第33話「登場、カテキョ!!」

チュンチュン。

鳥の鳴き声で私は目を覚まして布団から起き上がる。


あれ、おかしいな昨日の記憶が無いや。

あるのはあまりにも恐ろしい悪夢のような変態の言葉だけだが、あれは悪夢で夢だから真実では無い。

故にそれら全て忘れてしまおう。


「あーよく寝たー……」


「それは良かったですね?」


ピキリ、思いがけない声が聞こえ思わず石像宜しくのように私の体は固まってしまう。

油の切れた機械のように後ろを振り向けばそこにヤツは居た。


美しい微笑みをし、乱れた髪をかきあげこちらを見つめる変態は何故か同じ布団に入っている。


そのまま変態は私の頬に触れ、輝く朝日がごとくいい笑顔で挨拶をして来た。


「おはようございます。良く寝れましたか?」


「ひっ――きゃああああああああああ!」


その光景に私は思わず、絶叫した。



****

い、一体朝はなんだったんだ。

酷いものを見た、早急に瑠さんと合流してここから逃げたい。


花菜は身を擦りながらギシッと廊下の床を鳴らし居間に向かっていく。

暫く歩けば長い廊下の端から若緑の髪を靡かせながらこちらに向かって歩く女性が一人。ここに来て見たことの無い綺麗な人に少し疑問を抱く花菜。


「おはようございます。」


「あ、おはようございます……?」


その女性は惚れ惚れするような美しい姿勢で会釈をする。そしてそのまま花菜の横を通り過ぎ、さっきまで花菜が居た部屋に向かっていった。


誰なんだろうあの人?

なんか普通にこの家の間取りを知っているみたいだし、お手伝いさんって訳でもなさそう。


疑問が残るも腹から無視の声が鳴り響き、恥ずかしくなった花菜はそこから急いで居間に向かった。

もうその頭からは、さっきの女性のことなど綺麗さっぱり消えている。


花菜が去った後を見つめる美しい女性。

ハシバミ色の目を猫のように細め女性は静かに笑って目的の男の元に向かった。


「――家庭教師……ですか。」


「ええ、昨日もお伝えした通りクロには勉学作法全てを学んでいただきます。」


目の前でニコニコ笑うのは、今朝何故か私の布団にいた変態である。

しかもコイツは昨日私にいきなり婚約者宣言したヤバいやつでもあり、ぶっちゃけ初期から好感度はマイナス振り切ってたのにさらにどん底まで行った。

ある意味すごい変態だ少しだけ敬意を払いたい。でも絶対に婚約者の立場を降りると神に誓う。


「はぁ……」


「おや、気の抜けた返事ですねぇ。」


そりゃある意味花嫁修業みたいなやつを好きでもない奴の為にやるとかとんだ罰ゲームだやる気など毛頭起きやしない。


「しかしコレは決定事項なのでしっかりと励んでくださいね?」


「はぁ……」


2回目の気の抜けた返事にも微笑む男。

その様子をを見て私の体に強烈な寒気を感じ、ブルりと体が震えた。

いつもならば必ずと言っていいほどお仕置という名の嫌がらせをしてくるのに、この男に一体何が起きたんだ!?頭の病気か!


「なにか失礼なこと考えている気がしますがまあいいでしょう、入ってきてください。」


変態が後ろに向かって呼びかける。

スーと障子が開かれ、柔らかで優しい声が聞こえその声にハッとした。


見えた髪は若緑、猫のように細める瞳はハシバミ色。

そこに居たのは美しい女性で、花菜は驚きで目を大きく開けた。


「今日から貴女の家庭教師になる、恋夏れんなだ。」


「恋夏と申します、クロ様宜しくお願いしますわ。」


これが、私と恋夏の最初の出会いになる。



****


「それではあとはよろしくお願いします。私はこれから仕事ですので、クロも頑張ってくださいね。」


「はぁ……」


「はい、お任せくださいませ。」


変態はそのまま部屋の障子を閉め、部屋から姿を消す。

今ここにいるのは花菜と恋夏だけになった。

ここで普通ならば沈黙と気まずさで人は意心地が悪くなるはずだ。現に恋夏は少しソワソワしたかのように花菜を見る。しかし花菜は残念ながら普通ではない。故に別のことを考えていた。


あの変態、仕事してたんだないつも居るから分からんかった。


なんて馬鹿なことを考えてワナワナと震えて驚愕し、恋夏さんの様子に気付かず考えをめぐらす。

あまりの男の低評価に全米が泣かない瞬間である。


「馬鹿な、あの変態はどうせろくに働きもしないで遊び呆ける会社の会長ポジだと信じていたのに……」


「あの、クロ様?」


「イケメンでしっかりとした仕事持ちだと。瑠さんの立場が……!」


ついでに瑠にも飛び火し、何処からかクシャミが聞こえたような気もしなくもない。


「クロ様!!」


「はぁい!」


うぉおびっくりした。耳元でいきなり大きな音が聞こえたせいで鼓膜がキーンとする。

私は声の出た方向を見ればこっちを涙目で見る恋夏さんの姿が見えた。


「あ、あーえっとなんでしたっけ?」


「ですから!クロ様との初のお会いですので自己紹介をと言ったのです!」


「あー、そうでしたか!」


すみません、あまりの驚きで聞いていませんでしたあんな変態でも、世の中渡って行けることに驚きが隠せなくて。

素直に謝れば呆れたような顔でこちらを見てくる恋夏さん。


「コホン、それでは改めまして。私は恋夏と言いますわ。国立女学院の出で教鞭の資格もありますのでご安心を、勉学作法をこれからクロ様に教えていきます。」


「これからよろしくお願いします。……ところでお聞きしたいのですが、なぜ私をクロと呼びのです?」


「ああ、それはお方様からクロ様とお呼びするように仰せつかっておりまして。」


あんのクソ男ぉぉぉぉ!!!!何勝手に人の名前改名してんだあの変態!!

いい加減あいつをどうにかしないと私が血圧で死んでしまいそうだ!


怒りで頭を抑える花菜を見て、恋夏はドン引きしていた。

だが、薄々恋夏はクロという名前が本名でないことに気づき始め、焦り始めていた。


「わ、私の名前は花菜って言います、次からは花菜って呼んでくださいクロじゃないですからね?」


「は、はい。」


こうして花菜と恋夏の間に壁ができてしまいこの後の3日間よそよそしい態度になってしまうが、その全ての原因が変態ことお方様にあることに気づいた後の2人は嫌がらせに近い復讐をすることになるが、それはまたのお話。



****


それから1週間が経つが、未だに脱出の目処は経っていない。

理由としてはとにかく変態のガードが強すぎて脱出不可能になっているからである。


そこで2日前、私は脱出の手がかりを探すのではなく変態の目的を探ることにしたのだ。

しかし私一人では不可能。そこでここ1週間で仲良くなった恋夏さんと共に勉強の合間を縫ってあの変態を探ることにしたのだ。

そう、目的を達成するには相手を知る所である、大変不本意だが。


「やはりそう簡単にしっぽは出さない……か。」


「そうですわね、あの方は私達にも自分のことを話しませんから。相当用心深いのは確かですわ。」


花菜と恋夏のふたりは、使用人に見つからないようコソコソと動き回っていた。

特に調べるところは男の部屋とよくいる部屋であるが一向になにも見つからずである。


「それにしてもこの鈴は別何かしらの細工がある訳では無いんですね?」


「ええ、ただのお飾りですわ。」


それは良かったがあの野郎、まさか本当にそういう趣味を思っているなんて……


恋夏さんが言うには、首輪の方はあの変態でなければ解くこともできないらしく神族の恋夏さんでも解くことのできない特注品で相当お金がかかるらしい。

それと恋夏さん情報によればあの変態だが、実はこの国の宰相らしくかなり優秀なやつで神通力も普通の神族よりも相当強いらしい。

本気で瑠さんの立場が消え入りそう。

そして最も気になるのが……


「つまり、あの変態は古代の技術復活のために落ち人を各国からさらっているってこと?」


「ただの噂程度、そう思っていたのですが花菜様や私の状況を見るに本当かと思いますわ。」


恋夏さんの状況は私と同じでこの家から出られなくなっている。

と言うのもどうやら私との仲が良くなりすぎたせいらしく、私の逃げられる確率を下げるために一緒に監禁されたとの事。


「全く、心の狭いお方ですわ。だからおモテにならないのですよあの変態。」


「……その前に犯罪者だけどね。」


恋夏さんって、ここ1週間関わってきたけど天然なところがあるんだよな。あと結構な毒舌。まあでも事実なので否定的なことは言わない。


「……さて今日はここまでにしてお勉強のお時間ですわよ花菜様。」


「はーい……」


今日も成果を挙げられることなく終わってしまい、2人は部屋を出ていくその時花菜は棚に置いてあった花瓶を少し動かしてしまったが、気づくことなく出ていってしまう。


カチリと誰もいなくなった部屋に響く何かが嵌った音。すると壁紙が消え、そこに現れたのは閉ざされた大きな


その扉のプレートに日本語でこう書かれていた。


『帝国直属重要研究施設所』と。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る