敵国の参謀と近代の武器

第31話 「夢の中での再会」

ユラユラと意識が揺れ動く中で、私の体はなにかの異変を感じる。

微睡んだ意識が冴えてきて、どこか見た事のある厳かな空間でいつの間にか椅子に座っていた。

その目の前には、私が起きたことに気付かず真っ白い医者が着るような白衣を着た男の人が、ゆったりと本を読んでいた。

どこか見た事あるような顔に私は首を傾げる。


「ここは……?」


「ここは君の夢だよ。……お久しぶり、また会ったね。」


あれ、この人は確かあの時の……

不思議な夢の中で会った人だが、あの時と違いとても気楽そうでいる所だ。


男はパタンと本を閉じてこちらを真っ直ぐみる。日本人特有の黒い瞳を猫のように細めた。

周りを見渡せばあの会議室で、疑問が尽きない。


「なんでまたあなたに?」


「さあ?僕は別に呼んでないよ。君がいつの間にかここに座ってたんだ。……もしかして何かあったの?怪我してるけど。」


言われれば、まるで今気づいたかのようにズキッと頭が痛む。触れば治療したのか包帯が巻かれていて、改めて全身を見るために椅子から立ち上がれば背中から湿布のような匂いがして、あの時の出来事がフラッシュバックする。


「あっ!琥珀さんと紅兎さんはどうなったんd――いッ!?」


行き良いよく周りを見たら痛みが鋭く駆け抜けて椅子に前に踞く。

痛みまでリアルで本当に夢の中なのかがわからなくなる。


「ああ、大丈夫かい?無理をしては行けない、見たところ結構な重傷なんだから。」


「なんで、夢の中でも痛みが……」


「うーん、多分だけど現実でも体を動かしたからじゃないかな?こう、唸って動くような感じで。」


くぅぅ、ものすごく痛い。

まさか前回瑠さんが唸ってたって言ってたけどそれが理由?

暫くすれば痛みが引いて私はゆっくりと椅子に座る。


ほっと息をついてさっきまであった事を整理していく。

私が直前まで覚えているのは、敵に嵌められて吹っ飛ばされて脅されてる所までだ。

アレ?でも直前抱えられなかった?


……本当にろくでもないなあの男。


思い出せば思い出すほどむかっ腹が立つ。

私は目に前にいつの間にか置かれたお茶を軽く啜った。

暖かい日本茶を飲めば心がふっと軽くなって思考が落ち着いてきて、心が沈む。


「……でもこうこうなったのは全部、私のせいか。」


私が琥珀さん達に関わらなければあそこまで痛い思いをしなかったはずなのに。

ここまで迷惑かけるだなんて、あの時の誓いはなんだったのか。


「それはまた違うんじゃない?」


沈む思考に落ちる私にさっきまで何も言ってこなかった男が話す。

驚いて顔をあげれば、男は真剣な表情でこっちを見ている。


「ここは君の夢の中だから何が起きてたのかは一通り見させてもらったよ。事後報告でごめんね?」


「それは構いませんが……」


てかここそんなことが出来るの?すごいな最早なんでもアリなんじゃ……


「それは置いといて、アレは別に君が来なくたって火種は燻っていたんだよ。だから君がいようがいまいが結局ああなってたって事。君がそこまで責任感じて考える必要なんてないさ。だって君は最善を尽くした、それはみんなわかっているよ。それよりも君が考えることは……」


「?」


「君の恋人の神族くん。きっとやばいよ、どうするん?」


え、私に恋人なんか居ない……あ。

やばい瑠さんのこと完全に忘れてた、絶対すごく心配してるし、急いで早く戻らなくっちゃ!

ああ、でも今は夢の中だし敵に捕まってるか行けないじゃん!どうしよう!


「ほらほら落ち着いて、大丈夫きっと何とかなる。……多分。」


「うわぁぁぁぁああ!!」


あの人、落ち着かせるために言ったのか分からないけど逆に心配になってきた!


と言うか絶対敵も瑠さんの方に主力の戦力を投下したでしょ、無事なのだろうか?


「うーん、どうだろまあ大丈夫なんじゃない?なんか死んでも地獄の門こじ開けちゃいそうな性格の人っぽいし、そんなのより僕が心配しているのはそこじゃないけど。」


「何言ってるです?」


ヤレヤレと首を振る男は「なんでもなーい。」と口にして何も言わなくなった。


しかし、このまま元の世界に帰れるのだろうか?いや、とゆうかこのまま帰っていいのだろか?


うーんとうなる私に、男はぽんと手を叩いた。


「ああ!言い忘れてたけど、僕元の世界に帰れるようにあのボタンの示すところに置いてんだよね。転送装置。」


「今ここでそんな大事なこと言います?と言うかやっぱりあったんだ。」


じゃあ、どうして帰らなかったんだろう。

言葉を口にしないが、私に目は語ってしまったらしく、男は困ったような顔をして答える。


「帰らない理由なんて単純だよ。……僕はもう多くの人を殺してしまった。こんな手で、足でもう国に帰れない帰っちゃいけない。そう思ったから残ったんだ。でも君はまだ綺麗なまんま、そして僕の同郷のよしみで僕は君に元の世界に帰るための手段を教える。」


その答えは誰よりも帰りたかったであろうものの強い心の言葉だ。

私は彼も連れて帰りたい、しかし彼はもう死んでしまっているから、私ではどうにもなれない。


部屋は静まり返り私は拳を握り締めるが、痛みでそこまで強く握れなかった。


「いいんだよ僕のことは、もう死んじゃってるし。でも僕は逆に君が心配だな。」


「え、どうしてです?」


「え、だって君さ。彼との未来と自分の故郷、どっちを選ぶの?」


「そ、そんなの……」


言葉が吃ってしまう。

私がずっと悩み続けてたことをズバリと言い当てられて即答できない。


前の私ならきっと即答できた質問。

しかし私の脳裏に浮かぶのは笑うあの人で、頭を抱えてしまう。


「私、どうしたら?」


お願い、誰か教えてよ。

私がいればきっとこれからもあの人を困らせ続ける。でも私はあの人と一緒に生きたい、着いていきたい。

こんな迷惑すぎる気持ちを、私はどうすればいいの?


「……僕も、その答えには答えられないや。」


申し訳なさそうに微笑む彼は、私の頭を撫でる。その行動に、どうしてもあの掌と重ねてしまって悲しくなった。このままだもう二度とあの人に会えない。必ず話を聞くって、約束したのに……

しかしこのことに彼は関係ないし、私はきっと元の世界に帰る。

だから胸の痛みもその気持ちも必死に隠して私は笑う。


「勿論、元の世界を取りますよ。私の居場所はここにはない。」


改めて口にすれば胸が酷く痛む。

その痛みは背中の痛みよりも鋭く苦しくて堪らなかった。


「…………まあ、これは君の人生だ。君が決めなさい。」


「……はい。」


「それと、もうそろそろ終わりそうだから言っておくね?君、僕の研究所に着々と近付き始めてるよ。」


「――えっ。」


ぼやっと周りが霞んで眠くなる。

ダメだ、まだ聞きたいことがあるのに!


必死に手を伸ばすが、彼は困ったように笑って最後にこう言った様な気がした。


―道は多くないから、自分の後悔が少ない道に、ね。


その言葉が最後に、私の意識は現実世界へと引っ張られて行く。


ま、待って私はまだ……


そして目の前は完全に真っ白になって、意識が完全に現実に行く。もう夢の続きは見れくなった。


畳の匂いが鼻をくすぐり、身動ぎをすれば背中に小さく鋭い痛みが走る。


「ここは……?」


私は目を開け、起きればそこは完全に知らない天井だった。



****


「あの子、大丈夫かな?」


男は厳かな部屋でお茶を飲み、心配そうな声を出す。


目の前の席には、さっきまで誰かいたのを示すかのように飲みかけのお茶が湯気を出して置いてあった。

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