鬼人の薬剤師とコウモリ
第15話 「ファンタジーとフラグ」
山道を歩き3時間、道が険しすぎて挫折しそう。なんだあの急斜面は、登り切ったが代わ
りに気力を大分消費したぞ。
「花菜大丈夫か?」
「だい、じょうぶだと、ほんきでぇ、思うんですか……」
瑠さんは相も変わらずピンピンしている。おかしい、こんな山道でなぜそんなに元気なんだ。
「鍛え方が違うからな。……そろそろ休憩しよう。」
やったー!休憩だー!!かれこれノンストップで歩いていたからようやっと休める!
「――ッはぁー!お水が美味しい!あと何時間ぐらい進めば中継ポイントに着きますか?」
「まあ、この分なら予定通りに進みそうだ。あと7時間だ。」
7時間?今この人は7時間って言いましたか?ただでさえ、3時間も歩いたって言うのにそれからさらに7時間歩くの?死ぬのでは?
「それぐらいでは死なんぞ?」
「わかってますよ!」
肉体的死ではなく、精神的な死でだよ!
「と言うかこんなに歩かなくとも、瑠さん飛べるんですよね?飛んで行った方がいいのでは?」
「いや、あれは相当に力を使うからあまりやりたくはない。それに運動しないと太るぞ?」
「口の利き方には気をつけた方がいいですよ?次言ったら許しませんから。」
ほんっとに失礼な人だな。普通言うか?でも確かに運動はした方がいいかもしれない。
「それにしても、動物の類の生き物が見えませんね。てっきり熊でも出そうな気がしましたけど。」
「いるにいるが、そもそも熊は臆病な生き物だ、そうそう出てこない。それよりも警戒すべきものは他にいる。」
「?熊とかの野生動物以外に警戒するもの……盗賊とかですか?」
「それもだが、それは既に排除済みだ。……一番警戒すべきものは、人族の作った『対識別式機械兵器』の残りものだ。」
「ナンデスカソレハ?」
思わず片言になってしまった。いや、ほんとに何だそれは。
この世界にそんなものあるって瑠さん言ってませんでしたよね!?
「言ってなかったか。前にこの世界で人族は人族以外の別種族に戦争を起こしたって言ったのは覚えているか?」
「ええ、はい。」
「人族はその戦争で、種族ごとに弱点となる兵器を開発した。それが『対識別式機械兵器』だ。実際その効果は凄まじく〘3種同盟〙ができるまでに甚大な被害が出た。もし同盟締結が遅かったりすれば人族は確実に勝っていただろう。人族は他種族よりも身体的能力は弱いが、科学と言う力では他よりも大きく抜きん出ていたんだ。」
「うわー、それが今でも残っちゃってるって訳ですね?」
「ああ、しかもそれを製造した人族は滅んでしまったから、対処法が殆ど分からない状態なんだ。唯一の対処法は、機械に固定された種族以外が攻撃することだ。例えば、獣人族専用の兵器を鬼人が倒すとかな。それでも1人では勝てない。だから傭兵にも需要があるんだ。」
この世界の人族の科学力はチートオブチートか?なんだその最強の兵器は。しかも対処法が分からないなんて。
でも確かに、この世界の科学力は遅れている。馬車が普通に使われていたり、電気はなどのライフラインは殆どなかった。でも窓ガラスを作る技術力はある。なんとも不思議だ。
「じゃあ、もし対神族用機械兵器が出たらヤバいのでは?」
「まあ、そうだな。だが先の戦争で殆どが破壊された。そうそう出くわすことは無い。むしろ熊のほうが出現率が高いだろうな。」
「瑠さん……それフラグって言うんですよ。」
回収するのはあと何時間後のこと。
****
「さてそろそろ行くぞ。暗くなる前には今日の目的地につきたい。」
「あ、はい。」
今心が急激に死にかけた気がする。これ絶対に明日筋肉痛になるな。
「ここまで山道がキツいだなんて。」
「まあ、人族だからっていうのもあるだろうが、ここまで弱いとはな。」
失敬な、これでも体力は増えた方だぞ。大体瑠さんの方がおかしいんだ、さっきも言ったけど。
これをあと三日もしなくちゃいけないのかー……。
「あ、瑠さん心が折れました。」
「良かったな、二本に増えたぞ。」
それが仮にも乙女に言うことか。酷すぎる、きっとこの人はモテないんだろうな。
あれ以来、本音を言い合えたおかげか心の距離がグッと近ずいてきたような気がする。
それがいいのか悪いのかなんて分からないけど。
きっと私は――
「瑠さん、足痛いです。」
「気のせいだ。」
「んなわけない。」
このことをずっと忘れない。
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