第32話 「ドS野郎か変態か」

目の前の天井は、全く知らないもので私は思わず声を出した。


「あ、コレが俗に言う『知らない天井だ……』ってやつだね。言い損ねた……」


しかし直前まで見た夢、近ずいているってどういうことなんだろうか?

カサっとした喉の乾いた感触がとても不快で、周りを見渡す。

飾りとかはあるけど少し質素な部屋で落ち着く感じだ。


「何、コレ……?」


しかしふと首あたりに喉の感触以外にも瑠さんがくれた首飾り以外の何かが嵌っている。

だが首元では見えなくて立ち上がろうとした時、障子が開かれ驚いてみれば美しい微笑みをした男に思わず顔を顰めた。


「おやおや、起きたんですね良かった。心配してたんですよ?こんな大怪我して、3日間もお眠りになられてたんですから。」


白々しく心配する男、しかしその目には嘲りが含まれていて微塵も心配してないのなんて丸わかりだった。


「お陰様で、ですがこうなったのは貴方のせいなんですがね。……もしかしてたった三日程度でお忘れに?私よりも先に医者に見てもらった方がよろしいのでは?」


要するに、お前がやったんだろうが3日経たないうちに忘れるだなんてお前さては馬鹿だな?という意味である。

私はワザとらしく心配してますよ風に嫌味を混ぜていえば、男の笑みは深くなる。


男は手を軽く掲げ、その手を握れば不意に一瞬だけ私の首元がしまって噎せてしまった。


「――ウッ!?ゲホッゲホッ!!」


「ああ、言い忘れてました。もうお気づきかもしれませんがあなたの首元につけたその首輪、名前を『服従の縄』と言いまして、それをつけられた人物はつけた人物に服従してしまう大変良いものでしてね。逃げれず何も出来ない貴女には大変お似合いですよ?」


「ハァ、ハァ……悪趣味がッ!」


咳き込む私の近くに膝をつき、ニヤつきながら私の顎を引いて言う男の趣味に私は悪態を着く。

なんちゅーものをつけてくれたんだこのドS野郎、趣味が悪いにも程がある。

私は男を睨み続けるが爽やかに躱されてさらにイラついた。


そんな私の様子をニヤニヤしながら見ていた男は懐から鈴を取りだし首元に当てればチリンと小さな音が鳴り、にこやかに言う。


「この鈴とか、貴女にいいと思うんですがどう思います?」


「控えめに言っても最低ですね。」


「そうですか!私もいいと思ってましたのでつけて差し上げますよ。」


「ッ――!」


グイッと首についてる首輪を引っ張られ息苦しくなる。

カチッと音がなったかと思えば乱暴に離され鈴が軽やかに鳴り響く。


「貴女に赤い首輪にお似合いの金の鈴、まるで黒猫のようですね。」


「誰がっ!」


「いい加減立場を弁えたらどうです?良いですか、貴女はここからもう出られないのです。貴女のような力のない者がこのまま生きていられるとでも?わかったなら私に媚びへつらった方が賢い選択だということをわかった方がいい。」


胡散臭い笑みを消し真顔で脅す男。

しかしそれはあまりにも正論で、私は言い返すことが出来なかった。


それに瑠さんもは私を探しているが所詮は私と瑠さんは他人。瑠さんが諦めてしまえばゲームオーバーだ。


だがそれでも私はこの男の目的が分からない。その力のない小娘1人に何故ここまでのことをする?

瑠さん曰く、この人達は古代の兵器の研究をしていると言っていたけど私にその知識なんて無い。


「……貴方の目的は一体なんなんですか?」


「……」


男は黙ったまんまで答える気などないらしいく、仕方なく私は別の質問をする事にした。


「……ここは何処です?」


「ここはあなたの居た国の隣の国で私の屋敷です。」


「そうですか。」


となれば瑠さんとの距離も相当あるな。

瑠さんが諦めるその前にここから逃げなければいけない。しかし逃げるためにはこの悪趣味な首輪を外さなくちゃいけないが、触ったところ繋ぎ目がない。

そして外した所で紅兎さんたちが勝てなかった黒服の男たち何とか巻かなくちゃいけない。


あれ、これ詰んでない?


「……てます?聞いてますか?」


「――ッき、聞いてますよ?」


焦って言うが全く聞いてなかった。

相手にもバレているのか大袈裟にため息をついてくる。


「まあいいでしょう。取り敢えずこの屋敷内だったら自由にしてもらって構いませんよ。それと欲しいものがあるならここの侍女達にいいなさい。」


「……」


そう言いながらこの部屋から変態……ゴホン、男は静かに障子を閉めて出て行く。

微かに足音がして、遠ざかっていきそして何も聞こえなくなった。


あの男がいなくなり、僅かに緊張が走っていた体から力が抜け私は布団へ落ちていく。


「はぁ〜……どうしよっかなー。」


脱出方法がわからん。

考えても出て来なくてそろそろ挫けそうだ。

協力者さえいればなんとかなると思うけど、この首輪の鈴絶対何かあるな。多分監視用のものだと思う。


その予想に何度も溜息をつくが、私は何かを忘れている気がしてならない。思い出そうと頭を抱えれば、袴の懐から黒い卵のような形のものが出てきてパッと思い出す。


「――あ、忘れてた。」


色々ありすぎて忘れてたけど、夢の中での出来事も整理しないと行けないな。


えぇとなんだっけ、まず夢の中で彼は元の世界に帰れる手段はあることを言ってくれて、それでその場所に近ずいてるってことも言ってたな。


この黒いボタンで確認できたはずだけど……

押していいものなのだろうか?この鈴、防犯カメラみたいな機能だったら困るな。


「今は、やめておこう。」


決してチキって無いよ決してね。

だってこのまま取り上げられたら困るし、そもそもこの屋敷から出ることなんて叶わないから戦略的撤退ってやつだ。

それに傷だって癒えてないし。


そう思ってくるとだんだんと眠くなってきちゃった。3日も寝たのに、まだ体力が回復してないみたいだからもう寝よう。

幸い、ここでは危害加えられないみたいだしね。


「あー……おやすみなさい。」


布団を被って目を閉じた数秒後、部屋には静かな寝息だけが響き渡った。


****


ここにいて3日が経った。

しかし何も進展がない。ここに居る人達は私と目線すら合わせてくれず話しかけずらかった。あとなんか怯えてる。

つまり此処でただひたすらに暇だったわけだ。

あの日から夢なんてみれてないしね。


「ああー、どうしよっかなー。」


1度、この部屋から出たがここは僻地にあるようで山しか見えなかった。しかも結構な山奥で断崖絶壁な所も見てしまった。

見た瞬間思ったよね、終わったって。


あと多分玄関っぽいところも見たけど、変な札が貼ってあって神族以外は開かない仕組みぽかった。


他の部屋はあまり物がなくこざっぱりしていて、お手伝いさんも毎回結構同じ顔ぶれで夜になると全員いなくなる。1度探したけど本当に居なかった。

それがチャンスだと思って出ようとしたけど、どっから現れたかわからんあの変態に捕まったよね。めっちゃいい笑顔だったほんと嫌いアイツ。


そうそしてその変態、あ、私はもうアレのことを変態って呼ぶことにした、心の中でだけど。普段はお方様って呼んでる、名前知らんし覚える気もないから便宜上で。


話は戻してあの変態だが、暇なのかどうかわからんが毎回夜には帰ってくるのだ。

最初はびっくりしたよね。だっていないと思って色んな部屋を探索してたら居たんだもん、普通に寛いでたし。


その時変な声が出たのを覚えている。

しかも笑われた、それはもうめっちゃ笑われた。

あとあの変態は私のことを『クロ』って呼んでくる。黒猫っぽいからクロだそうだ。

私は何回か名前言ったけど毎回クロって呼ぶから諦めた。


とゆう訳で、今日も今日とて進展がない。

瑠さんに早く会って心配させたことを謝りたいが、ここ出られないんだよね。


しかし傷はだいぶ痛みを引いてきている。

最初は走れない程の痛みだったが、今は全力で走れるようになった。

でも腕をあげたら少しだけピリってする。まだ完全には治ってないようだ。


「何とかしなくっちゃね。とりあえず必要なのは……」


そう独り言を言いながら私は日記に今日の事を書いていた。これが最近の私の唯一のできることだった。

情報はまだまだだが部屋の間取りやお手伝いさんの顔の特徴 、そして変態の趣味嗜好や、来る時間帯全てを書いていく。

もちろん、ただ日本語で書いたら不味いので英語で書き綴っていく。こういう時に便利だよね。


「……これでよしっと。」


日記帳と文房具を全て部屋の引き出しに閉まっておく。無駄だと思うが一応ダミー用のノート1冊も追加で。


作業用の机を片付ければ首から青い石が出てくる。瑠さんが私にくれたお守り石だ。


その吸い込まれるよな青を強く握りしめる。私はコレがあるから今日もなんとか折れそうな心を奮い立たせることが出来た。

だから、瑠さんに会うために絶対にここから出る!


「――今日はここにいたんですねクロ。」


後ろから気配もなく近ずいてくる男。

今は夜、そして私に話しかけるのは、この家に一人しかいない。こいつは間違いなく私を拐った変態である。

しまったもう帰ってきてのか。

私は急いでお守り石を服の中に隠して振り返る。


「いたんですね?」


「はい、今帰ってきたんですよ。ああ、クロただいま。」


そう笑っていう男は、私にお帰りの挨拶を促進してくる。そんな変態を私はにこやかに無視して部屋を出ようとした。

誰がお前なんかに言うか、この変態野郎!


「おやまあ、お帰りのひとつも言わないなんて礼儀のなってない子ですねぇ。」


部屋から出るために変態とすれ違えば腕を強く引かれてしまう。あまりの強さに思わず顔を顰めた。


男はそのまま耳元で囁くようにさらに促進してくる、控えめに言ってもウザイ。


「ほらクロ、おかえりなさいは?」


しかし言わなければ離す気がないらしい、だがこっちも言いたくなんかない。

暫くの睨み合いの末、男が腕を強くつかみ始めたので私は渋々負けたのだ。


「お、おかえりなさい。」


「よく出来ましたねクロ、それでは夕餉にしましょう。それと貴女にはお話がありますからね。」


お話……?またこいつは何を企んでいるんだ気味が悪い。

男はそのまま私の腕を引き居間に向かっていく。と言っても沢山ある中の一つだけど、そう思うと私はゲンナリした。理由は単純だ。私にはここのご飯の量が多過ぎるんだもん。


****


「それで、お話とは?」


この屋敷に来てから3日間、いつも通りこの変態とご飯を食べた。

もちろん最初は猛抵抗したが、首がしまったので諦めた。


「ええ、明日から貴女に礼儀の作法と勉強を教える家庭教師が来るので、しっかりと励んでくださいね?」


「は……?」


何故なにゆえ私が此処で勉強やら作法を学ばないといけないんだ?

この言葉のせいで私は混乱する。だってこいつの目的が本当に分からない。


「な、なんで私が?」


「アレ?言ってませんでしたっけ?」


男は飲んでいたお茶を置いてこちらに近ずいく。めっちゃ近い、とゆうかこの男の距離って滅茶苦茶近すぎやしないか?


私はその距離に思わず後ずさるが、手首を掴まれて動けなくなる。

そして男はいつも通りの胡散臭く笑みで衝撃的なことを言い放った。


「貴女は私の婚約者、だからですよ。」


「ひょへ?」


イマ、コノオトコナンッテイッタ?


それは青天の霹靂。私はこの変態が言った言葉の意味がわからず、そのまま泡を吹いて気絶する。


気絶する最後に思ったのは、瑠さん助けてだった。

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