第25話 「貴方に主導権なんかない」

この部屋がとても奇妙な空間に変わっちゃったな。琥珀さんが殴ったせいでボロボロになっちゃったし。

いやまあ、仕方ないっちゃ仕方ないけどね。

それにしても――


「君の主はどうして私を付け狙う?詳しい理由がわからなくても君にした命令の内容は覚えているでしょ?死にたくなかったら今すぐ話して。」


私たちを襲った男は目の前で正座して、ずっと黙ったまんまだが、死と言う言葉を聞いた瞬間にビクッと体を揺らし、恐る恐る話し始める。


「……俺が依頼人に言われた命令は、アンタを連れてくることとそこの鬼を無力化することだ。本来だったらお前さんの番犬の無力化だったが、いねーんでな。」


莉さんの時と同じようであの傭兵と同じく、命令された事自体はこの2つのみでそこまでの情報は得られない。


そしてこの男もそこまで依頼人のことを知っているわけではなく、ただ依頼料と……


「このトンボ玉を渡してきたんだ。この玉には神通力の力を最大限にまで引き出せるやつなんだが、ここまで大きのは俺も初めて見た。」


「ん?普通のサイズてどれくらいで?」


「こーんな小指の爪サイズよ。それでも国直轄の領地1等の所で豪邸は建てられる。」


そのトンボ玉は親指くらいの大きさで透明なながらに光を放ってユラユラとゆれている。


さっきの話を信じるなら、依頼主であるは相当な地位にいる人になる。ただの金持ちの人も有り得るかもしれないが、そこまで行ったら地位はそこそこ無ければいけなくなるのは、私でもわかる。


それに傭兵の人たちにはそんなもの無かったし、あの黒服の人達にもなかった。ぶっちゃけて言うならこの人はあの時の人達よりも弱いのにどうしてこの人には渡したんだろう?最初から持たせて戦っていたなら私を早くに連れていけたはずでしょ、あそこまで犠牲を出さずに。


さっきの考えに少しの違和感を抱きながらも思考を巡らす花菜。


やっぱりそこまでの価値がそのトンボ玉にあるとしたら、さすがのお方様でも量は多くないってことなんじゃ?


でもどうしてこの街についた途端このとんぼ玉をこの男に渡したんだ?


「……?」


「お嬢ちゃん?」


2人は熟考する私に不思議がって、敵同士だが目で会話しているようだが私にはその光景が見えなかった。


……もしかして、そこまでの価値があるトンボ玉を渡さなかった理由って、最初私にそこまでのからなんじゃ……?


そこまで考えれば、ひとつの嫌な考えが浮かぶ。


「まさか……」


まさか、あの兵器の現場を見られたんじゃ――?


瑠さんと私が兵器に襲われてその後の現場全て見ていたとしたら、あのお方様も私の存在がこの世界でいかに重要なのかを知ってしまったのではないだろうか?


もし私があの男に捕まれでもしたら、それこそあの夢の人と同じことに巻き込めれてしまうんじゃ。


ゾッと背筋が凍り、無意識の自分の腕を握る。


「花菜?どうしたの?」


心配そうに覗き込む琥珀さんに大丈夫と伝えて琥珀さんを一度観察する。


琥珀さんはさっきの姿からいつも通りの姿に戻っている。あの時も一体なんだったんだろうか?あの凄まじい力、風圧だけで壁がえぐられている。


生々しい傷跡にそっと目をそらす。

なんか私が泊まるところって毎回こうなってる気が……


「……大丈夫です。それよりも琥珀さんも何か体に異変は?」


「あたしは特に問題ないわ。しっかしまさか神通力そのものを殴れるなんて知らなかった!」


「いや普通は物理攻撃なんて無理だからな!?お前がおかしいんだよ、お前が!!鬼人族は脳筋だと思っていたがここまでだなんて!」


叫ぶ様にツッコミを入れる男に、琥珀さんは近ずき耳を思いっきり引っ張り何かを言ってるが聞きえない。なんかゴミとか聞こえたけど聞こえない、とゆうか聞きたくない。


この2人なんか仲良いいけど、琥珀さん関係でなんか忘れてる気が済んだけどなんだっけ?


あ、お師匠さんのこと聞かなくっちゃ。


「琥珀さん、そんなことよりもお師匠さんの事聞かなくては?」


そっと耳うちをすれば琥珀さんに手が止まる、そして――


「ああー!!そういや師匠のこと忘れてた!」


「「いや忘れてちゃ駄目じゃない!?」」


おっと私の声と男の声が被った。

目線で男が『この子大丈夫?』みたいな顔してるけど、多分大丈夫じゃない。


お師匠さん、ドンマイ。


心の中でそっと祈る私。

なんだかお師匠さんの幻影と『そう言う子だから』って微笑みながら言う幻聴が聞こえてくる。アーメン。


「うぉおい!あんた師匠がどうしてこうなったか全てを白状しなさい!言わないならあんたの手足もぎるからね!!」


「こっわいなぁ!!最近の女の子ってちょっと怖すぎない!?いきなり強くなるわ脅するわなんて、なんて野蛮な子達!」


「達とか、頭数に入れないでください。こんなか弱いのに一体どこが野蛮だと?」


「数分前に自分で言った言葉思い出して?すごく野蛮だから。」


知らんなそんな事、私は過去は振り返らない主義だから。

そもそも私たちを襲ってきた人にそんな野蛮だなんて言われたくないわ。


琥珀さんは男の胸ぐら掴んで振り回しているが、それじゃあ話せないと思うよ?


「なら止めて!!ちゃんと言うからこの猪の獣人以上に猪突猛進な子止めて!!」


やっぱりそのこのとも知っていたかこの男。だが言うって言うなら止めるしかないね。生かしといて正解だったわ。


「琥珀さん、ストップです。コレ殺したら敵の情報握れなくなっちゃうじゃないですか。」


「助けてくれてありがたいけど、君にどこがか弱いのか聞きたいんだけど?」


「やっぱ殺っちゃっていいですよ琥珀さん。」


「すみませんでした!!!」


話が進まなかった。



****


「――で、お師匠さんがどうしてこんなことに?」


先程まで荒ぶる鬼こと琥珀さんを何とか止めて、男を救出。

今は少し一息つけて話を促した。

外は暁色の空に染まり朝を迎えよとするが、未だに瑠さんが帰ってくる気配がしない。


「まず言っとくが嬢ちゃんは既にわかってると思うけど、今回のあのしろがねの薬剤師を嵌めたのはおめえさんらを襲えと言ったやつじゃない。そいつに飼われてる下っ端のやつだ。」


なんと、お師匠さんの名前って銀さんなんだね、こんなところで知るなんて。

それにやっぱり、泉さんと同じ状況とゆうのは変わりないみたい。


あの男の影響力は相当なものだ。


「その飼われてるって奴らの正体は?」


「そこの鬼っ子なら知ってるんだろうけど。ここは薬剤師の街と言われるほどの薬の聖地で、この街の上にあるあの豪華な城は、組合所の本山だ。」


「あ、ああ、それならあたしも師匠に連れられたことがある。あそこの連中ってすごく陰険で師匠にすごい嫌味言ってきてムカついた記憶があるよ。」


殴ってやりたかったと聞こえるが、本当に殴らなくてよかったと思う、お師匠さんの胃のために。


うん、でもこれで何となく見えてきた。

どうせその下っ端もその組合で相当地位のある人だということになる。

そして莉さんから聞いた話で、あのお方様とやらが以前からしていたとしたら……


「この街で作られた麻薬を密かに売るためのルートと手段が欲しかった。たしかに、この街で資格さえ持っていたらその植物を使ってたとしても医療目的だといえば怪しまれない、そこを狙ってのことだね。」


「……俺はどうしてお前さんを追うか分からないが何となくわかったことがある。アンタを敵に回したくねぇってことだ。けっ、とんだ博打に手を出しちまったな。」


男は自身のバサつく髪をかきあげる。花菜はそんな様子を見て、さっきの襲われた状況を冷静に分析する。そうして結論に達した結果、その違和感の正体に気づいた。


「……貴方、さては手を抜きましたね?今までの攻撃は全て本気ではないでしょう。それにあなたが本気で逃げようと思えばすぐに逃げれたはずです。なぜ私にここまでのヒントを与えて逃げないんです?」


「…………へっ、もはやお嬢ちゃんに隠し事は無理ってことか。」


ニヤッと笑う男は先程までの気配を一変、瑠さんに似た鋭い気配を漂わせる。

そこにいる男はさっきまでの小汚い小物ではなく、歴戦の戦士のような風格に少しだけ肌がピリついた。


琥珀さんもさっきの私の言葉に反論の意志を見せていたが、さすがに気づいたようで手を握り冷や汗をかいた。


「それで、あなたなら知ってるんじゃないですか?この件に噛んでる連中全員のことを。」


「なんでそう思うんだい、お嬢ちゃん?」


余裕の笑みが男の表情に浮かぶ。冷や汗が頬を伝わっていくのを感じながらこっちも笑みを深める。


花菜は確信した。この男はもうほとんど分っているんだと。


「理由なんて分かりきっているんでしょう?あなたほどの腕の立つ人をそうそうに手放すわけないじゃない、私ならそうする。それにだからこそ、あのお方様とやらもあなたにそれを渡した。」


そう言いトンボ玉を手に取る。未だにその輝きは衰えず、暁色の光よってほんのり染って見えた。


トンボ玉を男に見せるようにいえば、その笑みはさらに深くなりギラギラとした獣のような目でこっちを見る。


「かーっ!マジでいい女だな、お嬢ちゃんは!是非ともそのご尊顔を拝見してーもんだよ。」


「すみませんね、顔は見せられないんです。」


「そうよ!それにあの過保護すぎてウザったいあの男が許すわけないじゃない!」


いや、そういう事じゃなくて。まあいいか。

そんな様子を見て男はそうかと笑い真面目な顔になる。


「それでお嬢ちゃんの言う通り、俺はここの真黒い連中のことは知ってるしパイプもある。」


「では――」


「しかしだ、俺はそれを言ったところでいいことなんてねーし、そもそも仕事が失敗したことで俺の事を始末しようと他の連中も動くだろうな。だからさらに俺は俺の身を守らなくちゃいかなくなっちまった、全く骨折れ損ってやつだ。」


その言葉を聞いて花菜はキョトンとする。


これは、困った。さすがにそこまでは考えられなかった、一生の不覚。


たしかにこの男の言う通り良いことなんかない。寧ろさらに自分の身を危険に晒すことになる、だがこの男の情報がないとなると面倒になるのは目に見えていてさらに困った。

瑠さんが帰ってこない今、私が好き勝手する訳には行かない。


うーんと唸る花菜を見て、男はほくそ笑む。


(この嬢ちゃん、口では冷めてーことは言うがその本質は変わんねぇもんだ。何せ一応まだ敵のやつにここまでの慈悲を見せてる時点でこいつはお人好しってことになるな。)


「……たしかに、あなたの言う通りメリットはそちらにはありません。それに貴方を脅しても私たちでは逃がしてしまうのがオチです。瑠さんが居るならともかくですけど。」


「ほう?それでどうすんだ。俺の情報がなきゃアンタは困るじゃない――」


「そこでお聞きしたいのですが、少しいいですか?」


遮った私の言葉を聞いた瞬間、男の表情が変わったのを見て、花菜は心でこう思う。


――貴方に主導権なんかないですよ?小悪党さん。


夜はもう、明けた。


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