第14話 「次の街へ、と思ったら」

はい、おはようございます。只今の時刻は5時、眠いです。


昨日の夜は、色々ありすぎた。しかもあれが人生初の告白。所謂いわゆるファースト告白ってやつだ。誰が非モテじゃい。


そんな経験をしたこの街とも今日でお別れ、次に行く目的地は鬼人の街だそうだ。正式名称は長すぎて忘れた。


しかし、その街に行くには徒歩で3日ほどかかり、山道を歩かなきゃ行けないらしく外で寝るらしい。つまるところ野宿だ。


わー、キャンプとかは何回かあるけど野宿かー。しかも山ってことは熊出るんじゃね?大丈夫かな。


そんな心配をしながら支度を進める私。しばらくはお布団ともお別れだ。


暫くして全ての準備が終わり、部屋を後にする。窓を見るがまだちょっと薄暗い。


あの事件後、泉さんの宿屋はこれから改築になる予定だ。まあ、私の部屋とかボロボロだったしね。窓ガラス飛び散ったし、壁焦げたし。


それにしてもあの時の男、『』って言っていたよね。つまりこれからも狙われるって事になる。目的は一体なんなんだろう?


廊下を歩く足が止まる。もし、あの男は私の正体を知っていてそれで狙ってきたとしたら?珍しい色合いだから狙ってきたとしたら?あの男はもっと前から私を付け狙っていたってことになる。それはいつから?もしかして、最初からとか……


考え込む私には、どちらにしろ瑠さんに迷惑をかけてしまうのでは?と言う考えしか浮かばなかった。


「私は、これ以上瑠さんについて行かない方が……」


「誰がもうついて行かない方が、だ?」


後ろから先程まで考えていた人の声が聞こえる。自分の喉からは変な音が聞こえた。い、いつからそこに。


「お前が沈んだ顔で立ち止まった所からだ。……で?もう一度聞く。誰がもうついて行かない方が、なんだ?」


え、怖い。めっちゃ怖い。口元は微笑んでんのに目が一切笑ってない。美形だからこそ、その恐ろしさは引き立ってさらに怖い。


瑠さんはどうやら滅茶苦茶怒っているらしい。なぜかは分からんが怒っている。だって後ろに般若が見えるもん、ゴゴゴって感じの擬音も聞こえそう。怖い。


「え、いや、あの。」


「花菜。言わなきゃ分からないぞ?」


瑠さんの雰囲気はまだまだ恐ろしいが、声だけはいつも通りの声で少し安心してしまった自分がいた。なんだか毒されているかも。


「……迷惑を、かけちゃうから。」


「なんのだ?」


「私が変な奴らに付け狙われているせいで、瑠さんに無駄な苦労かけちゃうかもって。だからここからは……」


「……ここからは別れてお前一人で目的地に行くと。」


「う、ん。」


沈黙が空気を満たす。あれ、なんかやばい。言わなくていいこともいちゃったかもしれない。なんかさっきよりも雰囲気が重くなったって言うか、極寒になった気がする。


「――花菜。」


「はいッタァッッ!?」


呼ぼれた途端笠ごと頭をチョップされた、今めっちゃ変な声出た。しかも痛い。


瑠さんの方向を見ればものすごく不機嫌な顔をしている。私を見る目はとても冷たく、あの時の黒服の男たちを見てた目のそっくりだ。


「りゅ、瑠さん……?」


袖を引っ張るが反応はない。ずっと冷たい雰囲気が漂っている。チョップするだけして反応無しなんて。


嫌、だな。もしかしてずっとこのまま?それとも、瑠さんもこのまま私と――


自然と袖を引っ張っていた手は離れ腕が降り、顔が下を向いた。


「……花菜?」


いきなりなんの反応もしなくなった私に疑問を持ったのか瑠さんが話しかける。が、反応がない。と言うより反応できなかった。


「おい、花菜?……もしかして強くやりすぎたか?」


「……」


瑠さんが膝まつき笠の麻を払う。目の前がクリアに見えて、瑠さんの顔が見えた。その目はいつも通りの瑠さんの目で、目頭が熱くなって、瑠さんの顔がボヤけた。


「え、花菜。泣いてるのか?」


「え、?泣いてなんか……」


瑠さんの戸惑いの声が響く。そんな声は初めて聞いた気がする。私も自分で驚き、頬を触れば水が手を濡らした。


「は、花菜?」


「……う、ヒック。やだぁ。」


1度気づけばダムが決壊したように溢れてくる。瑠さんが手を伸ばした気配がするけど、叩き落とした気がする。ヤバい止まんない。17にもなって号泣とか見られたくない。私は顔を隠すように蹲った。


「お、おい。」


「――うぉぉおい。お前!!!!」


瑠さんが声を掛けたその時、聞き覚えのある声が廊下に響き、そしてドカッと音を立てた。どうやら蹴られたようだ。


「いっ、何する……」


「何する。じゃねーよ!この脳筋!ずっと見てたけどワレ大人気ねーぞこらぁ!!」


「ほーら花菜ちゃん。こんな野獣ほっといて莉お姉ちゃんと一緒にご飯食べましょうね?」


「れ、莉さん?」


「お、お前らいつから。」


「さっきも言った通り、ずっとよ。と言ってもアンタが大人気なく花菜ちゃんを問いただしてた時からだけど。気配にも気づかなかっただなんて相当ね。」


それ結構前からだな。と言うか莉さんは仕事で別れたんじゃ。


「あなた達がここを出るって聞いたからすっ飛んできたのよ、見送りにね。そしたらそこの野獣ったら。」


「なーに花菜ちゃん泣かしてんや!この脳筋がぁ!花菜ちゃんの事情はワレがよく知ってんやろが!」


「全くその通りね。野獣、アンタは少し頭を冷やしなさい。あー花菜ちゃんったら、目を擦っちゃダメよ。」


さあ、こっち。と莉さんに連れられる私は、瑠さんと泉さんを置いてその場を後にした。


いったい、何が起きてんの?



****


どうやらあれから30分はたったらしい。ようやく泣き止んだ私はお腹がすいたので食堂にやってきた。でも六時前だけど食堂ってやってんのかな?


「私が作るわ。あーもう目を腫らしちゃって。」


「す、すいません。」


「いいのよ、悪いのはあの野獣なんだから。全くほんと女心がわかってないんだから。」


ほんと恥ずかしい。まさか2人の前でも泣いちゃったところ見られるなんて。ここに来てから初めて泣いた気がする。


私は目に小さめの氷嚢ひょうのうを当てる。冷たくて気持ち良い。


「――それで?どうして野獣が怒ったのか、花菜ちゃんは理由がわかるかな?」


莉さんは野菜を切りながら静かな声で聞いてきた。理由、それはきっと。


「瑠さんに、酷いこと言っちゃたから?」


「まあ、そうね。あなたのアレはすごく酷い言葉だったわ。だってあの言葉はまるで、って言ったようなものだもの。」


「――!!」


そんなことは、なんて言えなかった。だってその通りなんだ、きっと私は瑠さんを信用してないんだろう。だからあんなことを思ってしまったし、言ってしまった。


「でも、仕方ないと思うわ。だって花菜ちゃんはここに来て数日程度しかいないし、野獣のこともよく分からないって言うのに、信用なんて。」


「――でも!瑠さんは私に為に此処までしてくれたのに私は!!」


手を強く握りしめる。また目の前がボヤけ始めた。私が、私が足を引っ張らないって困らせないって、言ったのに。絶対困らせた。だって、あの時の瑠さんの顔は困っていた顔をしていた。


「花菜ちゃんは、巻き込みたくなかったんでしょ?」


「……」


だって、仕方ないじゃん。巻き込みたくなんてない、あんなに優しい人を巻き込ませて莉さんにも怪我さして、それでなんとも思わない人なんてない。


あの男は多分だけど私を諦めない。万が一瑠さんが怪我をしてしまったら。


「昨日のこと、あの狐くんに聞いたわよ。」


「え?」


「あなたは、自分であの野獣を選んどいて、今更置いていくの?巻き込ませたくないからって。」


「それ、は。」


「……よく考えなさい。あなたが行くところは、絶対に花菜ちゃん一人で行けないところよ?」


「……」


出発する当日に、こんなこと起こすなんて。俯く私に、莉さんは笠を外して頭を撫でた。するとなんだかとてつもない後悔に蝕まれて、気分は沈んだ。が、段々と決意が燃えていく。


「莉さん。」


「なぁに?」


莉さんは全てお見通しなんだろう。優しい声が耳に響く。


「瑠さんと話してきます。もう一度ちゃんと。でももし、私が瑠さんと一緒に旅が出来なくなったら……」


「じゃあその時は、私が花菜ちゃんを攫っちゃうわね?」


莉さんはイタズラな笑みでウィンクをした。そして約束ね?と指切りをして瑠さんの元に走る。もう一度ちゃんと話すために。


「まあ、あの野獣が今更離すとは思わないけど。」


そのつぶやきは、私の耳には届かなかった。



****


「花菜。」


私が決意をいきこみ食堂を出ようとするが、その前に瑠さんが話しかけてきた。


え、さっきまでの決意を返して。と言うかちょっと待って、絶対これ聞いてたよね。まさか盗み聞きしたんじゃ。


「瑠さん、いつからそこに。」


「……俺が怒った理由を聞いた時から。」


ほぼ最初っからじゃないか。しかも盗み聞き決定かよ。締まらないなぁ。


「じゃあ、聞いてどう思いました?い、やになりました、か?」


私は心臓がバクバクと鳴るのを聴きながら俯きがちに聞いた。瑠さんは黙ったまんま答えない。


「花菜、すまない。」


瑠さんの言葉で顔を上げれば、目が合った。笠をしてないからか、此処までハッキリ見えたのは、瑠さんと初めて会った時以来じゃないかな。


「俺は、お前の気持ちを無視していたみたいだな。あの狐に言われたのはすごいムカつくが、アレの言う通りだ。……俺がお前のことを1番よく知っているはずなのにな。」


「瑠さん……」


「だが、俺はお前と一緒にまだ旅をしたい。もう花菜は嫌か?」


「……嫌なわけ、ないですよ。私も瑠さんとまだ旅を続けたいんです。」


私は笑って告げる。心のうちにある言葉は伝えずに。


私が元の世界に帰る、その時まで。


「一緒に居させてください、瑠さん。」


「ああ。これからもよろしくな、花菜。」



****


「いやー、良かったなぁ花菜ちゃん。」


「ええ、本当に良かったわ。このままだと危険な猛獣が世に解き放たれてしまうところだったわ。」


「泉さん、莉さん!?」


いつからそこに。と言うかこの世界の人は全員盗み聞きが大好きだな!


「そうね野獣が花菜ちゃんに話しかけたところからよ。」


「わいもその辺や。」


「いやもう、最初っから!!」


何から何まで最初っからじゃないか!


「そうカッカしないで。それにしても良かったわね花菜ちゃん。仲直り出来て。」


「……はい。」


「まあ、私としては花菜ちゃんと一緒に旅とかしてみたかったけどね?」


「おい、そもそもお前は仕事で出来んだろうが。」


「ならわいが――」


「論外だクソギツネ。お前みたいに下心のあるやつに花菜と旅させるわけないだろうが。昨日のことを忘れたとは言わせんぞ。」


「え、昨日のことって、まさか瑠さん。昨日盗み聞きしてたんですか!?」


「た、たまたまだ。たまたま聞いてしまったんだ。」


「はぁ?んなわけないやろ。軍人さーんここに変態がおるでぇ逮捕お願いしますわ。」


「そうね。現行犯逮捕よ。」


まさか昨日のことも聞いてただなんて、と言うか瑠さん盗み聞きしすぎでは?まさか本当に変態で……


「待て花菜。落ち着いて話し合おう。」


「うっさいわこの変態がぁ!早く逮捕を!」


「覚悟しなさいこの変態。」


「お前らもしてただろうが!!」


そうして、時間はたっていった。ほんとに締まらないなぁと思いながらも、笑った私が確かにそこにいた。




****


「それじゃぁな、花菜ちゃんそして変態野郎。」


「はい、お世話になりました泉さん。お元気で。」


「またね〜。花菜ちゃん。そして変態くん。」


「はい。本当にありがとうございました。莉さん。またどこかで。」


「お前ら殺す。特にキツネ。」


私たちは街の関門前で、別れを告げる。これでこの街とも本当にお別れだ。


これから私は3つの山を越えに行かなければならない。大変だろうけど、瑠さんと一緒なら多分大丈夫だ。


「――本当にありがとうございした。」


今日のことがなければ、瑠さんと私はきっと勘違いしたまんまだっただろう。だから私は少し進んだところで振り返り改めて2人にお礼を告げた。


2人は笑って手を振っていた。


「瑠さん、行きましょう。」


「ああ、行こう。」


そうして、2人の旅人は旅立って行った。街を救ったと知られることも無く、ひっそりと。



『獣人の商人と謎の男編 [完]』




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