第21話 「距離が縮みすぎた」

モヤモヤ、モヤモヤと心を燻る変な感情。


「うーん……?」


宿についたあと、瑠さんとは離れ今は入浴中。

ここの宿では湖と星が満喫できる露天風呂があるらしく、とても絶景だった。


星も綺麗だし、筋肉と筋肉が解れて気持ちいい〜。


本当、ココが日本と似てて良かったと思うポイントはお風呂に入れるってところだね。


「うあ゛あ゛あ゛〜。」


ぐいっと体を伸ばせば一気に脱力する。これが堪らないのだ。


しかしそんな心の洗濯とも呼べる大事な入浴時間でも、この気持ちが薄れることがない。


「もぅ〜、琥珀さんが変な事言うから。」


そもそもなんでこんなことになったんだっけ?ああ、結局全部の始まりって琥珀さんだ。

いやでも、琥珀さんが石投げなかったら同世代の女の子と話すこともなかったのか。


なら感謝しなくちゃね。


「とはならんよなぁ!」


いやダメじゃん。石投げちゃダメじゃん!

危うく死んじゃうところだったよ、頭潰されて!


「……あー、もう今日は出ようかな。」


しかし、琥珀さんに言われたことが気になりすぎて瑠さんの顔が浮かぶ。

考えても仕方ないこと、もう瑠さん本人に聞いちゃえば早くない?「私の事どう思ってんのか」って。


そうだよ!もう瑠さんに聞いちゃえばいいんだよ悩むくらいだったら!


「よし、ちゃっちゃと出て聞きに行こう。」


花菜は考えることを放棄し、後に瑠の頭を困らせてしまうことに、まだ気づかない。



****


「――ああ、花菜もう出たのか。今日は早かったな。そこは気をつけろよ。」


「今日はちょっと瑠さんに聞きたい気とがあって、早めに上がったんです」


「俺に?」


入浴後、瑠さんの元に急いでいけば、案の定瑠さんは先に上がってた。


今はなにやら武器のお手入れ?って言うことをしているのか結構部屋が散らばっている。


「何かあったのか?」


瑠さんは少し怪訝けげんそうな顔をし、体をこちらに向け、聞く体勢に体を直す。


「はい実は……」


先程琥珀さんと話して、ある質問で私もわからなくなってしまったことを話した。

因みに質問の内容は言っていない。困ったとだけ説明した。


「いや、それよりも俺は花菜がどんなことを話していた方が気にn――」


「それでひとつ瑠さんに聞きたいんですが。」


「俺の話も聞こうか?無視するのは良くないと思うが?」


おっと?よく人を無視してるゴーイングマイウェイの人がなんか言ってる。


が、無視だ。


「ひとつ聞きたいんですが!」


「……なんだ?」


「瑠さんって私の気とどう思ってますか!?」


「ゴッフッッ!!」


え、なんか吹き出した。イケメンフェイスが勿体ない。そういやつくづく行動で忘れてたけどこの人イケメンだった。


残念イケメンは本当に残念なんだな。


「大丈夫ですか?」


「ゴッホゴッホ……だい、じょうぶ、だ。そんなことよりも花菜お前、一体なんの質問をされればそうなるんだ?」


「え、琥珀さんに聞かれて私も気になっちゃったんです。」


琥珀が質問した内容は「どういう関係」であり、「どう思ってるか」では無いのだが花菜は悩んでいるうちにこうなってしまったのだ。


「質問の答えになってないし、あの女……」


完全なとばっちりである。しかし遠くない未来でどうせ聞くと思うので早いか遅いかの違いであり、好奇心は身を滅ぼしたのだ。


瑠さんは少し考えて、こちらを見る。


「俺が花菜をどう思っているか、だっけな。」


「はい、でどうなんです?」


「花菜は、面倒ごとによく首をを突っ込んだり、幼児並に体が弱いし、よく口より手が出るやつでなかなか目が離せん奴だ。」


「ウグッ。」


またそれで弄られた!しかしこう聞くと私って凄い瑠さんの足を引っ張ってるなぁ。

なお、暴力に関しては瑠さんにも責任があるので無視である。


でも少しは凹む、瑠さんに甘えてばっかだな私って。


聞いたところでモヤモヤはより一層強くなり、聞かなければよかったと後悔していた。

少し泣きそうになり顔を伏せる。何だか最近は涙腺が緩くてたまらない。


「――でも、俺は花菜のことが大事だし守りたいと思っている。」


え、?


思わず顔を上げれば優しく微笑む瑠さんと目が合う。


いつの間にこんなに近くに……?


「瑠さん?」


スっと、瑠さんの手が私の頭を撫でる。ふわりと優しく頭を撫でる瑠さんの手は、ゴツゴツしてて大きくて、温かい大人の男の人の手だ。


撫でられるのが最近好きになったのか、目を細める。


「花菜は俺の大事な仲間だ。だから俺はお前を助けたい。」


――助けたい。


その言葉はモヤモヤっと燻る私の心に柔らかく染み込んで心を軽くした。


完全に無くなったわじゃない、でも少なくとも心は楽になる優しい言葉。


「花菜は?俺をどう思ってるんだ?」


私が、瑠さんをどう思っているか?

そんなの……


「……わた、しも瑠さんのこと、大切な人だと思っています。」


そう、例え滅茶苦茶失礼で空気が読めなくて他人の話を聞かない人でも、


「私が1番安心できる人です。」


聞けてよかった。


心からの笑みがこぼれ、瑠さんからの音が無くなる。


「花菜……」


ふっと瑠さん手が頭から無くなり、私の頬に触れた。


「瑠、さん?」


そして私と瑠さんの距離が縮まり、目の前に瑠さんの顔がある。


え、これって……


私は目を瞑り、距離があと数センチしかないぐらいに近ずいて――


「きゃあああ!!!!」


下から悲鳴が聞きえてきた。


「――ッ!!瑠さん今のは悲鳴じゃ!?」


私は急いで立ち上がり障子を開けて瑠さんの返事も聞かず置いていくように出ていく。


え、ちょっと待って。今の何!?今私と瑠さん何しようとしてた???


頭が冷静になり、状況がわかってくる花菜。


下に行くスピードが上がる。段々と自分が何しようとしたのかがわかると顔全体が熱くなった。


「心臓が痛い……」


赤くなっているであろう顔を隠して、逃げるように声の元に向かっていった。




****




一方その頃、瑠はと言うと。


自分が何をしでかしかけたのかがわかり、自責と恥ずかしさと怒りでうずくまっていた。


しかし瑠は気持ちを切り替えるように直ぐに立ち上がり、必要最低限のをもって花菜を追いかけた。


「……知ってた。こうなるって知っていたさ。そもそも風呂上がりで男の部屋に来た花菜が悪いんだ。……くっそ。」


前言撤回、全然切り替えていなかった。

むしろ残念とすら思っていた。その証拠に3回ぐらい舌打ちしている。


残念イケメンの称号は伊達では無い。


花菜を追いかけるように部屋から出ていく瑠の耳は赤くなっていた。

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