第7話 「不機嫌VS眠気」

シーン......。


部屋は見事な静寂に包まれ、私と泉さんに緊張が走った。


瑠さんは完全に固まっており、先程からピクリとも動いていない。


ヤバい、こんな状況瑠さんから見たら私が泉さんに無理やり押されているシチュエーションだ。このままでは、妙に泉さん嫌いの瑠さんが黙ってるはずもない!


ど、どうすれば......!いや、まずはこの邪魔者(泉さん)をどかすのが先だ!


「......あの、泉さん早く離れてください。」


「......」


私は泉さんに声をかけるも反応がない。どうやらフリーズっしてしまってるらしい。


くっそ、こういう時に限って!仕方ない、無理にどかしてしまおう。


「泉さん、無理にどかしますから――」


「おい。」


低く、おどろおどろしい声が室内にひびき渡る。ピタッと私の体は固まってしまった。


「花菜、話は後で聞く。取り敢えずそこの淫獣、さっさとそこからどけ。」


あ、死んだ。と私は心の中で悟った。


死神はきっとこんな声をして魂を奪うんだろうな。と心の中で思うが、先程から泉さんは反応を示さない。


いい加減イライラし始めたのか瑠さんは乱暴に障子を大きく開き、部屋に入ってくる。そしてそのまま泉さんの腕を乱暴に掴んだ。


「さっさとどけと言ったんだ。その耳はなんのために付いるんだ?」


ひぃ、怖い!めっちゃ睨んでるよ、早くどいてよ泉さん!


「....や。」


「え?」


「いやや。」


なんと言うことでしょう。先程からピクリとも動いていなかった泉さんが、まさかの死神(瑠さん)に反抗したのです。本当に何と言うことをしてくれたんだ。このバカ!!!


しかし、泉さんは素早く瑠さんの腕を外し、私を起き上がらせると、後ろから抱き抱えるようにしてきた。


な、なんという早業....!私じゃなきゃ見逃しているね!じゃねえ!何だこの状況!なんで私こんなことに!?


混乱している私を他所に、瑠さんの凄みはまし、泉さんは私をがっちりと抱え込んでいる。


「だいたいオノレはこの子のなんやねん?おとんか?」


「......なんだと?」


せんさぁぁあん!?なんでいきなり喧嘩売ってんの!?やめてよ!私ここにいるんだよ!巻き込まないで!


「人のこともシカトするしさー、宿屋のこともボロくそ言うしさー、ちょっとわいと花菜ちゃんが仲ええだけで嫉妬しすぎやろ?そんなんじゃ嫌われるぜ?」


「ほう?」


ひぃぃぃ。なんかめっちゃ寒くなってきたんですけど!極寒、極寒だよ!泉さんもうやめよ、事情を話せば怒らないと思うよ瑠さんも。


「あ、あの泉さ――」


「いいだろう。そこまで言うならお前が何とかして見ろ。今のお前が抱えているをな。」


「そ、それを、なんで知って。」


「なんだ?できないのか?ハッ、あそこまで大きい口叩いといてそんなもんか?」


「う、うぐっ。」


二人の間に沈黙が落ちた。重苦しい雰囲気の中、私のフラストレーションはだんだんと上がっていく。


「あの泉さん、そろそろ離してください。」


「え、あ、ああ。すまんな。」


泉さんは声を上げた私に驚いたのか、惚けた声を出しながら私を離した。


そして私は2人が私を見つめる中眠気と苛立ちでとうとう声を上げてしまった。


「いい加減にしてください!泉さん。貴方には最初に瑠さんが言いましたよね!?疲れているから休んだ後なら話を聞くって!」


「は、はい!」


「それなのにいきなり部屋の前で号泣するわ、部屋に居座るわで迷惑してるんですよ!なのに瑠さんに喧嘩を売って、人を巻き込むんじゃあありません!瑠さんが嫌いなのはわかったから、せめて私の部屋から出て喧嘩してくれません!?」


「それから瑠さん!」


「お、おう。」


「確かに泉さんも悪いですが、あれは言い過ぎです!いい大人がいじめちゃダメですよ!その上あんなに睨んだらそりゃあ喧嘩売られるに決まってます!もう少し空気を読むことを学んでください!」


「いや、しかし。」


「瑠さんにはとても感謝してますが、これとそれとでは全く違います!あと私これが初旅なの瑠さん知ってますよね!もう疲れてんです!休ませてください!」


「だが、なぜこの男が。」


「休ませろ。いいな?(注 花菜)」


私は2人に向かってとんでもないことを言ったと思うが、眠たい頭でそこまで考えられる余力は無く、まだ部屋でまごまごしていた2人の首根っこ掴んで部屋から追い出した。


障子を力強く閉め、そのまま布団に向かった。


布団を乱暴に引っ張り、身を投げればなんとも言えない幸福感が、私を包んだ。


ああ、やっと眠れる。おやすみなさい。


そうして、男二人を追い出した花菜は暫くすると寝息を立てて眠りについた。

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