第10話「見える目的」
瑠さんが出発してもう10時間以上は経っている。瑠さんはあの後直ぐに出発したようで、見送ろうと思ったが何故か居なくなっていた。何も言わずに行ってしまった瑠さんに私は少々モヤッとした気持ちになっていた。
なんか言ってから行っても良くない?いや、散々お母さんみたいなこと言っていたけど。全く、ほんと瑠さんってそう言う所あるよね。
「ぼちぼち、そう不機嫌になんなや。後でアレを殴ればいいだけの事や。」
今私は、何故か部屋にいた泉さんと一緒に茶を飲みながら瑠さんの帰りを待っています。なんでいるんだこの人?もう夜なんですが?
一緒に行かないのかと泉さんに聞いたところ。
「いやわい、そこまで強いわけやないし。とゆうか戦闘経験ないから絶対に足でまといになるわ。後、あんな野郎と一緒に行きとーない。」
との事。じゃあなんで昨日は瑠さんに喧嘩売ったんだこの狐は。と言うか此処に瑠さんが居たら同じこと言ってそう。
なんかよくよく考えたら、初めて瑠さんと別行動をとってるな。いつもはそこまで離れるわけじゃないし、だいたい一緒だからなんだか心細い。
「それにしても暇やね〜。そうだ花菜ちゃんのことなんか教えてくれへん?」
「私のことですか?」
「うん。じゃあまずはいくつなん?見た目が若いけど結構物分りがいいし賢いからようわからん。」
なんだこれ、ナンパか?それより、ふむ。賢いか。なかなかに分かっているね。少し泉さんの評価はあげておこう。
「17ですよ。泉さんはいくつです?瑠さんよりは若いと思いますが。」
「へぇー、17か!ワイは20や。3歳違いやね。」
「え、結構若い。と言うか凄いですね!その歳で宿屋の経営とかしてるんですか?」
「まぁな、つってもわいは3代目。この宿屋は祖父から代々受け継いで来たものやねん。」
「なるほど。じゃ結構長いんですか?この宿屋。」
「せやな〜、だいたい100年とちょっとぐらいやった気も。まあ、まだ若い方や。ここでは500年とこがまだまだぎょうさんあるわ。」
500年とは、また凄い。なのにこの街随一とか凄いなー。
「親父が凄かっただけや。もう今は引退してしまったけどな。ワイはまだまだ半人前よ。だから、この宿屋も落ちてきてしもうた。ほんと不甲斐ないなぁ。」
泉さんは少し困った顔をして頭を搔く。しっぽは完全に下がっていた。
「そうですか?」
「え?」
泉さんは不甲斐ないなんて言うが、私はそんなこと思わない。だって一生懸命この宿屋のために働いて、自分なりに盛り上げようとしてた。そんなのあの庭とかを見たらよくわかる。
確かに瑠さんが言ってた通り気に草が絡まってたところもあったが、それでも全体を見たら違和感無くなっていた。それは泉さんの工夫を凝らした結果だと私は思う。だってあそこまで心地のいい庭は見た事がなかった。人の思いがよくこもっている庭だと感じる。
商人としても宿屋の主人としても未熟なら、これから成長していけばいい。泉さんはまだ若いし、いくらでも成長はできる。それによく言わない?人は最初は何も完璧なんかじゃないって。だから何事も色んな経験を通して学ぶんだと。
「私は泉さんは不甲斐ないなんて言いませんし思いませんよ。だって泉さんは誰よりも努力家で、頑張り屋だと思います。この宿屋の将来を担って行けます。泉さんのお父さんが凄過ぎたからちょっと引け目になっているだけです。あってちょっとの私が言うのもなんですけどね?」
ふふっと笑う私に、泉さんが肩に寄りかかる。耳がピクピクして頬にあたって少しくすぐったい。後ものすごくふわふわだ。
「はぁ〜。なるほど、アイツが過保護になるのもわかる気ぃするなぁー。」
泉さんの顔は見えないが、なにか溜息をついて肩にグリグリと顔を擦る。ちょっ、痛い、結構痛いコレ。なんか骨辺りからゴリゴリって聞こえる。
「え、何です?痛いんですが?」
「いやぁ?ホンマ罪作りな子やなぁと思ってぇな。」
答えになっとらんな。まあ、しっぽが上がってるし上機嫌になったらいいんじゃないかな?それにしても泉さんのお父さんか〜。どんな感じなんだろう。そういや瑠さんの家族の事とか聞いたことないな。
未だにグリグリしていた泉さんは、いきなりぱっと顔を上げてとても気になることを言った。
「そういやぁ、親父のことで思い出したわ。盗賊がでてきた時期と親父が引退した時期がなんか妙に被っとる気ぃする。」
「?何故でしょう。気のせい、でしょうかね?」
「うーん。そうかもしれないし、実は、なんてこともあるかもしれんなぁ。でもなぁ、ここは領主も来てたことがあるんや、もしかしたら......なんてな。」
領主が来てたとなるとなぁ。なんだか無関係に思えなくなってきた。あ、そう言えば。
「この宿屋が盛り上げたのは泉さんのお父さんだったんですよね?お祖父さんではなく。」
「?そうや。ジジィも凄かったらしいけどな。」
「しかも、ほかの老舗を抜いてこの街随一の宿屋にまでのの
「そうやな。」
「そしてこの街の領主は金にがめついのでは?」
「まあな。」
「盗賊がでてきた時期はお父さんが引退した時期とほぼ被っていて、泉さんが継いだ後に被害が出始めた。そうではありませんか?」
「......まさか。」
ふむふむ、なるほど。なんだか嫌な予感がする。こう言う場合、何故か当たるが自身の勘。
「ねえ、泉さん。今まで襲われた商人の中に、被害がバラけたとしていても、泉さんとよく取り引きしていた所の方が、被害は多くは無いですか?」
「......た、確かにいつも取引してた呉服屋の布とか、ここで良く庭の剪定をしていた庭師集団とか、色々こことよォ関わりのあるものばかりだったような。」
泉さんは顔を青くした。どうやら私が懸念していた自体を悟ったらしい。これは完全に黒だ。
ここから推測からするに、領主の目的は商人の金品や食料。そして取引用の品物でも、ましてや国からの国防補償金でもなく、本当の目的は――
「この宿屋を潰すことよ。」
いつの間にか、そこにその人はいた。朝にあったあのお姉さんは、静かな目をして私たちを見ていた。驚いた私は声が出ずに、ぼうっとお姉さんを見ることしか出来なかった。
い、いつの間に。足音なかったけどまさか、消すのが癖になってるというモノホンのk。
「だ、誰や!」
「私は『鍵』。まあ軍人よ。ちょっとお邪魔するわね?」
お姉さんは向かい側の席に座りゆっくりと茶を啜る。あれ、それ私のじゃない?
「全く、殆どヒントなんて与えてないのに、どうしてこの子はすぐに当てちゃうのかしらね?肝心のそっちは気づきもしなかったのに。」
お姉さんは呆れたような声で私に言う。いや、知りませんって。なんか当て嵌ちゃっただけですよ。
「ほんで?どうして領主がこの宿を潰すんや?その意味は一体?」
そうだった、なぜ潰す必要が?
「そうねぇ。これは言っちゃいけない事だけど、まぁ当事者だから教えてあげるわ。簡単に言えば、この宿屋がこの町トップにあるとある事が出来なくなっちゃうからよ。」
「ある事......?」
「それは、「違法薬物の売買や、人身売買などの商いが出来なくなるから、だろう?」......あら?もう帰ってきたのね?」
「瑠さん!!」
お姉さんの声と被った声は誰よりも聞き覚えのある声で、私は嬉しくなって彼の元に駆け寄った。
「ただいま花菜。それにしても、俺は誰も部屋には入れんようにと言ったはずが、これは一体どう言う?」
「あ、これは不可抗力で。」
「言い訳は無用だ。」
グイーっと頬を引っ張ってくる瑠さんに、私は言おうと思っていた言葉言えなくなってしまった。
「ひょ、ひょっひょまっへ。」
「よく伸びるな。花菜のは。」
瑠さんはほっぺを引張たり、モニモニしてくる。これ完全に楽しんでないか?ちょっと誰か見てないで止めてよ!
「ちっ、早かったのぉ?あの道でも馬で1日はかかるはずなんやけどな?」
泉さんはゆっくりち瑠さんの手を離したが、なんか舌打ちが聞こえた。しかし意に返さない瑠さん。代わりに鼻で笑う。
「ハッ、あれ程度の距離を日帰りなぞ、俺からしたら児戯にも等しい。」
「いや、盗賊もいたやろ。なんぼなんでも早すぎや。」
「まあ、確かに中々数が多かったが、あんなものすぐに終わる。」
「なるほどバケモンやったか。」
いや、さっき地図見せてもらったけど軽く100キロはあったよね?そんなものを日帰りって。電車とか車は当然ないのに、身体能力凄いんだなぁ瑠さんって。
「いや、花菜ちゃん!さすがにおかしいって。正気に戻ってぇな!」
はははー、いいですか泉さん?何事も考え過ぎるのはよくありません。放棄するのもまた、大事なんですよ?
「コホン。もういいかしら?」
先程から見守っていたお姉さんは続きを話そうとして、こちらをじっと見てくる。
「なんだまだ居たのか。」
「あら冷たいわね。いい所は顔だけかしら?」
「ほう?」
「まあ、いいわ。そんなことよりも説明がさきね。」
あれ?そう言えば瑠さんが何か言っていたような?瑠さんが帰ってきた方に気を取られたからか、何も聞いてない。
「仕方の無い子ね。最初から話すわ。」
「お願いします。」
しかし、これまた話が長くなりそうだなと。覚悟する花菜であった。
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