第26話「締まらなかった」

貴方に主導権を握らせやしない。

そう目で言えば、男の顔は強ばり睨むようにこちらを見てくる。


「――聞きてぇことって何だい嬢ちゃん。」


男の目には警戒の色が見え、琥珀さんからは何やら期待するような目でこちらを見てくる。


さて、この男をこちらに引き込むとしよう。


花菜はそんなことを思いふっと息を吐き出して、頭を軽く傾げておどける様に言う。


「その前に、私の名前は花菜って言いますのでそちらで呼んでください。そしてあなたの名前をお聞きしても?ずっと貴方じゃ、不便ですので。」


「は?一体何考えって、まあいいか。……俺の名前は紅兎くれとだ。」


くれと、紅兎か、ふむ偽名だろうね。

そう考えながら私がよろしくお願いしますね、紅兎さん。と言えば紅兎さんはさらに警戒の色を濃くした。


まるで目には『こいつの狙いはなんだ』と言っているように思える。

別に狙いなんてない。さっきも言った通り単純に不便なだけだから聞いただけ。


それにしても、紅兎さんはポーカーが苦手なんだろうな、顔に出てるからすぐに分かっちゃう。

まあ、私は笠被ってるから顔見えないけどね。狡いとか言うな、これも作戦のうちよ!


「で、名前が聞きたかったわけじゃないんだろう?花菜ちゃんが聞きてーことってなんだ?」


その言葉を聞けば自然と笑みが出てくる。

口を静かに開き、私は優しく語りかけるように紅兎さんに問う。


「――紅兎さん貴方、自分の身内か大事な仲間。まあ、なんでもいいです大事な人を人質に取られてるんじゃないんですか?例えば、とかね?」


「え、花菜それって!?」


「……」


琥珀さんが驚くような声を上げるが男の方には反応がない。


しかし無言は肯定の意、目は口ほどに物を言う、だ。

瞳孔が開き今にも飛びかからん雰囲気を醸し出す紅兎さん、どうやら私の予想は大当たりだったらしい。


「理由をお聞きしたいそうですね?」


「……そうだな是非とも聞きてーな。」


スっと紅兎さんの手が懐近くに行くのが見えた。……武器の位置はそこか。


私は琥珀さんに目線を送り懐見れば、琥珀さんは分かったと言うかのように頷く。


「最初は小さな違和感でした。ですが紅兎さんが私たちに対してことが不自然すぎた。」


最初の擬態で紅兎さんがしていた小者のときに手を抜くなんて有り得ない。

何故なら相手はかなりの大金持ちで地位の高い人だと思われる相手。

もし小者だったら媚びるために喜んで狩るだろう、相手に覚えてもらうために。


「しかし貴方はそれをしなかった。」


それはあまりにも不自然。

違和感だと感じた大きな1歩だった。


そこからは簡単。

ただ予想と紅兎さんの様子を照らし合わせて考えていけばいいだけのこと。


つまり私は予想までしたが、『私達と歳の近い女の子』とまでは考えられなかった。

そこであの襲われた状況を思い出し、ようやく確信した。


「貴方は私たちに対して精神的な攻撃をしても、肉体的な攻撃をしなかった。それにおかしいんですよ。だって紅兎さん、言ってたじゃないですか?この任務で琥珀さんを無力化するって。私の知る限りのお方様は、そんな甘っちょろいことは言いません。必ず『邪魔者は全員殺せ』と言ってるはずです。そこが確信と至った理由ですよ。」


「……なるほどね。少し大雑把だし無理やり感はあるが、確かにその通りだ。でもな『歳の近い女の子』と考えた理由としては材料が足りねーんじゃねーか?」


空気が冷たく重くなっていく。

琥珀さんは多分何を言ってるか分からないと思うけど、ヤバいかもしれないと薄々感じているのだろう。


その通り、そう決めつけるには判断材料が足りない。かなり無理やり感のある推理だ。

しかし――


「紅兎さん、貴方は逐一私に与えてたモノがあるんですよ。」


「……何?」


トンっと自分の目元近くに手をやる指で軽く触れる。と言っても麻で見えると思えないが、格好が大事なのだ。

そして紅兎さんが私にずっと与えてたもの、それは。


「それは表情です。」


「――っ!?」


ほらまた変わった。

紅兎さんは自分の顔に手をやったあと悔しそうに笑いながらこっちを見る。


「ハハッ、確かに俺も仲間内でよく言われる弱点だったが、こうも利用されちまうなんてな。……となるとさっきの言葉はブラフってことかよ、おっちゃんまんまと騙されちまったぜ。」


「で、正解ですか?」


「ああ、もちろんだ。」


紅兎さんは大きく息を吐き出して、懐から手を離す。

琥珀さんからは緊張の色を失せ、小さくガッツポーズをし、私に親指を立てた。

その様子に笑い、私も気づかれないぐらいの小さなため息を吐いて、姿勢を正して紅兎さんに向き合う。まだ親指を立てるべきではない。


「それでこの勝負、どちらの勝ちですかね?」


そう問えば、ニッとお互いに笑いあって――


「花菜ちゃん、いや、貴方様の仰せのままに。」


紅兎さんのかしずく姿を見て勝利は決し、今度こそ、私は琥珀さんに親指を立てた。


****


「それで、紅兎さんの大事な人について教えていただいても?」


緊張した空気は無くなり、緩やかな朝が来た。

相も変わらずの部屋の現状でここの人にバレるのも時間の問題だが、今はすごく疲れたのでお茶でも飲んでゆっくりすることにした。


暫くゆっくりとお茶を啜り、話を切り出す。

これ聞かないことには対策しようも無い。


「ああ、アイツらに捕まってんのは俺の姪だ。」


「なるほど、そしてその姪さんは薬物漬けになっているのでは?」


「そこまで分かるだなんて、本当に怖えー人だな。」


わかるでしょこんなぐらい、だってここは薬師の聖地で薬物が多い。

姪さんも紅兎さんも逃さないようにするにはどちらかの、いや、違うな。……紅兎さんを逃がさないためには薬物漬けにして姪さんの羽をもぎ取るほうがいい。


そしてその人たちは紅兎さんにこう言ったはずだ。『治して欲しくば言うことを聞け』と。


「全く同じことを言われたよ、それでどう済んだ?俺は姪っ子にどんな薬を投与されたかわからんぞ?」


「何言ってるんです?ここにその判別ができる人がいるじゃないですか。」


そう言って琥珀さんの腕を引き、紅兎さんの前に押し出す。


「……へ?」


「おいおい花菜ちゃん!本当にその子で大丈夫なんか!?」


「そもそも私だって薬の種類なんて分かりません。ですがお師匠さんのところに毎日行きその薬の種類を学んできた薬師見習いの琥珀さんなら、危険な薬物の一つや二つはお師匠さんに教えられている筈です。そうでしょう琥珀さん?」


「う、うん。師匠にすごく叩き込まれたから寧ろ知らないものなんてないぐらいよ。大船に乗ったつもりで信じてね!」


その船が泥舟じゃないことを願う。

でも琥珀さんは確かにこんな感じで残念だけど、薬の知識は本物だと思う。

だってお師匠さんが捕まったあの時、症状だけで当ててたからね。


「筈って、ああもう!わーったよ、信じるよ!だからぜってーに俺の姪を助け出せよ!」


「当然、お師匠さんごと助け出しますよ。」


「当たり前みんなで助け出そう!」


覚悟を決めた3人は拳を自然と突き出し、誓った。


必ず助け出して、こんなことをした奴ら全員に目にものを見せてやると。


「――取り敢えず、今後の作戦を立てたいと言いたいところですが。残念ながらある人の許可が必要になっていきますね。まあ、私が自由に動くための許可なんですが。」


「……え、一体誰だっけ?」


おいおい、あの人を忘れちゃダメでしょ。

まあ、実際全然帰ってこないし紅兎さんの襲撃のせいで影薄くなっちゃったけど。


「瑠さんですよ、忘れないであげてください。私は瑠さんの許可がないと動くつもりがありませんからね。」


「あ、あー!」


琥珀さんは思い出したと言うかのようにポンと手を叩く。

その様子に紅兎さんと私は呆れたが、琥珀さんだからということにした。


「で、だ。鬼っ子のお師匠さん救うにしても、俺の姪を救うにしてもまだ戦力が足りんくないか?それにあそこは中々に強固だぞ?」


「だからこそ、私たちの今後にすべきことは瑠さんをどの様に落とすかで――」


「ほう?それでどのように俺を落とすんだ花菜?」


ひょえ……

声から変な音が出て空気が一気に固まる。

馬鹿な、いつからそこに?


「お前がその男の姪について聞き出してたところからだな。それで、これは一体どういうことだ?」


肩をガシッと捕まれる。

結構強い力と冷たいオーラが身に刺さり顔を見なくとも怒ってることがよーくわかった。


「マジかよ、全く気づかなかったぜ?これじゃあ俺の立つ瀬なしだな。」


汗が吹き出し、紅兎は瑠という若造がどれだけやばいのかがわかった。


(もしそいつがここにいたら俺、死んでたんじゃないのか?こんな化け物を無力化なんて不可能に近いな。つーか花菜ちゃんの番犬怖すぎだろ!)


「まあ、全て聞いてたから言わなくていいぞ?そこの薄汚い雑魚が鬼にやられたことも、花菜との交渉で負けてたことも、花菜に口説き文句を言ったことも全て聞いた。」


「え、どうしてそれを……?」


そう聞けば瑠さんは障子を顎で指す。いや、詳しくは障子に着いている御札を指した。


「あれは結界と同時に何が起きたか俺に知らせるものだ。それでお前に何が起きたのかが分って飛んできたということだ。」


それってつまり……


「「「盗聴じゃねーか!」」」


ああ、もうほんと瑠さんのことになると締まらない。


「あっっりえない!流石にないわよそれ!」


「おいおい流石にねーぜ坊主。過保護すぎだぞ?」


「黙れ、こんなことになった元凶と薄汚い雑魚になんぞに言われたくない。だいたい夜中に女性の部屋に入り込むのは変態じゃないのか?」


「うっっっっぐ!!」


「そ、それは……」


2人が仰け反る。確かにこんなことになったのは琥珀さんだし、押し込みに来たのは紅兎さんだ。


と言うかもうやだぁ、ここに居る男2人は変態しかいない。


窓の外を仰ぎみれば、太陽は既に上がっていて鳥の鳴き声が聞こえて晴れやかだったが、気持ちは一切晴れやかに行かなかった。


何故ならここにいる男ども2人は変態だったから。




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*謎時空 :ゲスト 瑠


あなむ先生:おかしい、当初の予定よりも瑠の変態度が増してやがるっ……!!


瑠:お前本当にシバキ倒すぞ。だいたい何しにきやがった、この2話俺の出番ゼロにしやがって。だいたいあなむ先生ってなんだ。


あなむ先生:いやほら、全部言ってたら長いしめんどくさいからさ。それにわざとじゃないんだよ、本当だったら襲撃の時に出すつもりだったんだよ。でもね……


瑠:なんだ?


あなむ先生:君ってなんか、キャラ動かしずらくって。当初の設定よりも相当かけはなれちゃったし。今ではただの強い変態キャラになりさがって(殴)・:*三( ε:)`д゚)・;"ゴメンナサイ


瑠:お前マジで許さん。投稿頻度下がってる癖に中身ぺらっぺらな話書いてんじゃねーよ。この話って一応恋愛モノだろうが、一切出てきてねーじゃねーか。それに新しい設定ポコポコ増やしやがって、なんだよ古い力って、なんだよ紅兎って、そんなもの無かっただろうが反省して腹切れ。


あなむ先生:君こそキャラ忘れてない?寡黙キャラどこ行ったよ?あと刺さないで痛いから、ハートのガラスだから!死んじゃうから!


瑠:五月蝿い、ハートのガラスってなんだ。


とゆう訳で応援してくださる皆様ごめんなさい。本来、紅兎はモブキャラでしたがおっさんキャラがなかなかに良くて出しちゃいました。( ´-ω- )フッ

そしてヒーロー、マジごめん。殴らないで。(´;ω;`)

引き続き『あの夏の貴方へ』をよろしくお願いしますm(_ _)m

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