第17話 「それは誰の為の犠牲?」
ピタリと頭スレスレに止まった光る剣の風圧で笠がとぶ。私はあまりの風圧に戦慄した。
機械は完全に私を捉えその視点を逸らさない。
だが、どうやら私は賭けに勝ったらしくこちらに攻撃を仕掛ける気は無いようだ。
そんな事を頭の片隅で冷静に考える自分がいる。が本当はめちゃくちゃ怖い。体が勝手に震えるほどには。
「――なんででてきた、花菜!」
私の後ろから瑠さんの声が聞こえる。酷く怒ったような、焦ったような声。
でも私は振り返らずに言う。その間もじっと機械を見つめ続けた。
「あのままでは瑠さんは確実に負けてました。それに勝ったとしても、大怪我は免れなかった。だから一か八かの賭けに出ただけです。……別に瑠さんが弱いわけでも、油断していたわけでもありません。ただ相手を知らなすぎただけなんです。私含めて。」
そう、知らなすぎた。よく行く考えればこの世界の全体の科学力は江戸時代によく似てる。銃はあってもその威力はお粗末、みたいな。
だから普通は分かるわけなかった。昔にあった戦争で使われた兵器とはいえ、目の前の機械のような兵器を作った人達は皆いなくなってる。つまりそれに慣れている人は誰もいないわけで、どうやって対処していいかわからなかった。
だからこそ、この世界には昔に作った兵器が今なお動き続けている。
明らかなオーバーテクノロジー。元の世界にあるかどうかも分からない高度な技術力。
私も分からないはずだ。だってそんなも空想の世界にしか見た事がなかったもの。
「……でもすみません、勝手に飛び出して。後悔をするつもりはありませんが、本来ならあなたの言葉を信じて待つべきでした。結局私はあなたのお荷物ですね。」
震えを何とか抑えて、振り返る。瑠さんは焦った顔をしていてこちらを見ていた。
「……もし賭けに負けていたら、お前はどうするんだ。」
「その場合は、瑠さんと同じようにやられるか、私だけがやられていましたね。」
「お前は――」
『対象ノ種族識別ヲ開始……完了致シマシタ。人族ト認定。コレヨリ対神族用排除プログラムヲ終了シ、強制終了致シマス。尚コノデータハ、アト五分後デ強制削除致シマス。削除サレタデータハ復元サレマセン。』
「え?/は?」
そう言うとそのまま機械は停止したかのように止まり、そこからは一切動かなくなった。
後に残ったのは私たちは固まったまんまどうすることも出来ないでいた。
一体何が起きとるぅん?
****
「……瑠さん、一体何が起きてるんですか?」
「俺が知るわけないだろう。カラクリ学には明るくない。」
へぇ、ここではカラクリ学って呼ばれてんだ、ふっしぎー。じゃあねぇ!まじで一体何が起きてんだ!
「え、さっきの言葉を聞くならばもうこの機械は動かなくなったって言うことですか?」
「多分だがそうだろう。……それよりもだ」
瑠さんの声が低くなり肩を思いっきり引かれる。見れば顔はとても険しく、一目で怒っていることがわかった。
あ、やべ。そう言えばさっきはとんでもない事を言っちゃったかも知れない。
「あ、あの、瑠さん、ごめんなさい。」
「……それは何に対しての謝罪だ?」
「え!?いや、その、勝手に飛び出した上に、心配させてしまった事への、謝罪です。」
段々と声が小さくなっていき、最後は聞こえるか聞こえないかの小さな謝罪になっていった。
「お前は、もう少し自分を大事にしろ。」
「はい。」
「花菜は自分が死んでもいいと思っていると思うが、少しは周りをよく見ることだ。」
「――ッそんなの瑠さんだって同じでしょう!私だって怖かったんですからね!」
「しかし、あんなやり方じゃなくとも良かっただろう!」
「うっ、でもあのまま飛びだだなかったら瑠さん絶対に怪我をしてました!最悪の場合は……」
最悪の場合を想定して私は震えが止まらなくなった。瑠さんも流石に思うことがあったのか、頭に軽く手を置く。
「わかった、俺も悪かった。」
「……」
「すまない、少し焦ってしまった。花菜には怪我をして欲しくなかったからついつい怒鳴ってしまった。本当に済まない。」
「……私の方こそごめんなさい。次からは気をつけます。」
「ああ、そうしてくれ。今回ばかりは俺も肝を冷やしたぞ。二度とあんなことをするな。そして暫くはおやつ抜きだ。」
「は――え、ちょっと待って瑠さん話し合いましょう。まだ分かり合えるはずです!」
「とりあえずもう疲れていると思うから休め。自分の命を顧みるやつと話し合うことなどない。」
「りゅ、瑠さん!?瑠さんちょっと待ってーーー!!!」
瑠さんは私の方を見ることも無くスタスタと歩いていく。背を向けているが黒いオーラは隠せないようで、ものすごく怒っていることがひしひしと伝わる。
ああっ!!待ってお願い!この世界で唯一の楽しみなの!!!待ってーーー!!!
その後何とか説得しようとするが
因みに3日ぐらい抜きにされる事となるのを、私はまだ知らない。
****
しかし先程のこともあって寝れなくなった私は、瑠さんと先程のことについて話し合った。
「――この世界では私はしっかりと人族と認識できるみたいですね。」
「ああ、しかし何故いきなり攻撃をやめたんだ?普通、人族が戦争にもちかけた武器ならば花菜を守護してもおかしくなかったのでは?」
「分かりません。こればっかりは作った人に聞くしか。」
「そうだな、だが一つだけわかったのは人族がいればあの機械についての脅威は無くなるってことだけだな。」
まあ、そうなのだ。私を見ていきなり強制終了したのだから、人族、それも〘落ち人〙を見ればすべての機械は動かなくなるだろう。
「しかしそれはまずいな。花菜この事は黙っているよに、国にバレたらおいそれと返して貰えなくなる。」
「え、何故ですか?」
「簡単だ。今ま目の上のたんこぶみたいな存在が無力化できるとなると、国にとっては重要になってくる。保護されて死ぬまで使わされるだろうな。」
「確かに、それは困ります。」
私には向こうでの日常がある。いきなり居なくなった私を心配している家族だって、今なお寝る間を惜しんで探しているかもしれない。
「……ああ、だからもっと用心するように。お前に関係ない事に責任を持つ必要は無い。また同じ真似はするなよ?」
「あっ、はい。」
まだ根に持っているな。しかもおやつのことも無視されているし、これは暫くはネチネチ言われるんだろうなぁ。
しかし関係ないこと、か。多分だけどあの機械に知識を入れたのは元の人の可能性が高い。
だから完全に無関係とは行かないだろう。
私は不思議だった。この世界でここまでの機械を作り上げるほどの科学力、そして完全に趣味としか言いようもないあの兵器。
それを創った人を仮に元の世界の人だとすれば、何故ここまで時間に違いがあるんだろう?そしてその人は元の世界に帰れる方法を探したのだろうか、と。
「よし、もう寝よう。明日早いし。」
いきなり異世界のファンタジーからSFになっちゃったな。と死んだような目をして目を瞑る私は、考えを放棄した。
私が思っている以上に、この世界では大変なことが起きていることを薄々と感じながら、不貞寝した。
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