第8話 「問題について」

皆さんおはようございます。花菜です。


既にこの世界に来てから、3日は経ちました。いきなりの事でしたが、まあ多くの幸運のおかげで元の世界に帰れるための旅をしています。本当に瑠さん様様です。


それはさておき、昨日は色々ありました。

空気の読めない残念イケメンと、かまちょな残念イケメン。本当に色々ありました。


そして今、そんな残念な奴らが私の部屋の廊下の前で寝こけてます。

しかもちょっと見ると床に血痕の跡と泉さんに関してはボロボロになっています。

全く、私が寝ている間に誰が殺人現場的なものを作れと言った?このバカ共は。


最初見た時は思わず障子を閉めてしまったわ。ほんとこの男どもはどうしようか?


私はのんびり布団を片付け、寝巻き用の浴衣から袴に着替えた。そしてもう一度障子を開ける。


さてと。どうやって起こしましょうか?

もう色々と昨日言った気がしますが、これを見てしまうとなんかムカついて来ました。

よしこれはシンプルなやつで行きましょう。


「スゥーーーーーーー、起きろこのバカどもがァ!!!」


「!?」


「うぐぇ!?」



私は大き声で2人を起こすこと選択。2人は驚いたように起き上がった。


本当に、どうしようもない残念な人達です。



****


「ひっどいなー、あんな大き声で起こさなくても良かったんとちゃうん?」


「人の部屋の前で殺人現場的なものを作るからです。一体昨日は何やってたんですか?」


泉さんは自身の耳をさすりこっちをジトォとみてくる。

私はそんな泉さんの目線を軽く流した。


「そんなことよりも、昨日何故この淫獣がいたんだ?」


瑠さんは私の質問を無視して聞いてくる。いや昨日言ったじゃん。


「だが、それでは昨日なぜあんな体制になるんだ?それにこんなやつ外で放置してくればいいものを。」


「私は瑠さんと違って優しいから泣いている人を放置なんかしません。それに昨日は本当に事故ですってば、私が布に引っかかって転んだんです。まあ、原因は泉さんが大人しく部屋を出ていかなかったせいですけど。」


「あーー、それは言っちゃあアカンって!」


「む、俺だって優しい。」


「そんなこと知りませんよ泉さん。聞いていませんし。後瑠さん、論点ズレてますよ。」


全くこの男どもは、起きたらすぐこれだ。

瑠さんのこの質問は既に5回目だし、泉さんさんのこの文句は3回目だ。

いい加減ご飯ぐらいゆっくりさせて欲しい。


今現在私たち3人は、この宿屋にある食堂で朝ごはんを食べていた。


私の美味しいご飯が今はとても味気ないものになっている。

このままでは私のモーニングタイムが......。そして未だにギャーギャー言っている男たちをどうやって黙らそうか?


私は思考巡らせると、ハタっと昨日瑠さんが泉さんに言っていた。


「そういえば、昨日の話なんですが。瑠さん、泉さんの問題について何か知っているんですか?」


そう、昨日瑠さんは泉さんを脅すためにポロっと言っていた。


『いいだろう。そこまで言うならお前が何とかして見ろ。今のお前が抱えているをな。』


確かこんな感じのことを。

しかし泉さんの抱えている問題?泉さんが昨日私たちに話しかけた理由って、この問題のことだよね?


「あ、あー。覚えとったん?」


「......」


2人にこのことを聞くと、先程まで騒いでいたのにピタッと止まった。


泉さんは気まずそうに目を流し、瑠さんはぶすっとした顔でそっぽ向いている。


ふむ、この瑠さんの顔。

どうやら面倒事らしい。たった3日だが意外と瑠さんは顔に出やすいタイプだと学んだ。


「まあ、言いたくないならいいですよ。」


ここは私が引くことにしよう。

だいたい私は瑠さんのお荷物。怒鳴ったり首根っこ掴んで部屋から追い出したりするが、瑠さんの足でまといになる訳には行かないのだ。


「?聞かなくて本当にいいのか?」


「はい、私が首を突っ込んで瑠さんの迷惑になる訳には行きませんから。」


私は黙々と朝ごはんを食べる。

瑠さんはそんな私の頭の上にある笠を少し上げ、頭をわしゃわしゃと撫で回した。


ちょっと!せっかく今日は可愛く結べたのに!


****


「いや、すまんがそう言う訳には行かへん。2人を巻き込ませてくれんか?」


しかし、どうやらそうは問屋が卸さないらしい。


泉さんはいつも(と言ってもあったのは昨日)はあまり締まりのない顔だが、いつもよりキリッとした顔をして真面目な雰囲気が出ていた。


「知らん、俺はこの問題には関わらんぞ。」


「せやけどあんたはこのことを知っとる。なら話は早いやろう?それにあんたは傭兵やろ?お金なら払うさかいに頼む。」


おや、雲行きが怪しくなったぞ?

どうやら泉さんも引く気は無いらしい。


「俺が何時傭兵だと言った?組合の紋は付けてない筈だが?」


そうだ、確かに瑠さんは自分が傭兵だと言ってない。いつ知ったんだろう?もしかして実は瑠さんのストーカー。


「そんなわけあらへんやろ!わいが分かったのは昨日の投げナイフのせいや!」


「投げナイフ?」


「そうや!せやからストーカーでもないから勘違いするんちゃう!」


そうかちょっと安心した。

いや別にそう言うのはアリだと思うが、流石に身近すぎると私が戸惑ってしまう。


しかし投げナイフで分かるものなのか?


「そりゃ、あないな事してくる奴が堅気なわけあらへんやろう?それにわいは狐の獣人。鉄の匂いやかやくの匂いは大体わかる。」


なるほど、狐って鼻良かったのね。

たしか狐ってイヌ科だっけ?そりゃあ鼻はいいかもね。


「確かに俺は傭兵だ。しかし俺は今別の命も背負っている。そいつも巻き込むのはごめんだ。」


「そういや、なんで傭兵のあんたがお守りなんかを?どこぞのお嬢様とか?」


「ああ、いえ私は。」


「俺が絶対に傷つけないと約束した。それ以外で言う必要あるか?」


瑠さんは私の頭に手を置き真っ直ぐ泉さんに言い切る。なんかこれ。まるで――


「ふーん。何やプロポーズみたいやな。」


泉さんは私の心のうちにある言葉を代弁した。うわぁぁぁ。確かにめちゃくちゃプロポーズみたい!

改めて言われるともうそうしか聞こえなくなった!


いや、落ち着け私。瑠さんだぞ?あの空気の読めない瑠さんだぞ?深い意味なんかないきっと!それに私はまだ未成年だからこれは完全に、いやでももう結婚できるのか。


「ん?俺は未成年には手を出さんぞ?」


混乱している私の様子に気づいてないのかどうか分からないが、冷水のごとく言った言葉は私の頭を冷やした。


はは、そりゃそうだわ。確かに8歳も年下なんかに手なんか出しませんよね。え?別に拗ねてませんが?


私はガツガツとご飯を頬張る。

別にやけ食いとかじゃない。やけ食いとかじゃないから!


「あんたそないなことしといて、結構酷いことしな?」


「なんの事だ?花菜、喉を詰まらせるぞ?」


「大丈夫です!!!」


とゆうか話脱線してますよ!結局何を頼みたいんですか!?


私は先程言った『瑠さんに迷惑はかけない。』と言った言葉は完全に忘れていた。


「あ、あぁ。そうやったな。」


「おい、俺は」


「話分からんと思うさかいに、花菜ちゃんにも説明しな?」


「おい!話を聞け!」


「実は――」



****


どうやら泉さんの話では、街道のある山道で盗賊団が出ているらしい。


それぐらいなら警備隊か軍に言うらしいが、それだけではないらしい。


「出てくる時期がおかしいんや。何故だかアイツらは、旅人や普通の商家には手を出さず、金持ちな商家ばかりに手を出すん。それもタイミングがええ。食料や、儲かった金品ばかりの積んである馬車ばかり狙って襲ってくるんや。」


たしかに奇妙な話だ。

門の前にいたがほとんど同じような馬車でお金があるかわからないし、食料やお金を積んだとしても、前情報がないとできない。


もしかしてこれって――


「身内の中、それかお前の知っている情報を漏らしているとしか、考えられんな。」


私と瑠さんは同じ考えをしていたらしい。

どうやら泉さんも同じなようで、ウンウンと頷いている。


「でも、だからって私たちが手を出していい問題じゃ。」


「そうや、ここには国直轄の軍もある。手を出すべきじゃないとはわかっとる。しかし、

軍に相談したが取り合ってくれんかった。」


うーん、それもまた奇妙だね。

泉さんの話から推測するに、結構な被害が出ているはず。てゆうか軍とか警備隊とかあったのね。


「警備隊は街の直轄だが、軍は国の直轄だ。だから動かないはずは無いのだが。」


瑠さんは先程まで文句言っていたがどうやら諦めたのか話に参加してくれている。

しかし瑠さんの言うことが本当なら、警備隊は兎も角、軍も動かないなんて。


「今の話を聞いて推測だがわかったことがある。」


「?それは?」


「多分なのだが、この問題。相当めんどくさいぞ。――この街の領主のような権力者が絡んでいるかもしれん。」


それはとんでもない爆弾だった。


旅の最初の街で、どうやら面倒事に関わってしまう波乱の音が、今静かにしたのだった。

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