第4話「さあ、旅に出よう!」

「まあ、仕方ないだろう?機嫌を治せ。」


「......」


と子供に言い聞かせるように言いつつ宿でニヤけて笑っているのは私の旅仲間である瑠さんだ。


花菜はそんな笑う瑠さんに背を向け、完全に不貞腐れていた。


こうなった理由は2時間前に戻る――





****


「――やっちまった。」


古風溢れる小道に、一人の少女が顔を青くして呟く。その少女の足元には、腹を抑えて蹲っている男がいた。


ほんの数分前。男こと瑠は花菜を小さい子供と勘違いし、それに怒った花菜の回し蹴りが炸裂した。


ちなみに、花菜ぐらいの歳の子になんて言葉はあまり言わない方が良い。このぐらいの歳の子はとてもデリケートなのだ。


しかしその事が分からない瑠は、油断していたためモロにその蹴りをくらってしまい今に至る。


「あ、あの瑠さん?」


花菜は一向に起き上がらない瑠を心配し始めていた。


そこまで強く蹴ったっけ?いや、でもやばくない?このまま怒らせて放置されたら私、生きていけないんじゃ。


この後起きる悲劇を前に、花菜はどうしてあの時我慢しなかったのかと頭を抱えそうになっていた。


一応、瑠のために弁解しよう。花の身長は164cmであり、普通の(元の世界基準)平均よりかは高い。しかしこの世界は、何故か身長だけは西洋と同じで平均身長がとても高い。そして花菜は童顔であり、少しだけ幼く見えてしまう。そのため瑠は花菜をと勘違いしてしまったのである。


そう、これは不幸な事故なのである!!


「く、はは。」


「え?」


微かな笑い声に花菜は蹲っている瑠を見つめた。そのうち笑い声は小さいが笑っているなと分かるぐらいに大きくなっていった。


「ま、まさか。蹴るとはな。」


口元を引き攣らせている瑠は、見た限りではとても余裕そうで、この時花菜は自分がおちょくられていたことに初めて気づいた。


「せ、性格が悪い!」


「はは、お前こそ中々いい性格じゃないか。」


瑠はいい玩具を見つけた子供のような表情になっており、花菜はどっちが子供なんだかと目を半眼になってしまったのはご愛嬌である。


「そんな顔をするな。俺だって痛かったんだぞ?」


「そ、それはすみません。」


しゅんと子犬が悲しむような顔をした(自分の顔の良さをわかっている)瑠を見て花菜はこのイケメンめ!と理不尽に切れていた。


「これを被れ。」


「......これは?ローブですか?」


「ああ、それを深く被って着いてきな。お前のものを買わなくちゃな。」


私は瑠さんから貰った足まですっぽりと覆い被さる薄灰色のローブを着て、前の紐を結ぶ。フードをしっかり被れば後ろから頭に手を置かれた。


「行くぞ。」


「はい。」


優しく目尻を下げる瑠さんの後ろを、今度こそ私は付いて行った。




****


「くく、ローブで隠しているとは言えまさかあの後、10回以上も子供、しかもとはな?」


「うっさい!!」


――そう、私が怒っているのは子供扱いされたからでは無い。私をしたからである。


一応言わせてもらうが、私のスタイルは決して寸胴なんかでは無い。決してな!ちょっと胸が些細なだけで、向こうでは至って平均的だ。だがしかし、だがしかしだ言わしてもらいたい。


ここの世界の女の人は全員、ジェニファー○ーレンスか何かなのか!?


なんだあのボンキュッボンは!?なんだあのクビレは!?ここは和風では無いのか!?何そこだけ西洋風にしてんだ、趣味か!?


失礼、取り乱した。あと瑠さんは10とか言っていたがそれは正確じゃない。19だ。


まだ子供って言われた方が何倍も良かった。何故毎回毎回ボンキュッボンの女の人に「僕は何歳かな?可愛いね?」なんて言われなきゃ行かんのじゃ!寸胴で悪かったな!しかも瑠さんは毎回毎回それで吹いて悪ノリまでする始末だ。誰がだ。


「まあ、ほら。旅の準備はもう出来たし、明日に備えてこれを食べなさい。」


「......」


私は渋々瑠さんの持っていたおにぎりを貰う。味噌汁もどきと一緒に食べれば、いつの間にか苛立ちは薄れてきた。


「明日はどこに向かうんですか?」


「取り敢えず、北西にある街に行く。そこは獣人の街で流通が活発なんだ。そこで資金を稼いでから次に行こう。」


あ、資金。そう言えば私瑠さんに全て揃えてもらったし宿代も瑠さんもちだけど、お金ってどうすればいいんだろう?やっぱり私も稼いだ方がいいよね?


「あの、私も稼いだ方がいいですよね?」


「いや、必要ない。ちょっと稼ぐだけだから、花菜が心配することは無い。資金もまだまだ余裕だが、に備えるやつだしな。」


そう言われると何も言えなくなるが、なんか納得の出来ない自分がいて眉を下げた私に瑠さんは苦笑しながら頭を撫でてきた。


なんかやっぱり子供扱いしてるな?確かに瑠さんからしたら子供だけどさ!と言うか瑠さんは一体いくつなんだよ。見た目は30代ぽく見えるけど、ここは何せ見た目だけは西洋風だから当てにならない。


「......瑠さんって、一体いくつなんですか?」


「俺か?俺は25だな。」


25歳。つまり8歳差。そりゃあ子供扱いしてくるわけだ。だがムカつくもんはムカつく。


「もう、子供扱いしないでください!」


「何を言っている?子供だろう?」


意味がわからん。みたいな顔をする瑠さんにイラッとくる私はそっと枕を握りしめる。


ほほーう?どうやら瑠さんは女性の扱い方がお上手では無いらしい。では教えてしんぜよう、女性に対して子供扱いすればどうなるかをな!


「――先手必勝!!」


「うおっ!!何をする!!」


さあ、聖戦の始まりだ!


頭を撫でていた瑠さんに向かって、思いっきり枕を投げつける私の攻撃を、瑠さんは紙一重に枕を交わし、距離をとった。


その後さらに戦いは苛烈を極めたが、女将さんが突入してくるまで5分ともかからなかった。


それにしても、なんで他の人よりも瑠さんに子供扱いされた方がイラつくのかよくわかんないな。とこの時の私は首を傾げたのであった。そしてそれがわかるのは、



もっとあとのお話である。




****


次の日の朝、私は瑠さんが選んだ旅の服を着た。動きやすく袴のような服で色が、下が紺で上は白だが青いラインと花柄が入っていた。紐で結ぶところに可愛いらしい小さい紫と青の花が付いていて、ぶっちゃけすごく可愛かった。


私は髪をポニーテールに結び、笠を被った。笠からは濃いめの白い麻が垂れていて、黒髪目立たないようになっていった。そして前の布を開けるところの右上に黄色い花が添えてあった。


「うわ、可愛い。」


靴はブーツのような革靴で、そこだけは西洋風ねと思ったのはご愛嬌だ。因みに宿は畳なので履いてない。


部屋にある鏡を見れば黒髪によく映えていて、瑠さんの無駄に良いセンスの良さが窺えた。


ただひとつ納得いかないのは、これがサイズってことだった。



****


「準備はいいな?」


私は部屋から出て、瑠さんの部屋に向かった。既に瑠さんは準備が終わっていたらしく、お茶を飲んでいた。


「それじゃあ、行こうか。」


「あの、その前に何か言うことありません?」


私はドヤ顔で瑠さんに服装を見せた。瑠さんは最初は頭に「?」を浮かべていたが、私の意図に気づいてポンと手を叩いた。


「ああ、大丈夫だ。ちゃんと右前左前間違わずに着れているぞ。」


「――ちっっがうわ!!!!」


が、言われた言葉は全くの見当違いであったのは、瑠なので仕方ないと肩を落として片付けて花菜であった。





****


瑠さんと私は、宿屋を出て街の門を出た。ここから旅は始まるって言うのに疲れているのは無視して、街の外を見た。


大きな原っぱと奥の森が見え、今日ほどの天気によくあっていて、風が心地よく私の頬を撫で、私は少し体を伸ばした。


「行こう、花菜。」


「はい!」


私の最初の旅のスタートは、澄み切った青空と少しの気疲れと高揚感で輝いていた。



――ここから、わたしの旅は幕をあげるのだった。

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