第20話 「落ち着かない」

薬の匂いをさせる男の人について行けば、そこはやはり薬屋だった。


「本当にすみません。まさかこんなことを仕出かすとは思わず。」


「言い訳はいい。さっきの衝撃で手を擦ったから手当をしたい、薬をよこせ。」


男の人は謝るがピシャリと言い放つ瑠さん。ちょっと態度は悪いけど、確かに瑠さんが居なかったら死んじゃってたかもだし仕方ないよね。あといつもの事だし。


「ちょっとあんたねぇ!確かにこっちも悪かったけど言い方ってもんがあるでしょ!」


しかしこちらはそう思ってないようで、瑠さんに掴みかかった。いやと言うか。


「……そもそもお前のせいだろうが。」


「はあ、あなたって子は。」


「な、師匠までぇ。……すみませんでした。」


うん、まあ、そうなるよね。この室内でとても微妙な空気が流れてしまった。女の子泣きそうになってるし。

しかしいい加減そろそろみんな突っ込もうよ。


「あ、あの瑠さん、いつまでも抱えているつもりですか……?」


この店に入った時からずっと、そうずっとだ。いつまで抱えているつもり、いや腕力が凄いな!


そういえばと気づいたかの様な反応を見せる瑠さんは椅子に座らせてくれた。

ようやく一息つけたような気がする。


「ああ、すまない忘れてた。それに大丈夫だ、そこまで重くない。だが少し太ったか?」


ほっと一息つく私に聞こえるありえない一言は、さらに空気を固くさした。


はい?今この男なんて言った?


「……このサイテー男!!相も変わらずのデリカシーのなさですねこの変態!!」


「な!?なんでそうなる!!」


「君、さすがに今のは……」


「ありえない。普通女の子にそんなこと言う?デリカシーないわー。」


椅子から立ち上がり、瑠さんの背中を押す。だが力の差で勝てるはずもなく、ただ押し問答になってしまった。


「おい、花菜?何する。」


「先に宿でも探してきてください!このサイテー男。しばらく顔なんて見たくありません!」


しかし返ってくる言葉は嫌だの、ダメだのの否定の言葉で埒が明かない。


だがここで、さっきから怒られていた女の子が動き出した。


「よし、私も手伝うわよ!その男ムカつくし、あなた名前は?私は琥珀こはくっていうの!」


「え、ほんとですか!わたしは花菜って言います。琥珀さんお願いします!」


「はぁ!?」


琥珀さんは満更でもなさそうな顔をして「よーいっしょっと!!」とゆう掛け声で思いっきり瑠さんを押し出した。

ついでに何故か琥珀さんのお師匠さん?も追い出した。ポイッと投げるような感じで。


「くっそ馬鹿力め!!」


「こら琥珀!なぜ僕も!?」


「師匠、花菜ちゃんの手当は私がするからあの件認めるまで散歩してて!!」


「瑠さんも頭冷やしてくださいね!!」


バタンッッ!!と扉は固く閉め、私たちはお互いの顔を見合わせて笑いあう。なんだかこの人とは気が合いそうだ。



薬屋は、火事場の馬鹿力を発揮した女性陣に占拠さてたのだった。





****


「えぇ〜、デリカシー無さすぎでしょあの男!」


「そうなんですよ!毎回毎回失礼なことばっかですし、盗み聞きはするし!本当にサイテーなんです!」


暫くして、手の手当(と言っても軽傷)が終わったあと。少し頭が冷めてお互いが気まずくなり、私はつい瑠さんの話題を出してしまった。


しかし思ったよりも食いついてきてそのままヒートアップ。現在はお茶とお菓子を用意して女子会を始めたのだった。


話題は主に愚痴である。


「私もさぁ、軍部の薬師になりたのにさぁ師匠が認めてくれないの。」


「どうして琥珀さんは薬師になりたいのです?」


「そ、そりゃあ。し、師匠を追いかけたくて。」


何だかモジモジして、先程よりもいきよいが無くなる琥珀さん。おや?もしかしてこれは。


「もしかして琥珀さんって、お師匠さんのことが好きなんですか?」


「――ッそうな、の。変かな?」


「そんな訳ありませんよ!好きな人のためにがんばる人を、私は笑いません!」


「だ、だよね!年が離れてても良いもんね!だって師匠は独身だし!」


おっと、名前も知らない人の色事情を知ってしまった。なんか、すみませんお師匠さん。

そういえば、ここの成人っていつからだろう?前、瑠さんは私を未成年ってしっかり言ってたけど、実際は知らないな。


「ん?ここの成人は20からだよ。だから私はあと2歳で成人ってわけ!でもそんなこと聞くなんて、変だね花菜ちゃんって。」


「あんまし変わらないのか。あ、いえ。ありがとうございます!」


そんな変じゃ、って変か。

この世界では普通に知られてることなんて聞かれても変な反応されるに決まってるよね。


「まいっか!そんなことよりも……」


「え?」


「は・な・ちゃ・んはぁ〜?どうしてあの男と行動してるのー?もしかして恋人?」


「い、いや違いますよ!」


あれ?なんだか同じ質問をされた気がするんだけど。なんでこんなに同じ質問されるんだろう?


「え、だって凄く仲良いし距離も近いんだもん。むしろ恋人同士じゃないだなんて不自然でしょ?」


「そ、そんなことは……」


「じゃあ、花菜ちゃんとあの男の関係って何?」


私と瑠さんの、関係……?


考えたことはあんまりなかった気がする。ずっと自分の帰る方法ばかり考えていたからかな。


前だったら確実に答えられた。もっと早く言えた。


――『ただの保護者で旅仲間』だって。


でも何でか、そうじゃないって思ってる。


「……わかんない。私と瑠さんの関係って一体何なの?」


「え?」


「なんで、こんなに悩むんだろう?」


頭の中では色んな出来事が巡っては消える。

気持ちがザワザワして落ち着かない。


「ねえ、それって――」


「花菜、もう宿は見つけた。行くぞ。」


「そろそろ説教時間かと思って戻りましたよ、琥珀。」


「瑠さん……」


「あ、師匠!?」


結局、琥珀さんが何を言いかけたか分からずじまいだった。


あの後すぐに店を出て、琥珀さんとはまた会う約束をして宿に向かう。


瑠さんは何も言わずに素直について行く私を不審がった。多分だけど拗ねてると思っていたんだろう。

しかし私はそれどころじゃなかった。ずっとずっと考えていたけど、答えは出なくて歩く。


その間もこのザワザワした気持ちが消えることは、なかった。




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