第6話 「騙せると自惚れるな」

「りゅ、瑠さん。私もうお腹すきましたし、疲れちゃいました。もう宿を探しましょう。」


私はそろそろ本気で体力面でもにも疲れてきたため、瑠さんの腕を引っ張った。


「ああ、そうだな。しかし、宿も探すのが遅れてしまったからでいい宿はなくなっていそうだ。。」


2回言ったよこの人。めっちゃくちゃ棘あったぞ今?


言われた本人も、なにか思うところがあったのか気まずそうに目を逸らしている。


瑠さんは、大阪弁男に目を向けまるで「お?どうしてくれんだよ。おい?」というかのような目つきで大阪弁男を睨みつけていた。まるでヤのつく人のようである。


「......〜〜あぁっ、もうしゃーないなぁ!」


瑠さんによるメンチは5分もなかったが、体感時間はそれの3倍に感じてとうとう大阪弁男は声を上げた。


お?ようやく降参したのか。むしろあんなに睨まれてよくここまで耐えられたな。ちょっと見直しそう。


「わいの馴染みの宿がある、そこを紹介するから堪忍したれや!」


「ダメだ。」


「「ダメなの!?/あかんやねん!?」」


おっと、大阪弁男と被ってしまった。いや言葉はあってないけど。


しかし瑠さんや、何を持ってしてダメなんですか?別に紹介して貰えるならいいのでは?


「お前みたいなやつが紹介するところなんて信用できるか。それにそれ程度で良いとでも?少々自惚れが過ぎないか?」


......なんかすっごいこと言い始めた。つまり瑠さんが言いたいことって。


「もっとええところ紹介しぃ、尚且つわいが宿代を持つって言いたいんか?それはちょっと......」


ワァオ、これただの脅しになってません?ほら、見てよ瑠さん。なんか大阪弁男が涙目になってるよ。多分だけどもう泣くよあれ。


しかし、大阪弁男が泣きそうになったところで瑠さんが優しくなるはずもなかった。むしろもっと非情になった。


「できないなら、交渉は決裂だな。」


「え、ちょっ!?」


「花菜、すまないが少しランクの落ちたところになるがいいか?」


「え!?いや、それは全然構わないですが......」


「お嬢ちゃん!?」


「それじゃあ行こうか。」


瑠さんは大阪弁男に背を向けて、私を連れスタスタと歩いていく。大阪弁男の方をチラッと見れば何かを悔しそうにして、そして声を上げた。本日二回目である。


「もう、もう!!わかった、わかったから!みなあんたの言う通りにしよるさかいに!せやからそのまま置いていこうとせんといて!」


大阪弁男、完全敗北。




****


「うわ〜〜〜!!」


あの後、大阪弁男は瑠さんの言う通り、この街1番の宿屋に私達を連れていった。


目の前にある宿はとても豪華絢爛ごうかけんらんで装飾一つとったとしても高そうだ。素人の私じゃ分からないけど高級品って感じのものが多くある。とゆうかここまだ玄関なんですけど!?


「ここが、この街随一の宿屋『みやび』や!」


街随一!?すごい!もしかして大阪弁男って意外とすごい人なのかも?


「10点。俺ならここは絶対に選ばないな。」


瑠さんは最高級の宿屋の前に、ふてぶてしく言い放った。ええ!?これが10点なら、どこなら満点なの!?と言うか瑠さんならどこを選ぶの!?


「なんやて〜!ならどこが減点所やねん!?」


え、聞く所そこ?普通は「せっかく紹介したのに!」とか「ここ以外のどこなら良かったんだよ!」とかあるでしょ。あ、因みに私は大阪弁は話せない。生粋の東京っ子だ。


「ほう?商人のくせに、目利きもまともに出来ないとはな。」


「な、何を言って。」


「まず、玄関に装飾品を置きすぎだ。色々とごちゃごちゃしてるし、装飾品の色がお互いを責めあっていて、見てて見苦しい。しかも高級宿の割には盆栽のセンスが悪い。」


「ぐっ。」


「次に、門のの入口前から玄関までの道で既に減点だな。庭木に雑草が絡みついてたものが所々あったぞ。風情を入れたいならいいが、あれではせっかくの庭が台無しだ。」


「うぐっ。」


「その次に、宿の履物の布地の手触りが高級品にしては最悪だな。寧ろ良くこれが高級品だと思ったな?こんな粗悪品、俺なら絶対に仕入れん。」


「ぐはっ!!」


「まだまだあるぞ?もう少し続けようか?」


「もう、堪忍してや......」


もう既に大阪弁男は地に伏していて再起不能である。と言うかこれ泣いてない?


「あ、哀れ。」


いや本当に哀れだ。ここまでボカスカ言われるなんて、この人も思ってなかったんだろうな。


「これ程度でへこたれるとはな、根性ないやつだ。」


瑠さんもうやめてぇ!追撃しないであげて!大阪弁男のライフはもうゼロよ!


「まあ、今回はこれで我慢してやる。ただし――」


「――俺を、騙せると自惚れるな。」


瑠は静かに男に近付いて低い声を出し大阪弁男を脅した。


しかしその声はとても小さい声なのか、花菜は何を言っていたのかは全く聞こえなかったが、大阪弁男の顔が青くなったことに何かを察した


「オオゥ。」


大阪弁男、瑠さんの謎の琴線に触れあえなく撃沈した。


私は静かに大阪弁男に合掌した。




****


「うぐっ、ひっぐ。」


「あの。」


「うぇぇぇん!!」


私は今、何故か自分の泊まるはずの部屋であの大阪弁男を慰めてます。


どうしてこうなった!?



――さて、経緯はこうだ。


私は、この宿で食事と湯を楽しみゆっくりしてるところに、何故かこの男が来たのだ。


因みに瑠さんは風呂に入っている。


そしてこの大阪弁男は、来るなりいきなり大泣きをかまし、廊下で泣き喚くので仕方なく私は部屋に入れることにした。


そして今はこうなった。



――いや、やっぱりどうしてこうなった!?(本日二回目)


しかもかれこれこの人10分ぐらい大泣きだぞ?水分足りてるのかな?


「あの、お水飲んでください。」


「ヒックヒック。」


大阪弁男は泣きながら湯呑みを受け取り、しゃっくりを上げながら中にある水を何とか飲んでいた。


「あの、それでどうしてこの部屋に?と言うかどうして泣いているんですか?いや、理由はわかるけど。」


「ヒックヒック、すまないお嬢ちゃん。慚無ざんないところ見せちゃったなぁ。」


「いや、別に構いませんけど。既に結構見てるし。」


「うぐっ、結構刺さるなぁ。」


「それで、あの......お名前はなんて言うんですか?」


「おお、すまへん。わいとしたことが自己紹介を忘れるとはな。わいの名前はせんや。よろしゅう。」


大阪弁男は顔を拭い、爽やかだが少し胡散臭い笑顔で自己紹介をした。しかし目が赤く腫れぼったくなっているからか、本来の顔の良さは半減である。なんとも残念なイケメンだ。


「あ、私の名前は花菜って言います。さっきの男の人の名前h――「あいつの名前なんか知りたくもない。」......えぇ。」


私の言葉を途中で遮り、ぷいっとそっぽをむく大阪弁男こと泉は、まるで子供のように拗ねた顔をしている。泉の後ろでしっぽがゆらゆらと揺れていた。


「そないなことよりも、花菜ちゃんはなんで旅をしとんの?と言うかあの男とは恋人同士なん?」


「えぇええ!?いや、別に瑠さんとはこ、恋人ではありません!私の旅についてくれる、その、保護者みたいな存在です!」


私はおまりにも驚いて、お茶を飲もうとして持っていた湯呑みを落としかけた。


泉さんはすごく興味津々と言う顔でこっちを見てきた。さっきまであんなに泣いていたくせにぃ!!


「え?そうなん?ほなもしかしてあの男のひとりよがり?......ぷっぷー!なーんだあの男あんな顔しといて、ねーちゃんの子一人落とせへんとはなー。だっさいなぁ!」


何故か笑う泉さんはとても楽しそうであった。な、何を言ってるんだ?


と言うかもう泣いてないのなら部屋から追い出していいのでは?


「瑠さんはダサくないですよ、ちょっと女心が分からないだけです。あと、もう泣き止んだなら帰ってください。」


「ええ、酷くない花菜ちゃん!?もうちょっとおってもええやん!」


「駄々こねずに出てくださーい。」


「いやー!引っ張んといて!しっぽはあかんって!」


私は泉さんのしっぽを掴んで部屋の出口まで引っ張っていく。泉さんは頑なに畳にしがみついて立ち上がろうとしなかった。


くっそ!こいつ意外と力あるな!と言うかどうやって畳にしがみついてんだ!


私は全力で引っ張ろうとして、足に力を入れようとしたら、落ちていた布かなにかに引っかかり泉さん巻き込みんで大きな音を立て滑ってしまった。


「〜〜っ痛った。」


「うぃてて、大丈夫か花菜ちゃん?」


「はい、背中を打ちましたが何とか――」


パチリと目を開ければ、目の前に泉さんの顔があった。あれ?この体勢ってまさか押し倒された形なんじゃ......。


「おい、花菜!大き音がしたが大丈夫か......」


「「あっ。」」


この瞬間。室内は完全に凍りついた。


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