第23話「約束と見えぬ恐怖」

瑠さんが出たあとも、空気が固くなっていたが暫くして、琥珀さんと気分転換で談笑中に部屋の外から瑠さんの呼ぶ声が聞こえた。


ん?こんな時間に珍しい。


障子を開ければ、外装の格好をした瑠さんが立っている。


「花菜、俺は少し出る。絶対に部屋から出るなよ?」


「え、こんな夜中にですか?」


「ああ、少し寄るところが出来た。この部屋は少し面倒だったが、俺が外から入れないようにした。この中なら安全だがら外には出るなよ。」


「はぁ……」


そう言えば瑠さんは障子を閉め、少し物音がした後に気配が遠ざかった。


外から入れないようにって、何したんだろう?


「アイツって、笠被ってるからわかんなかったけど神族なんでしょ?」


「え、ええ。よくわかりましたね?」


「ま、あたし達鬼人族にある角なかったし、獣の匂いもしなかったからね。当然っしょ!」


ドヤっと胸を張る琥珀さん。

しかしこの世界では珍しくその線はとても寸胴で、豊満な体型ではない。


生暖かい目で見れば、ばっと体を隠しムッとした目で見られ返される。


「い、言っとくけど!これからなんだからね!それに花菜ちゃんも同じようなもんじゃん!」


シャーと猫のように威嚇してくる琥珀さん。しかし聞き捨てならないことを聞いたぞ?


わ、私の方がこれからだもん。それに私の方が琥珀さんよりかはあるし!


「いーやないね!私の方がある!」


「無わけないじゃないですか!大体琥珀さんはもう18です、可能性は無いですよ!それに比べて私はまだ17。まだ1年はあります!」


「はぁ〜?言ったわね!」


そうして、決して負けられぬ女の戦いが勃発した。取っ組み合いになりそうだったが、鬼人族に勝てる訳かなく、すぐに押し倒されてしまう。

それに私は笠を取られる訳には行かないので早々に降参する羽目になった。


「ふっふーん。どうだ思い知ったか!」


「えぇ思い知りました。負けて差し上げますよ?」


何せ私は琥珀さんよりかは精神的に大人なんでね。


琥珀さんに、そう目で語ればプクーと頬を膨らまし少し拗ねたように訪ねてきた。


「花菜ちゃんはなんでこんな時間でも笠を被っているの?」


「あ、あー……顔をぉ見られたくなくて?」


「なんで疑問形なのよ。」


瑠さんよ、この笠の言い訳ってなんて言えばいいんだよ!


私の心の中では先程出ていってしまった瑠さんの顔が目に浮かぶ。

しかし何度聞いたって答えるはずもなく、ただ琥珀さんからの好奇心の目が突き刺さる。


「……琥珀さん。今私が見せることを秘密にして貰っていいですか?」


「え?ええ。」


好奇心の目に負けた私は暫くして、琥珀さんを信じて言うことを決意した。


本来だったらこんな数時間しかあってない相手を信じるわけが無い。でも琥珀さんを信じて見ることにした。


シュルっと紐を解き笠を取れば、蝋の光に照らされて黒い私の髪が見える。


「え、花菜ちゃんそれって。」


琥珀さんの反応が今更ながらに怖くなり目を伏せる。


驚愕したかのような声が先程まで騒がしかった部屋に沈黙をもたらす。


「……花菜ちゃん。」


沈黙した部屋に琥珀さんの固い声が聞こえる。無意識のうちに私の手は固く握られていた。


ああ、何言われるんだろう?もしかしたら周りにバラされちゃうかもしれない。


「――か、可愛い!!!」


「へ……?」


しかしその緊張は一瞬の内に消え去り、肩から力が抜けた。


琥珀さんは目を輝かせ私から垂れる黒い髪を見たり、頬をムニムニしだす。


「イヤーン!髪サラサラ、肌モッチりしてる!花菜ちゃん可愛いじゃん!隠すなんてもったいないって、なるほどあの男が隠したくなっちゃうわけね!でも勿体ないー!」


「え、いやあの。」


こ、琥珀さん?ずっとそんなに褒められたら照れちゃうってか、私も種族には触れないの?


「え、だって花菜ちゃんは花菜ちゃんじゃん。私のお友達なんだし、それに年下だから私の妹分ってやつね!」


妹分って、どちらかといえば私に方が精神的に上だけど。


でも、良かった琥珀さんがこう言ってくれて。だってあの兵器のこともあるし、人族は嫌われているかとおもってたけど。


「――友達、ですか。」


「そうだよ!だからこのことは絶対に秘密にする!それに花菜ちゃん凄く弱いから守るよ。約束する。」


はい、指切りね、っと差し出された指に遠慮がちに触れれば、ガシッと力強く指切りをした。


「はい、約束です。」


私はこの世界で、同世代の友人と指切りをする。


指切りをした指は少しだけ痛かったけど、その痛みすらも嬉しい夜になった。





****


「……う、ん?」


時計が丑三つ時を示すそんな時間に、私はふと起きてしまった。


変な時間に起きちゃった、琥珀さんは寝てるし。


布団に潜るが微妙に眠くならず、ぼーっと天井を眺めていれば窓から何だか視線を感じる。


ねっとりとして、それでいて恐怖を煽るようなそんな視線。


ゾワッと肌に鳥肌がたち、動け無くなったが、何とか勇気を出して目を動かし視線を窓に向けると。


部屋の外を遮断するすだれに、ぽつりと人に影があり、息が止まりそうになった。


「琥珀さん、琥珀さん。起きてください。」


私は必死に声を抑えて琥珀さんの体を気持ち強めに揺らす。

うーんと声が聞こえ、琥珀さんがムクリと起きた。


「どうしたの……?」


「琥珀さん、窓の外に人が……」


震える体を抑えて冷静に琥珀さんに伝える。しかし怯えが隠せてないのか琥珀さんの目に厳しく光をともす。


「ここって2階よね?しかも外に捕まるところなんてないはず。」


「でも居るんですっ……」


琥珀さんが窓に目を向け用としたその時、窓から大きな音が聞こえた。

2人してビクッと体が跳ねったのがわかった。


「え、え、なに?」


「まさか幽霊って訳じゃ……」


「あ、アハハそんなの居ないっ――」


〖ここを開けろぉぉおおおお!!!〗


「「きゃああああ!!!!」」


おどろおどろしい声が部屋にひびき、私たちの悲鳴が木霊する。


マジで怖いとこんな声が出るんだ私って、初めて知った。


現実逃避するがこの声をきっかけに色んな所からたたくような音がきこえて、思わず2人して飛び上がる。


「う、一体何が起きてんの?」


「りゅ、瑠さんの言う通りにこの部屋から出てれば安全なはずです。だからっ。」


ガタガタと部屋全体が揺れてんのか、私たちが震えてんのか分からないが、瑠さんの言う通りに部屋から出ないようにすること数分。


ピタッと部屋が止まった。暫く何も起きずに、琥珀さんが立ち上がって障子に手をかける。


「待ってください。開けてはいけません!」


「で、でも、今のうちに出た方が……」


「ダメです。もしかしたら部屋を開けさせることが目的かもです!今は瑠さんを待ちましょう!」


「う、うん。」


琥珀さんが納得し、障子に手を離す。

ほっとして琥珀さんの手を掴む。震えているがもはやこの場合どちらかわからなかった。


こ、こんなことになるなんて。瑠さん早く帰ってきて……!


長い夜が始まったが、私のできることは何もない。


今はただ、瑠さんの早い帰りを祈るばかりである。

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