第24話 「古い力に」
最初の現象が起きてから既に1時間以上がたっている。
しかし未だにその現象が収まるどころか悪化していく一方だ。
バンッバンッ!!
ガタガタガタガタ。
「う〜、一体何なのっ?」
「これってまさかっ、ポルターガイストってやつですか?」
いや言う必要は無いか、完全にポルターガイストだ。
大きい
しかし今の今まで直接の攻撃はなく全て精神的な攻撃のものばかり、この部屋さえ出なければきっと瑠さんが施したもので安全なんだと思われる。
だがいくら安全だと言えこの現象がながければ精神が滅入ってしまう。現に琥珀さんが頭を抱えて半べそだ。物理的に攻撃できないものは全般的に苦手だと思うこういうタイプは。
「ヒック、師匠〜……」
さっきまでの強気はなくなり子猫のように布団に丸まっている琥珀さん。このままじゃやばいな、私よりも先に精神が負けてしまいそう。その前に何とかしないと。
「琥珀さん、しっかりして!」
「――花菜、ちゃん?」
私が声を大きく出したのに驚き、琥珀色の瞳をパチクリする。その姿がまるで猫のように見えてしまい、ちょっとだけ癒された。
だが直ぐにはたっと気づいて息を吐く、こういうタイプには論理的な言葉よりも心の底から願う感情的な言葉が一番いい。そして琥珀さんは姉御肌。自分より弱い子はつい守ってしまう程の強さと優しさがある。そこが琥珀さんが心を強く保てる所。でも私が冷静に対処してしまっているからこそその真価を発揮できない。
ならここで本音を言ってしまえばいい。
今私がどう思っているかを。
私は琥珀さんの手をとり微笑んで言う。
「琥珀さん……私だって怖いんです。本当はすぐに逃げ出してしまいたいぐらいに怖くて全部投げ出したいんです。
でも琥珀さんがお師匠さんを守って助けたいように、私は私の大事な友達を守りたい。だからっ、頑張って。瑠さんが帰ってくるまで辛抱しましょう。それに約束してくれたじゃないですか?
――私を『守る』って。」
心からの声は最後は泣きそうな小さな声で、琥珀から見た花菜はとても小さく、か弱かった。
最初会った時、琥珀は花菜が鈍臭くて、でも気骨あるが無鉄砲なやつに見えた。実際あんなに強そうな神族の男と一緒に旅をするぐらいだったし、あの人混みの中を臆することなく入っていたから。
でもきっと自分よりかは弱いやつなんだと、どこか気楽にそして傲慢に思っていた。
でもあの後で、花菜はそれこそ古い歴史に乗るような戦争で滅んだ人族だと聞き、なんであんなに鈍臭いのかその理由を知った。
知った時は驚いたが、自分を信用して言ってくれたのだと思い守ると言った。きっとそれは余りにも傲慢な考えだったんだろう。
だから、自分の拳が当たらないからとこんな無様に怖がって隠れて、花菜を困らしてしまった。自分と違って冷静に対処しているのを見ると、自分が恥ずかしくも感じてしまう。そしてどうしよもなく、花菜のあの強さが眩しく見えた。臆することなく前に進みあの強さに、師匠と同じくらいの憧れを抱いた。
しかし今見てみればどうだろうか?泣きそうな声で震えた手で自分を励ましているその姿は決して強いものでは無い。
――嗚呼、そっか花菜ちゃんも怖いんだ。あたしだけが怖いわけじゃないんだ。
そうだ、そうだよね。ならあの約束を果たさなくっちゃ、守るって言ったんだから。あたしが、師匠もそして花菜ちゃんも守って助ける!
「――うん。ありがとう花菜!あたしはもう大丈夫だよ!もうこんなものに負けたりなんてしないんだから!」
血が熱く、気分が高揚する。今ならなんでも出来そうなそんな気持ちがフツフツと湧いてきた。
琥珀のその言葉はその想いは、もうこの時代では失われた古き力を呼び起こす。
「琥珀さん……?」
空気が力強い重圧になり、琥珀さんの白い角は黒く染まり、琥珀色の瞳は輝かんばかりの黄色へと変わった。
その姿、その気配、まるで鬼神。
状況は、一変する。
****
古い歴史の中で鬼人族はとんでもない剛力を誇っていた。
曰く、どんな大きな岩をも拳ひとつで破壊してしまう腕力は全ての生き物を圧倒していたと。
だが、豪胆で豪快な性格同様鬼人族は完全なる戦闘種族であり、獣人族ほどのバランスの良い身体能力や神族の様な神通力も、人族のような科学力もない。
他種族程の素晴らしいものはこれといって特になかった。
この世界では、一定の力の制限がある。
この制限は世界を守るためのものであり滅多なことでは外れない強固な縛り、それを神族の先祖である神が作り、他種族の先祖たちもそれに従った。
しかしそんな縛りを、人族が仕掛けた戦争が鬼人族のもう必要も無い眠れる力を呼びおきしてしまった。
花菜の言うオーバーテクノロジーも本来は人族の眠れる力によりものなのだが、それを知るものはいない。
そしてその力を、ある1人の鬼人が目覚めさした。
まるでそれが天啓だとでも言うかのように。
当時の戦争を経験したものは言う。
――あれは最凶の鬼神だと。
その鬼神は、人族の科学による鬼人の弱点が多い対鬼人用兵器を軽々と握り潰し、戦場を駆け巡り戦場を鎮めていった。
他にも理由はあるが、その力によって最悪な戦争が終わったのは確かである。
その後のことはどんなに古い文献にも書いていない。
だがわかるのはその力は、今の鬼人族にはなくなっている、人族が滅んでしまった時から……
****
――琥珀、さん?
様子が一変、琥珀さんからはとんでもない力を感じ始める。
姿も少し変わり、目には力強い光が宿っていた。
「花菜、情けないところを見せちゃったね。でももう怖がる必要なんてない!約束したもんね、あたしが守るって。」
そういうと琥珀さんは障子に近ずき手をかける。私は開けるのだと気づいて止めようとしたが、琥珀さんの笑みを見て反応が遅れてしまった。
「ま、待って琥珀さん!!」
停止を促す声は遅く、手は琥珀さんの届く前に空ぶる。
スパンッと障子が大きく空けられれば、そこを中心に黒い禍々しい手が琥珀さんを掴んだ。
『ハハハッ!!とうとう開けたな!これでお方様にいい知らせができるってもんよ!』
「――お方様っ、だって!?」
やっぱりあの男の仕業!とゆう事は琥珀さんのお師匠さんの件でも確実に1枚噛んでいることになった。
早く瑠さんに伝えなくっちゃ!
「……どこの誰だかは知らないけど、あたしの友達や師匠。そしてこの街に手を出したあんたらを絶対に許しはしない。」
『ハッ、さっきまで子猫のように怖がていた女がよく言うわ!もう一度泣かしてやろうか?』
「琥珀さん、気をつけて!多分敵は神族の可能性がある!さっきまでの現象は全部神通力によるもののせいだと思うから、琥珀さんは早く逃げて!」
しかしその前に黒い手は琥珀さんをがっちりと掴み、琥珀さんを引きずり込む。
そんなっ、私のせいで琥珀さんが!
「琥珀さんっっ!!」
『さぁ、泣き喚いて俺を――』
「――大丈夫だよ花菜、あたしは絶対に花菜を守る!」
バシュッと何かがチゲれる様な音が室内に響き渡り、なった方を見る。
そこは黒い何かをちぎっては殴り、敵の攻撃をさらに圧倒的な力をもって圧倒してい琥珀さんがいた。
「……え?」
「ハァ!!!」
『……そんな馬鹿な!神通力で、しかも強化されている俺の術が、こんなあっけなくやられるなんて、そんなことあるはずがない!』
しかし琥珀さんの拳は黒い手を殴っては消し、蹴っては潰して消してを繰り返していた。
本当に一体何が琥珀さんに起きたんだ?
「本体は……そこだぁ!!」
『――ガハッッ!?」
最後の大きな手を殴れば、そこからコロンと小さな小汚い男が出てくる。
これが、本体?
「ひ、ひぃ!頼む見逃してくれ、俺は雇われただけなんだ!」
怯えたように琥珀さんの足元で土下座して許しを乞う小汚い男を琥珀さんが足で踏みつける。さっきまであんなに調子乗っていたのに。
なんか……すごく小物っぽいな。
「どうする花菜?やっちゃう?」
「いえ、やっちゃうのはまずいですしその前に聞きたいことがあるので。」
私はハッとして素早く男の元に行く。そしてその首筋に瑠さんが置いていった隠れ刀を当てて脅す。
「いいですか?一つ一つ質問に答えてください。もし少しでも騙したり動いたりすれば頸動脈を切ります。貴方も死にたくはないでしょう?」
「あ、あぁ。わかった俺も命が欲しい!なんでも聞いてくれ!」
怯えた男の言葉に喜んだように見せるために優しく微笑む。そうすれば狙いどうり嬉しそうに男は目を輝かして涙を浮かばせる。
そんな様子に琥珀さんは少し引いき、でも感心したような声で……
「花菜……本当はすごく強いんじゃ?」
それ、私のセリフってやつですよ、琥珀さん。
私は琥珀さんのあまりの変わりように少し冷や汗をかいたのは秘密にしておこうと心に決めた。
そしていきなり始まった戦いはイレギュラーにより一旦幕を閉じ、長い恐怖の夜は尋問へと変わったのだった。
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