第五話 オッドアイな校外学習
班決めから約二週間。
五月も半ば。
五月。俺のお母さんが花粉症の症状が出る季節。
俺達は今校外学習でテーマパークに来てます!
「って校外学習でテーマパークはおかしいだろ!」
朝学校に集合し、クラスごとにバスで移動。
テーマパーク「東京ランド」に到着後、各自先生から入場チケットをもらい、入場ゲートを潜る。
ちなみに「東京ランド」は日本で一位二位を争うテーマパークだ。
ゲートを潜り、その後班ごとに行動を開始したわけだが……。
今現在、ゲートから少し歩いた所にあるお土産屋さんの前にいる。
そして、俺は校内学習という定義と、テーマパークの矛盾を叫んだ。
「おい、春風どうした?」
春風の魂の叫びに疑問を浮かべる神岡。
「だっておかしいでしょ! 校外学習。学習なのにテーマパークって。神岡くんもそう思わない?」
「まぁまぁいいじゃねぇの。そんなことより俺は別の事に疑問を浮かべてるんだが……」
「何に?」
「女子共が今現在お土産を見ている」
「それがどうかしたの?」
「普通帰る直前で買うくね?」
そう。女子共は今お土産屋さんにいる。
まぁそれは許容範囲だ。
よく見るカチューシャ? とか、装着してテーマパークを楽しむぞって感じの物を買うのならまだいい。
ただ女子共がしているのはお土産を買うという行為だ。
それは、マスコットが描かれたチョコであったり、クッキーなどの食べ物。その他にシャープペンシルや、ボールペンなどといった文房具。
いわゆる嵩張るってタイプの物。
女子共は今それらを吟味している。
普通なら帰る直前に買って、テーマパークを後にする。
そうだ。おかしい。
神岡の言っている事は正しい。
「そうだね。確かにそうかも」
「だろ? てゆうか何で俺達外で待ってるわけ?」
何故だろう。
なんか雰囲気を読んで外で待っていようってなったはず。
「本当だ。神岡くん。止めに行かない? やっぱり帰る直前で買おうって」
「それ名案」
こうして俺達は無事、他の班よりも出だしが遅れたのであった。
▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎
「どうする?」
店を出た後、橘が喋り出した。
「とりあえず何か乗るべきじゃね?」
神岡が橘に返事をする。
「私達出遅れちゃったしな〜」
「いや、それはお前らのせいだろ」
橘と神岡が流れるように会話をする。
「雪と春風はどこ行きたい?」
どこへ行きたいか……。
正直東京ランドについては全くわからない。
小さい頃に何度か来たのは覚えているのだが、乗り物の内容とかまで流石に覚えてない。
それに、特に「乗りてぇぇ!」って思うものもまだ無いし……。
「雨宮さんは?」
春風は雨宮に振った。
「え? 私? うーん。そうだなー、このジェットコースター気になる。あっ、このなんとかシップも気になる。これも気になるし。うーんどうしよう……」
ガイドマップに載っているアトラクションを次から次に乗りたいと言っていく雨宮。
「雪はこういう時楽しそうにするからな〜」
橘が笑いながら独り言を語る。
「え!? そうかな」
「いや、そうだろ」と、俺と神岡は心の中で思った。
「それじゃあ雪が行きたがってる一番近いやつ行こっか」
橘の名案により、俺達学級委員班はようやく動き出した。
俺達がまず向かったのは、室内型アトラクション。超絶リアルな映像を乗り物の形をした椅子に座って見るアトラクションだ。
これが意外とリアルで、実際に俺達が飛んでるように見えるし、ジェットコースターに乗ったみたいに体がフワッとする。
ストーリーも凝っていて楽しめた。
「すごかったな」
神岡が興奮気味に喋る。
「うん! 楽しかった!」
それに雨宮も乗っかる。
「春風はどうだった?」
橘が春風に会話を振る。
「楽しかったよ!」
普通に楽しかった。正直もう一回乗ってもいい。
並んでる時に前の人達が言っていたのだがあのアトラクション、なんとストーリーが八個あるらしい。
毎回ランダムなんだとか。
いや、やっぱ訂正。もう一回乗りたいって思うくらい楽しかった。
「いいね! 春風も楽しんでるようだし、次は、これか!」
橘がそういってマップに指を差す。
指が差されていたのはこのテーマパークの主砲二つの内の一つ。
雨宮がなんとかシップって言ってたやつである。
俺達はそのなんとかシップ。又の名を「パイレーツシップ」。
見た感じ、船。海賊船に乗って回る感じだが……。
アトラクション到着した春風達の目の前で、上から下に船が落ちる。
乗っている人々が叫び声を上げる。
あー、やっぱ撤回。
回るとか嘘だわ。これ、絶叫系だ。
しかも結構怖いやつ。
「よーし! 並ぶぞ!」
橘が腕を上げ、俺達を率いる。
「相変わらずテンション高けぇな橘は」
「そりゃあね。私以外もテンション上がるでしょこれは」
どうやら橘はこういう絶叫系が得意というか好きらしい。
行きのバスでも話したのだが、ザ・テーマパークに来るとまず最初に絶叫系に乗るらしい。
「現在待ち時間百分待ちでーす!」
海賊の格好をしたスタッフが、現在の待ち時間と書かれた板を掲げている。
「百分か……。俺トイレ行ってくるわ」
「あっ! 私も」
神岡と橘は百分という長時間の待ち時間を聞いて、トイレに行っとくべきと判断。
それもそうだ。なんせ百分なのだから。
平日で百分は普通に凄い。
流石は日本のテーマパーク界トップの東京ランド。
土日とかの待ち時間が少し気になる。
きっと二百分とか平気で行くのだろう。
にしても、神岡と橘がいなくなったという事は……。
それはすなわち春風と雨宮二人のみという事を示す。
言い換えると「死」。春風にとって死を示す。
とりあえず会話を。
「百分か。凄いね」
自然な感じで会話をしようと試みる。
「そだね」
あれ?
そっけないな。もしや
「雨宮さん。そのー真面目モード終わり……ですか?」
攻めた。春風にしては攻めた。
「何? 真面目モード? 何それ」
「あ、いや、いつもの優しい雨宮さんはどこに行ったのかなと」
「はい? 変わってないけど」
とんでも無い事実が発覚した。
彼女は無意識だ。
無意識で真面目モードと、恐ろしモードを切り替えてる。
「あ、やっぱなんでも無いです」
雨宮に対して春風はすぐさま引く判断。
最初攻めたのは春風であったが、これはまずいと判断。
「あっ。春風」
それに対し、雨宮は間髪入れずに畳み掛ける。
「な、なんでしょうか雨宮さん」
「話さないでよ。あの二人に。話したらどうなるか……」
「も、勿論分かってますとも! オッドアイの事は決して話しません」
口が裂けても俺は言いません。
もう知ってます。
「だから言わないでって言って……」
「たっだいま! ごめんごめんお待たせ。あれ? どうしたの? なんかあった?」
春風がオッドアイという言葉を出したのを雨宮が注意しようとした時、神岡と橘がちょうど帰ってきた。
「え? 何も無いよ? ね、春風くん」
もう見飽きたモードチェンジ。
はいはい。分かってますとも。
そんなにこっちを睨んで脅さないで下さい雨宮様。
てか逆に怪しまれそうだけどな雨宮の返答。
「何にも無いけど」
「そっか。さてと全員揃ったところで行きますか! パイレーツシップ!」
アンタ達を待ってたんだけどな。
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スタッフが言うには百分待ちだったが、意外と待ち時間は短く、一時間位で乗れた。
やっぱりああいうのは長めに設定してるのだろう。
「それでは奥から順番にお座りいただいて、目の前の安全バーをお腹の所までお下げください」
海賊姿の店員が指示する。
春風達は順番に座り、言われた通りに安全バーを下げた。奥から順番に橘、雨宮、春風、神岡の順番だ。
「それでは発進致します! 面舵いっぱーい!」
お決まりのセリフを言い、船、いや俺達の海賊船が動きだした。
信じられない位ゆっくり進む。
本当にあの落ちるやつなのか? と、疑うくらい静かに進む。
「私、この水系アトラクションの塩素の匂いが好きなんだ〜」
様々な海賊達が横で会話している中、橘が喋り出す。
「あー俺も分かるわ。プールの匂い的な?」
神岡が賛同。
「そうそう! プールの匂い! 雪と、春風は?」
プールの匂い。
あのなんていうか分からない匂い。説明しようにも上手く言えない。
プールの匂いというのが最適解。
そんなプールの匂いが好きと言う橘。
少し分かる。俺もプールの匂いは嫌いでは無い。
ただ、好きかと言われれば好きでは無い。
「俺は好きでも嫌いでも無いかな」
「なんだよ。その中途半端な答え」
神岡が笑う。
「私も普通かな。麗奈みたいに好きってわけではないかな」
「えー。私と神岡だけ? 嘘〜!」
そんなこんなで周りの海賊達の会話をフル無視して、喋ってると前方に斜面が現れた。
しかも結構な斜面だ。斜め四十五度位の斜面だ。
「キタキタ! 上に参りまーす!」
ただでさえテンションの高い橘のテンションが今現在進行中の海賊船くらい登り上がる。
「や、やばいよ麗奈! 私ちょっと怖くなってきちゃった!」
あら珍しい。
雨宮が恐れる物があったとは。
「大丈夫だよ! ほら神岡を見て。まだ落ちてないのにもう手上げてる」
そういわれて隣を見ると、元気いっぱいバンザイをしている神岡がいた。
「早くない? 神岡くん」
春風が問いかける。
「いやいや、もう楽しみすぎて手が上がるんだ。備えあれば憂いなしってやつ?」
「いや、それはちょっと意味わからないけど」
春風の指摘に雨宮と橘が首を縦に振り頷く。
「とりあえず大丈夫だって雪。めちゃくちゃ楽しいから!」
「う〜。やっぱり怖いよ……」
「どうした雨宮! そんなこと言ってももう引き返せねぇぞ! ほらもうすぐ登り終わる!」
神岡の言う通り、俺達海賊船の角度がフラットになっていく。
テーマパーク全体が見渡せる。
こんなに高く登ってたのかと思わせる景色だ。
こう見ると人が沢山いる。
あっ。あれ如月じゃね?
「来るぞ! 落ちる!」
さっきとは真逆に、斜め四十五度下に海賊船が傾く。
速度がゆっくりとなり、「あっ、落ちる」と思った矢先、海賊船が落ちる。
え?
「イェーーーーイ」
「キャーーーーー」
「ヒャッホーーー」
橘、雨宮、神岡がそれぞれ悲鳴を上げる。
いやいや、俺はそんな場合じゃ無い!
「キャーーーーー」みたいな悲鳴なんてあげてる場合じゃ無い。
春風が驚く理由。
落ちてる最中、右腕に何か巻きつく感覚があった。
最初は何か分からなかった。
もしかするとこのアトラクションで亡くなった人の幽霊がまとわりついてるんじゃ無いかとも思った。
それかこれも演出?
そんな疑問は右隣を見て一瞬で解決した。
雨宮が春風の腕に抱きついていたのを見たから。
▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎
ど、ど、どうするべき?
分からない。分からないが過ぎる。
どうするべきだ?
【パターンA】
「雨宮。そんなに怖かったのか? 安心しろ俺がいる。好きなだけそのままでいろ」
「うん! ありがとう!」
いやいやいや!
これだけは絶対に違う!
こんな事したら雨宮だけじゃなく、これからの学校人生全て崩壊するわ!
なら……。
【パターンB】
「……」
「……」
無言はダメだろ!
却下だ!
ならこれは……
【パターンC】
「……あ、雨宮さん。腕」
「……!?」
よし。これで行こう。
神岡と橘に聞こえないように小さい声でボソッと言おう。
その後はもうどうなってもしょうがない。
正直雨宮の行動は読めない。
よし。行くぞ……。
「あ、雨宮さん。腕……」
作戦通り、小さくボソッと雨宮に耳打ちをする。
「……!?」
よし、ここまでは想像通り。
この後が問題だ。
「……」
……っ!? 無言!?
無言は想定してなかった。
雨宮の顔は意外にも冷静だった。
何も無いならこのままにしておくのが仏。
そっとしておこう。
アトラクションは終了し、橘から順番に降りていく。
「あ〜、楽しかった! ね! 皆んな」
橘が喋り出し、振り返って皆の顔を確認する。
「やっぱ絶叫系だぜ!」
さっきまでと変わらず元気の神岡。
「私は怖かったよ麗奈〜! 今も膝が震えて」
何事もなかったかのように冷静に振る舞う雨宮。
「そ、そうだな」
一方何故か雨宮ではない方が慌てている春風。
「だよねだよね〜! やっぱり絶叫系だよね。じゃあ次はどうする?」
ニコニコ笑顔の橘。
疲れなど感じさせない振る舞い。
もう次のことを考えてる。
「あっ、麗奈。私ちょっとトイレ」
すると、雨宮がトイレに行くと言い出した。
「オッケー。ここで待っとくね」
俺達はアトラクションから出た後すぐのお土産屋さんで待つことにした。
アトラクションの出口は必ずと言っていいほどお土産屋さんに繋がっている。
言い方が悪いがこれで金を稼げるのだろう。
ふと出口を見ると、外で手招きをしている雨宮を春風は見つけた。
神岡と橘は気付いてない様子。
すると……
「こ、い。こ、っ、ち、こ、い」
雨宮が口パクを喋る。
一瞬で春風は理解した。
さっきの冷静は何故だったのか。
何故さっき殴ったりしなかったのか。
何故トイレに行くと言い出したのか。
全て、神岡と橘にバレないようにし、俺と二人になり、ボコボコにする為にした行動だったと。
俺は心を決め、神岡と橘に「トイレに行ってくるね」と言い、早歩きで、できるだけ早くかつ、橘達にバレないように雨宮の元へ向かった。
「は、はいなんでしょうか?」
「こっち」
そう言った雨宮は人の気配のない所を先に見つけていたのか、春風をそこまで案内しだした。
ヨチヨチとついていった春風は、前を歩いていた雨宮が急に止まったのにビックリし、姿勢をピーンと伸ばす。
振り返った雨宮がこちらに歩み寄る。
春風は近づいてくる雨宮から逃げるようにゆっくりと後退りする。
しかしその後退りも壁に追いやられたところで出来なくなってしまった。
雨宮が拳を掲げた。
あっ。ついに殴られるのか。と、春風は思い、目をギュッと瞑った。
バンッ! と大きい音がなる。
ゆっくりと目を開くと、目の前には少し顔を赤らめた雨宮がいた。
いつかで見た逆壁ドンをされたのだ。と春風が認識出来たのは数秒後の事だった。
認識した後、少し間が空いて雨宮が口を開く。
「春風。さっきの事は忘れなさい。これは命令。あれは事故なの。不可抗力。もう一度言うわ。あれは事故。忘れなさい。いい?」
少し赤い雨宮が、真剣で本気で真っ直ぐ春風の目を見て脅してきた。
「も、勿論なんとも思ってないよ! ただビックリしただけだし。言わないよ」
「誰にも言わないでね? ていうか言うな。 ああ! しくじった! やっちゃったぁぁ!」
春風の両脇にはまだ雨宮の腕がドンと置かれたままだ。
まるでこの世の終わりみたいな後悔をする雨宮。
「見てみてママー! あの二人イチャイチャしてるー!」
ふと子供の声がした。
当然だ。大人気のテーマパークなのだから。
子供の一人や二人。いや千や二千くらいいるに決まっている。
子供の声がした方向を見ると、子供の母親らしき人がなんどもペコリとお辞儀をしていた。
「可愛い子供だね。あまみ……」
再び雨宮の方向へと顔を向けると、顔を真っ赤っかに染めた雨宮がいた。
今にも火が出そうなくらいの雨宮が。
春風の首元にある彼女の腕から熱が伝わってくる。
「雨宮さん? 大丈夫!? もしかして風邪ひいて……」
「バ、バカァァァァァァ!」
雨宮の拳が春風の頭を直撃する。
それから春風は橘達の元へ戻るまでの間の景色、音、匂い、その他諸々の記憶が無かったのは言うまでもない……。
オッドアイの同級生に脅されてるんですけど! 夜星(やぼし) @nekoneko_00000
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