決めた殿方がいらっしゃいますものね?」
「は、はぁ!?」
な、何言っているんだこの人は!
べ、別にそこまで好きなんじゃなくてちょっと気になっていると言いますかいつも一緒にいるから少し会いたくなっちゃっただけであって、別にあんな変態なんかどうでも……
しどろもどろする花菜に恋夏の口元はにまぁと歪む。
そしてコソコソと花菜に耳打ちをした。
「あらァ?どうでもいい変態だと言う人を寝言でそんな殿方のお名前を言うのですか花菜様は?」
「――っ!?」
「もう凄かったですわよ?『瑠さん……ギュッてして。』だの『瑠さん……好き、大好き。』だのかなりいって「うわああああああああああ!!!」」
花菜の絶叫が屋敷をつきぬける。ここ幸いとして男がいなかったのがせめてものの救いであるが、花菜は羞恥心のあまり布団に潜り込んでしまう。
そ、そんなこと言ってるわけが無いでしょうが!!そんなハズはない!
私が寝言でそんなこと言うなんてありえない!!
「ですが事実ですわよ?――あら花菜様?それは一体どうなさったのです?」
「……え?」
先程まで弄ってきた酔っ払いこと恋夏さんは動きを止め、私の首元から出た輝く青い石を手に取った。
それは瑠さんから貰ったお守り石で、いつの間にか服から出てたらしい。
「ああ、それは瑠さんから貰ったお守り石ですよ。」
「お守り石、ですか?」
「?うん。」
貰い物だといえば、恋夏さんは少し考えたあとこちらを暖かい目で見てきた。
え、何その目それに一体どう意味が込められてんの!?
「んふふ、花菜様は知りませんでしたね。神族のお守り石を男性が女性に渡す意味は『貴女を一生守る』って意味なんですよ。だからある意味それを渡した人は花菜様にプロポーズしたって訳ですわ!」
瞬間頭が真っ白になって止まる。
きゃーっと照れて叫ぶ恋夏さんの声が遠くに聞こえる。おかしいなこんなに近くにいるのに、どうして顔も熱くなっちゃったんだろうお酒なんて呑んでないのに。
顔が熱くて熱くて堪らなくて私は行き良いよく立ち上がり縁側に通じてる障子を開いてでる。
「わ、私少し涼んできますっ。」
「んふふ、はい行ってらっしゃいませ。」
笑う全てお見通しの恋夏さんに見られたくなくて急いで出ていく。
少し乱暴に閉めてしまうがもうそれどころじゃなかった。
出ていく時、恋夏はしっかりと気づいていた、花菜の耳が真っ赤になっていたことに。
****
私の部屋から離れ、あの変態の部屋の近くの縁側に腰をかける。
ここの縁側は私の縁側と違って風と入りが良くて涼しく、火照った顔に丁度いい。
『花菜、俺は終わったらお前に伝えたい話がある――』
繰り返された、あの時に約束。
ずっとずっと考えてはいつも消えた答え。
それが、まさかこんな形でわかってしまっただなんて。
……ねえ瑠さん伝えたい話ってなんですか?
その話を私が本当に聞いてもいいものなんですか?
熱く火照る頬に吹く涼やかな風。
もうそろそろ夏の終わりが近づいてくる。
鈴虫の鳴き声はどこまでも哀愁が漂ってどこまでも美しい。
この世界で1番最初に会った初めての人。
この世界で誰よりも信じ、信頼出来る人。
――世界で1番私の大好きな人。
ズルいよ瑠さん。せっかく閉じ込めて蓋して隠してたのに、こんな形で全部取ってちゃうなんて。
私いつか帰っちゃうのに、どうして伝えるの?どうして私の覚悟全部抱え込んでくれるの?いつからそう思ってたの?
そんな疑問すらも、夜風は全部持って行ってしまう。誰もそれに答えることなんて出来なかった。
「今すぐ会いたい。会いたいよ瑠さん。」
何度思ったことか、何度願ったことか。
けれどもそれが叶ったことなんて1度だってなかった。
瑠さん、私ここにいるよ。
そう月を仰ぐが、月はただただ輝くだけでかぐや姫のように連れって行ってくれることも、連れて来てくれることもせずただ輝いていた。
「……必ず会って話さなきゃ。」
私の心に強い炎が灯る。覚悟という炎は強く、そして何よりも光り輝いていた。
「そろそろ戻ろっと。」
そう思い腰を上げて戻ろうとすれば、変態の部屋に積んであった本が崩れる。
仕方ない、戻してやろう。そんな思いで部屋に入れば、そこにあったのは部屋に似つかわしくない重厚な鉄扉。
おかしい、あんなのさっき見た時にはなかったのにっ。
私は恐る恐る扉に近ずき、ついているプレートの文字を見て喉を鳴らす。
それはどう考えても日本語で、こう書いてあった。
『帝国直属重要研究施設所』
「――まさかっ!」
私はあの時夢の中で聞いた言葉を思い出す。
『近ずいてる。』それは比喩でもなんでもなくただの事実。私は黒いボタンを取り出す押せば、そこに映し出されたのは私のマークと地図の目的地であろうマークとピッタリ重なって映し出されていた。
「こんなに近くに……あの男はもしかしてもう既に「そこにいましたか、クロ。」」
……ああ、バットタイミング。
本当に私は間が悪い、もう帰ってきてただなんて。
後ろをゆっくり振り向けば、月の光でうっすらと浮かび上がる美しい顔。
しかしその表情は酷く歪で恐ろしく歪んだ笑み。獣のような目。
男はついに、本性を顕したのだ。
「やっぱり、それを持っていたのは貴女だったんですね。」
男の目線は私の手にある黒いボタンに注がれている。一体これがなんだと言うんだ。
「おや、あなたは知りませんでしたか?それがなければこの施設の重要な部屋に入れないんですよ。だからずっと私は探してたんです。」
「……何を、言って。」
男はそのまま私に近ずき腕を引く。
振り解けないほどの強い力で扉まで近ずきゆっくりと開けた。
ぽっかりと開いた黒い口はどこまでも続いているかのように感じる。
そのまま男は扉に入って、こういった。
「さあ、行きましょう。」
事態は、大きく変動する。
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