第11話「嫌な勘は当たる」
「私が来たのは、ここの領地内での横領を調査してたのよ。まあ、実際はもっとやばい事だったけどね?」
「それは?」
「さっきも言ってたと思うけど、違法売買の闇市での商いがここの領主の財産源になっていたのよ。」
違法売買。と言うと薬物とか人身売買とかかな?これまた凄まじい。
「何時からそれを?」
「さてねぇ。1代前か2代前か、それぐらい前からやっているのかもねぇ。どっちにしろ長くやっていたのは間違いない。」
「よくそんなことを長い事してバレませんでしたね?」
「そこのいけ好かない男が言っていたと思うけど、軍部の3割は領主に抱き抱えられているから報告されなかったのよ。それにそこで抱かれたのはここの軍部長。最高責任者よ。そりゃあ報告されないわ。」
「誰がいけ好かない男だ。」
「その通りやろ。」
「瑠さん泉さんステイ。話がズレる。」
全く、突っかかる所はそこじゃないでしょ。毎回恒例の喧嘩はしないで欲しい。それにしても、軍部の最高責任者が抱えられていたなら、確かに長い事やっていても誤魔化されちゃうな。上手いことをする。
「あれ?でも誤魔化されていたのなら、なんでお姉さんは横領している可能性があると思ったんですか?」
「あらよく気づいたわね。その通り、報告は上手く誤魔化されていたわ。今回わかったのは、報告書で少し奇妙なことがあったのよ。」
「奇妙なこと?」
「それはなんや?」
「報告されていた税金の金額面に払うべきお金はピッタリだったわ。でも、別の報告で街の全体のお金の流れを見ると報告書以上の儲かりがあったの。でもその分の税金は払われていなかった。だから怪しくってここに来たらこれよ。全く嫌になるわ。」
ふむ。なるほど確かにそれは怪しい。でもだからといってなんで泉さんの宿屋を潰し必要が?
「これに疑問がではじめたのは、そこの狐くんの父君がこの宿屋を盛り上げたおかげだったの。」
「え?親父が?」
「この国では全ての税務処理をした年末調査書を軍部の税務署に提出する義務があるのは知っているでしょ?でもその他にある一定以上の儲けを出した商家などは国務税務署に提出する必要があるの。過不足がないか見るためにね。」
「あ、だからその一定上の儲けを出した泉さんのお父さんの年末調査書が、街の調査書があってなくて。」
「そう、ぶっちゃけると長い期間やってたみたいで、本当にたまたまかもって疑い程度だったけど。そこで」
「盗賊団の出現と親父の引退かぁ。」
「ええ。それのお陰でこの件では横領以上の犯罪がでてきたの。でもまさか、ここにある老舗の大体がグルだったとはねぇ。道理で一定以上の所が出なかったわけよ。」
「マジかー。」
なるほど、老舗の店で一定を保ちカバーしちゃえば、闇市での犯罪はバレないわけだ。そして多分だけど、盗賊団に襲われたところはそれ以外にところだったんだろうなぁ。なんとも小狡いがいい手だと思う。
「ええ、全くその通りよ。嫌になるぐらいにいい手だわ。それで大体は調べ終わったから盗賊団の方も壊滅するつもりだったけど、そこへちょうど。」
「俺たちが来たって訳か。」
「本当にいいタイミングだったわ。そしたらまさかここの宿屋の狐くんが接触するなんてね。運命だと思っちゃったわ。」
「ふん、なるほど。体のいい押しつけをされたってわけか。」
「でもちょっと計算外。まさか一部とはいえ少しの情報でここまで来ちゃうなんてね。是非とも『鍵』に欲しい人材よ。この子は。」
そう言うとお姉さんは私を強めに抱きしめる。おぉう。笠が笠がぶつかっていますよ。
「やらん。さっさと離せ。」
瑠さんは素早く私をお姉さんから引き剥がし、笠を深く被らせる。ちょ、深すぎ!!
「あらヤダ、心の狭い男ね。そういうには鬱陶しがられるわよ?」
「そうやでー。いい加減過保護も大概にしときぃ?お母さん。プップー。」
「このくそ狐、いい加減上下関係を関係をはっきりした方がいいみたいだな。」
ちょっと瑠さんスットプ!泉さんもやめい!本当に締まらないな!
****
「そういえばずっと気になっててんけど、花菜ちゃんはなんでずっと笠を被っとるん?」
え、今更?普通昨日とかに聞くでしょ。
「いや、なんか顔に怪我とかあんのかなぁって言えんかったんや。そういやぁ、昨日もずっとつけとぉったな。簡単には外れんかったし。」
「そうねぇ。食堂でもつけてたわね?その男が頭撫でてた時も外さなかったし。」
「ぶっちゃけとったら?と思ったわ。」
うん。普通はそうだよね。と言うかお姉さんそこも見てたんですね。
「まあ、つけなくちゃいけないんで。」
「なぁなぁ、ちょっとだけ見せてくれへん?」
「無理です。
「ええ〜。」
「まあ、ちょっとだけならいいんじゃない?ねぇ――」
「ダメだ。」
泉さんは好奇心の目を。お姉さんは少し探って来るような目をしている。そして瑠さんは不機嫌になった。
この2人が言うとは思わないけど自分の安全が大事だ。何せ私は弱い、瑠さんがずっと守れるとは思ってはいけないからこそ負担にならないようにしないと。
しかし――
「ねぇ、花菜ちゃーん。」
「少しだけよぉ。」
この人らしつこいなっ!!あと同じ動きやめてくれない?怖いから。もー、瑠さん何とかしてよー。
私は瑠さんに目線を送る。瑠さんは私の意図が伝わったのか頷いた。
「そこまでにしろ。迷惑だ。」
「えー、せやけど花菜ちゃん絶対かわいいともうんやけどな。」
「そうそう。いいじゃない。減るものでもないし。」
「ダメなもんはダメだ。」
すごいなこの2人。めっちゃ瑠さんに食いついてる。この2人息ぴったりだな。
「ふーん。そんなに見せたがらないなんて、ほーんと束縛の強い男ってやだわ〜。」
「......なんだと?」
「せやせや。だいたい恋人でもないのにそういうのってどうかと思うわ。」
「......」
おおっと。空気が凍ったぞ?なんかすごく嫌の予感がする。
「――いいだろう。まずは領主よりお前らから痛い目を見た方がいいみたいだな?」
「瑠さんスットプーーーーー!!!!」
瑠さんはどこから出したが分からない刀を抜こうとしたため素早く手を抑える。
「もう、やめてください!ここを殺人現場にする気ですか?」
「大丈夫だ。綺麗にやる。」
いや方法を聞いてるわけじゃなく。今すぐその物騒なものをしまいなさい。血塗れた部屋で寝たくない。
「花菜、俺はお前を危険に晒したくない。だからそれは絶対に外すな。」
「わ、わかってますよ。今それいわなくていいです――って、あ!」
「残念、スキあり!!」
「ナイスや姐さん!」
パサっと、視界がクリアに見えた。どうやら私たちが話している間に後ろに回り込んだらしい。ゆっくりと笠が頭から離れるように感じるが、本当はもっと速いのであろう。私の黒髪は宙に舞った。
「あらぁ、なるほどそういう事ね。」
「へ?」
2人はどうやら私の顔や髪を見てしまったのだろう。お姉さんは納得の言った表情をし、泉さんは驚いた顔をしいる。なんだかデジャブな感じだ。
そして目の前には、酷く無表情の瑠さんがいた。
あ、これはヤバい。激おこだ。
「フゥー......殺す。」
「待ってください!!!!瑠さんステイ!!!!」
うわぁー!これはマジだァ!マジで殺る目だこれどうしよう!
「落ち着きなさいなみっともない。」
「いやこうなったの全部お姉さんもせいだけど!?」
「もう、しょうがないわね。」
そう言うとお姉さんは瑠さんの前に出る。何かを胸から出し瑠さんに突きつけた。
「この子を見て焦る気持ちはわかるけど、少し過保護すぎよ。もうちょっと信用しなさい。」
瑠さんに突き出された黒いものは、私が元の世界の歴史系の漫画などでよく見た。
小型に火薬銃そのものだった。
それ一体どこから出したんですか?普通はそんなとこにしまいませんよ。まさかジェニファー○ーレンスではなく不○子だったとは。盲点。
「ちっ。名前も言わんやつを信用しろと?」
いや、あなたも最初は言ってないですよ名前。
「じゃあ改めて、私は
「れ、莉さん?」
「あらなぁに?落ち人の花菜ちゃん。」
「......やっぱり分かっちゃうものですか?」
「当たり前。この世界には人間なんていないもの。それにしても見事な黒目黒髪ねぇ。」
「神族って可能性は考えなかったんですか?確か姿は余り変わらないはずですよね?後ありがとうございます。」
「それはないわ。神族は神族で分かっちゃうもの。所謂『共鳴』ってやつね。それに元々神族って言うのは直感力がとても優れて居るのよ。」
え、そんなものまであんの?さっすが異世界、ファンタジー要素がデカイな。てことは莉さんは神族なんだやっぱり。
「ええ。だからそこの――」
「それ以上はいいだろう。いいか?この事を誰かに言ってみろ。容赦はしない。」
「ふふっ。やれるもんならやってみなさい坊や。相手してあげるわ。しかしこのことは秘密にしてあげる。落ち人だなんて知られても不幸なだけよ。でもあなた一人で守るっていうのも、そう中々上手くいかないと思うわよ?仲間は必要だと思うわ。」
やはりこの世界で『人』を名乗るのは危険なのか、今後も気をつけよう。今回は不可抗力だったけどね。
「......その言葉、
「我が名に誓って守ると言いましょうか?」
「チッ。」
どうやら決着が着いたらしい。凄く、ものすっごく不機嫌な瑠さんと、余裕そうな莉さん。まあ、なんとなく良かったのか?それにしても。
「おーい、泉さーん?大丈夫ですか〜?」
「......ハッ!え、えーと花菜ちゃん......いやさん?」
「いやいつもどうりで良いですけど。大丈夫でしたか?」
「いや、まあ、大丈夫や。なるほど、あいつがここまで過保護になる理由のもうひとつがわかったわ。そりゃ心配だわな。」
ん?なんだ何の話だ。わたしが美しいと言う話か?それとも性格も話か?どうせ残念美人だよ。え、ここは謙遜しないのかって?......自分で言わないとそろそろ自信が保てなくなるからだよ。こんなイケメンと美女しかいない空間とか地獄だよ。野次馬の方がいいんだこういうのは。
「本当に清々しい子ねぇ。それと美女だなんて。」
「心の中をナチュラルに見るのやめてくれません?」
「ワイもイケメンだなんて。」
「アンタもか。」
「気をつけろ花菜、その
「あぁん?なんやとコラ、元祖変態過保護は黙ってろ。」
「やっぱり始末してやる。」
こうして、とんでもない秘密が明かされたがいつもどおりで良かったと思う花菜だった。因みにその後ろでは不穏の気配があったが無視した。
****
朝になりました。今日は障子の向こうに殺人現場的なものはなく、スムーズに朝の支度を終えられ安心しています。
いやー昨日は酷い目にあった。まさかあの後莉さんが私の部屋に泊まるって言って聞かなかったし、それに怒った瑠さんは莉さんに煽られて一緒に寝ようとするしで大変だった。しかも泉さんも瑠さん煽って喧嘩になったし。
その3人をどうしたかって?首根っこ掴んで追い出しましたよもちろん。眠いし。
「しかし今日で5日目か......」
この世界は元の世界に似ているようで違う。元の世界にはいない種族や、見たことは無いけど神通力なんて言う力もある。しかし、ふとした景色はあまりにも同じで、少し寂しくなる。
「それにしても、なんだか静かな気がする。」
そう、今日は異常なぐらい静かな感じがした。本当にただの勘だけど。でもこういう時ってなんか嫌な時の方が多いし外れないよね。
私は革靴を履き瑠さんの部屋に行くが、人の気配がない。あれ?居ないのかな。
試しに入ってみたが誰もいなかった。もしかして先に食堂に行っちゃったかな?珍しいこともあるもんだ。
そう思いながらも、私の警報は鳴り響いている。とてつもなく嫌なことが起きているかもしれないと不安になってきた。
「花菜ちゃん。」
瑠さんの部屋から廊下に出れば、莉さんが少しだけ硬い顔をしてこちらに来た。ここまで来ればこれもう勘ではなく確信に変わる。
「あの狐くんが、誘拐されたわ。」
「泉さん、が?」
――こういう時の勘だけは、いつだって外れたことは無いのだ。
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