第四話 オッドアイな班決め
「ご注文はお決まりでしょうか?」
メイド服を着た可愛い、いや、カワイイ店員さんが俺たちに注文を聞く。
俺達がやって来たのはよく見るファミレスだ。確か四角いステーキが有名なところだったはず……。
まぁそんなことはどうでもよく、俺は雨宮に「お前も来い」と、脅され、現在雨宮と如月、そして俺という女子ニ、男子一という地獄の底にいるわけだが。
「えーっと、じゃあこのパフェを一つ。雪は?」
「私も同じのを」
如月と雨宮が頼んだのはメニューの最後にでっかく書かれた「苺とチョコのデッカパフェ」だった。
名前のセンスは一旦置いといて、何故女子高生という生き物は甘い物を欲するのだろうか。
この謎が解けるのはまだまだ先のことだろう。
「ちょっと! 空? 聞いてる?」
如月の声に春風は驚き、「うわっ!」と叫んだ。
「な、なんだよ」
「なんだよじゃない! 「空は何頼む?」って何回聞けばいいのよ!」
何回も呼んだのだろう。怒りながらメニューを渡してきた。
「ごめん」
流石に申し訳なかったので春風は謝った。
「何頼むの?」
雨宮が優しく問いかけてくる。
俺と一対一の時とは全く違う態度。
本当にこいつは……。
「ん〜。じゃあドリンクバーを」
俺はこいつらみたいに甘い物を頼まず、ドリンクバーだけを頼んだ。
「かしこまりました。ドリンクバーはあちらからお取りください」
そういったメイド服を着た店員さんは去っていった。
「えぇー。空パフェ頼まないの?」
パフェを頼まなかった俺をまるで未確認生物を見たような反応を如月は俺にしてきた。
「誰もが甘い物を頼むと思ったら大間違いだ」
「なんでよ。こんなに美味しそうなのに。ほら見てよ! このパフェの写真! 苺がたっくさん入ってるんだよ? その苺の山の上からチョコソースがかかってるんだよ!?」
「どんなに熱弁しても俺には届かねぇよ如月」
論文並みの熱弁をされたが、パフェの良さは全く分からない。
「こんなに美味しそうなのに……。ねぇ雪?」
「え? う、うん」
雨宮も引いてるじゃねぇか。お前の熱量に。
「そうだよね! 雪もそう思うよね」
どう見て聞いたらそんな反応ができるんだよ。
誰がどう見ても引いてるよ? 如月。
「じゃあ俺飲み物取ってくるわ」
そう言って俺は席から立ち上がり、ディスペンサーが置かれているところまで歩いた。
途中家族連れやらカップルやら部活帰りであろう学生達が見えた。
「苺パフェ食べたいぃーー!」と、子供に駄々をこねられている母親も見えた。
「そんなに上手いのか? ここのパフェは」
俺はガラスのコップを取り、オレンジジュースを入れて、座席に戻った。
よっこいしょと、言いながら春風は席に座る。
俺が席を外している間に会話が進んでいたのだろう。
「見て見て! この服!」
「可愛い!」
うゔー。気まずい。
ただでさえ、二体一という難易度の高い状況なのに、女子の服という俺の全くわからない話をしている。
俺は少し如月の携帯を覗いた。
あ、あれが可愛い?
さ、さっぱりわからない。
雨宮と如月の会話はさらに盛り上がる。
現役女子高生の会話は男が到底参加できるものではない。
さっきまで服の会話をしていたはずなのに、次は恋愛ドラマの話をしている。
切り替えの速さが尋常じゃない。
「空は見てるの?」
「え!?」
さっきまで会話に参加させてもらえなかった俺に如月が急に話を振る。
「これだよこれ。このドラマ」
そう言って如月は携帯の画面を見せてきた。
如月は話を続ける。
「このドラマ雪も見てるんだって!」
「って言われても俺にはわからないよ」
当然俺が知っているわけがない。
大体恋愛ドラマなんて結末が予想できるし、次こう言うんだろうなって考えてしまうから楽しめないんだよな……。
「面白いのに……」
「すいませんねぇ。存じ上げてなくて」
明らかに如月が俺に呆れているのがわかる。
申し訳ない気持ちで一杯だ。
「……ってなんで俺が謝らなきゃいけないんだよ!」
春風のノリツッコミは無視され、如月と雨宮は会話を続ける。
彼女達の会話は長い時間続けられた。
▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎
「じゃあ、またね! 雪」
「うん。バイバイ琴葉ちゃん! 春風くんも」
ファミレスの前で別れの挨拶をして俺と如月は雨宮と別れた。
ファミレスから駅に向かって春風達は歩く。
駅まではそう遠くない。
徒歩五分くらいだ。
「雪めちゃくちゃ可愛いよね!」
如月が触れにくい話題を振ってきた。
「この場合どういうのが正解? 可愛いって言うべきなの?」
「え? 雪のこと可愛いって思ってるの!?」
今にも笑い出しそうな声で聞き返してくる。
「はぁ……もういいや」
この話題は危険が多い。
適当に会話しておこう。
「思ってるんだぁー」
ニヤニヤしている顔が嫌でも視界に入る。
「はいはい。思ってますとも」
「雪に教えてあげよっと」
とんでもない事を言い出した。
起こり得る最悪の展開じゃねぇか。
もし、そんなこと言われたら……
想像するだけで鳥肌が立つ。
それはそれは鳥になってしまうくらい。
どうせ「きも……」とか、「馬鹿にしてる?」って殴られるに決まってる。
そんな未来が手にとるように見える。
「い、いや、如月様? どうかそれだけは勘弁してください。お願いします!」
「どうしよっかなー。んー、それはそうと喉が渇いてきたなー」
こいつ……。いつか絶対にやり返してやるからな!
「も、勿論買わさせて頂きますとも!」
「じゃあ、新発売の抹茶ラテをお願いね」
クッソ。このアマが。
春風たちはコンビニに寄って、正確には俺だけ中に入り、抹茶ラテを買った。
「これこれ〜。これが飲みたかったのよ」
抹茶ラテを受け取った如月は美味しそうに飲んだ。
春風は優しく頭を叩いた。
「……調子に乗るな」
「イタタ……」
如月は頭を押さえて蹲った。
「女の子に手を出すなんてサイテイね!」
「はいはい。そうですね」
春風は適当に返事をし、抹茶ラテと一緒に買った紅茶を飲んだ。
「うぅーひどい」
俺達は飲み物を一口飲んだ後、再び歩き出した。
歩道を歩く春風達の横を車が走る。
歩道に並ぶ桜の花はほぼ散っている。
「桜散ったな」
思わず口に出してしまった。
「確かに! もう四月終わるしね……」
高校に入学してからもう約一か月。
早いような遅いような。
そんな微妙な感覚。
沈黙が流れる。
「空さ……」
突然如月が口を開いた。
「ん?」
「ちょっと変わったよね」
うーん。どういう意味でしょうか。
うーん。難しいこと言い出したぞ?
「変わった?」
「うん。なんか少しだけ明るくなった。少しだけね」
明るくなった?
うーん。にしても少しだけって二回も言わなくてもよくないかな?
「うーん。そうかな」
「気のせいかもしれないけどさ」
そう言った如月はクスッと笑った。
「笑わなくても……良いんじゃない?」
「ごめん……っ! やっぱ気のせいだ……っ」
如月笑いながら喋る。
うーん。そんな気は全くしないんだけどな。
春風達は歩道を歩く。
▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎
「……」
俺は眠い体を起こした。
洗面所に向かい、歯を磨く。
母親が作ってくれたご飯を食べ、家を出る。
「いってきまーす」
昨日はあの後普通に帰った。
昨日の事を一言で表すのならエモいって言葉だろう。
エモいなんて生まれて初めて使った。
「あれがエモいか……」
「エモいって何が?」
コンビニで買ったお茶を持つ春風の前に、エモの原因となった如月が立っていた。
昨日と相変わらず元気な如月が。
「エモいを知ったんだよ俺は」
「は、はぁ?」
春風達は学校へ歩き出した。
「ねぇ。空は校外学習の班決まった?」
ある程度歩いた時、如月が喋った。
「いや、今日決める」
そうだった。今日仕切らないといけないんだった。
「ふーん。空は誰と組むの?」
「そりゃー……そりゃー……」
…………誰と組む!?
考えてなかった! まずいな。
「組む相手いないんだね……。私応援してるから」
そう言った如月は俺の肩をポンポンと叩く。
如月に気を使われた。
「組む相手ぐらいなんとかなるし! お、お前はどうなんだよ如月」
「私? 私はもう決まってるよ。昨日決めた」
クーー! 裏切り者め。
そういやお前は友達いっぱいいたな!
「雪と組めば?」
「は?」
ふざけんな! あいつとなんか組んだら終わる!
そもそも相手が俺の事を遠慮するに決まってる!
「雪と組めば良いじゃん!」
「それだけは、それだけはゼッッッッッタイに嫌だ!」
▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎
なんで……なんでこうなった……。
あり得ない。そんなのあり得るはずがない。
おかしい。理不尽だ。
理不尽を極めすぎている。
なんで。
▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎遡る事五分前▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎
「それじゃあ、今から校外学習の班を決めましょうか!」
教卓の前に立ち、生徒達に向かって喋り出した由良召先生。
先生は昨日の放課後言っていたように、「ここからは学級委員さんが仕切ってくれま〜す」と、緩く言った。
俺達はこうなる事を事前に言われていたので、席を立ち、前に出た。
「えーっと。それじゃあ班を決めたいと思うんですけど、自由で良いよね」
これまた緩く適当に喋る雨宮。
俺もまぁ、自由に決めるのが良いと思っていたし、この案に賛成した。
クラスが騒めく。
「私と組もう!」とか、「一緒に回ろうぜ!」
とか色んな会話が聴こえてくる。
さて、問題は俺たちはどうするのかという事なんだが……。
皆んなワイワイ騒いでいるし、参加しようにも学級委員なので前に立っておくべきだと思うし、さて、どうしようか。
そんな問題はとある声によって一瞬で解決した。
「皆んな〜! 一班四人だからね! あっ。そうそう。春風くん。雨宮ちゃん。言い忘れてたんだけど、学年の方針で今回の校外学習、学級委員は同じ班になってって事になってるからそこんとこ配慮して班決めてね!」
「え? どういう事ですか?」
言っている意味が理解できなかった。
四人一組っていうのは理解できた。だが後半部分が一切理解できない。
「だからね。春風くんと、雨宮ちゃんは同じ班になってねって事よ」
先生はすっごい綺麗なスマイルをこちらに向けてくる。
春風は頭をフル回転させた。
あー。なるほど。俺と、雨宮が同じ班になれば良いのね。りょーかいです!
……。
「はい!?」
「どういう事ですか!?」
春風と雨宮が同時に叫ぶ。
きっと雨宮も長い思考時間を重ね、俺と同じタイミングで理解したのだろう。この人の言葉を。
「なんでわからないのよ〜!」
「いや分かるわ!」
「いや分かるわ!」
またもや同じタイミングで先生にツッコミを入れる。
「俺が聞きたいのはどうしてそういう方針になったのかって事ですよ!」
「それはね……」
俺への返答を勿体ぶる。
「聞いてなかったから分かんない。テヘペロ」
舌を出し、頭に拳を乗っける先生。
こいつ! 適当言いやがって!
大方寝てたんだろうよ!
この人、実は結構抜けてるからな!
そう。実は由良召先生は、少し抜けている所がある。
例えば、次の授業の担当なのに、自分が担当である事を忘れて授業に遅刻してきたり、Tシャツを前後ろ逆に着て来たり、初挨拶の時に「好きな食べ物は何ですか?」って生徒からの質問に、猫って答えたり……。
結構抜けてる所がある。
「……。はぁ。分かりました……。」
もうこの人に何言っても通じない事を悟った春風は、折れて、一緒に班になる事を選んだ。
選びたくて選んだわけじゃあない。
ああなった先生には何を言っても通じないって事がこの一ヶ月間で分かっていたからだ。
問題はもう一個ある。
そう。
あの人の顔を見る事ができない。
片割れを。
もう一人の学級委員を。
相方を。
雨宮を。
つい返事をしてしまった!
見れん。全く見れん。
背後からものすんごい視線が飛んできてるんですけど!
背中が熱い! 視線で熱い!
春風はそーっと振り返る。
鬼がいた。
それも赤鬼じゃない。青鬼が。
目を細めて、まるで威嚇状態の猫。いや、あれはネコ科の中でも最強、あのライオンよりも強いと言われるあのネコ科動物。
「……アムールトラ」
!?
春風は声を漏らした。
それも結構大きな声で。
きっと、雨宮にも聞こえただろう。
どうやら聞こえてたみたいだ。
こっちに向かって歩いてくる。
あぁ、終わりだ……。
「どうするのよ!」
叩く、殴るなどの暴行はせず、小声で相談という意外な反応だった。
「た、叩かないんだ……」
「叩かないわよ! それとも何? 叩かれたいの?」
叩かれたいの? と聞く雨宮の手はパーとかではない握り拳にしていた。
「そ、そんなわけ」
「てかそんなことはどうでも良いのよ! どうするの? 私達班一緒じゃないといけないんでしょ!」
そうだ。俺達はピンチなのだ。
どうする? どう切り抜ける?
一緒の班なんて、俺はともかく雨宮が嫌がるに決まってる。
秘密を知られた男と一緒なんて絶対に嫌なはずだ。
どうにかして切り抜ける方法は……
「春風。どうするのよ。このままじゃ皆んな班が決まって私達の班二人だけになるわよ」
これまた意外だった。
思っていたのと違う。
「え? あっ、え、あ、そうだね。えっと、誰か余ってる人とかいるかな」
「なんでそんなに詰まるわけ?」
返答に驚いてた春風の声はビックリするほど詰まった。
その喋りに雨宮がツッコミ? を入れる。
「どうする雨宮さん。誰かいるかな」
クラスを見た感じ、大体決まって来ている。
早くしないと、人がどんどんいなくなる。
「私が聞いてみるよ」
そう言った雨宮は喋り出した。
「あのー誰か私達学級委員と組める人いますか? あと二人何ですけど……」
雨宮の声はさっきまでとは打って変わって、優しく、気品のあるいつも通りの真面目モードだった。
そんな雨宮でも流石に無理そうだ。
皆んな仲良い人同士で組んでるし、そもそも雨宮だけならともかく、春風がいる。
この男がいるから皆んなが遠慮するのだ……。
「俺でも良い?」
一人の男が手を挙げて問いかけてきた。
正直ビックリだった。
手を挙げた人物の名前は神岡仁。
瞳は黒く、金髪。
サッカー部に所属。
イケメン。男の俺でも惚れそう。
このクラス、いや、誰がどう見ても陽キャ。
机に座って喋るタイプの人間。
そんな男が俺達の班に入りたいと手を挙げたのだ。
クラス全員の視線が彼に集まる。
それくらいリーダー格の人間なのだ。
「え……ダメ?」
一斉に静かになったクラスの中で続けて神岡は喋る。
「えーっと。私はいいけど……春風は……んん゛。春風くんはいい?」
雨宮は神岡と組むのを了承した。
俺は神岡という人間をあまり知らないけど文句を言ってもしょうがないし、それになんだかいい人そうだし大丈夫でしょ。
それに俺の班に入りたいって言ってくれてるんだから断る理由はない。
てか、雨宮一瞬真面目モード消えてたよね。
「もちろんいいよ」
「よーし。じゃあ決ーまり。あと一人誰かいない?」
流石の陽キャラ。
恥ずかしいとか、目立つとか一切気にせずに誰かいないかと、もう一人を探す。
「え? 雪決まってなかったの? じゃあ私達の班多かったし、私でもいい?」
神岡の声に反応者が一人。
この声には聞き覚えがある。
そう橘さんだ。
彼女が手を挙げた。
「いいけど、大丈夫なの? 麗奈、班決まってたんじゃ……」
当然の心配。
自分達のせいで他の班に迷惑をかけるわけにはいかない。
当然の心配だ。
「大丈夫だよ。人数多くて決まらなかったし、それに私が抜けるとちょうど良くなるし。ねぇ皆んな」
そう言う橘の言葉に班員になる予定だった人達が賛同した。
「それに雪と組みたかったし」
「ならいいんだけど……」
雨宮は俺の方を見てきた。
きっと、橘を班員に入れてもいいよねって事だろう。
俺は全然いい。
むしろ、少し面識があるし大歓迎だ。
別に友達いないから少しでも面識がある人がいいっていうことじゃないぞ。
問題は神岡との相性だ。
喧嘩していたり、昔から犬猿の仲だったりしたら大変だ。
その辺りが心配だが……
「皆んな決まったみたいだぞ雨宮、春風」
そんな心配は無さそうだ。
犬猿の仲なら今、断りを入れるはず。
それがないって事は別に仲が悪いとかではないって事だから。
「えーっとじゃあ次は班ごとに別れて下さい。
……。じゃあ先生」
俺は班ごとに別れてもらい、皆んなが別れたのを確認してから先生に後を託した。
「はーい。じゃあスムーズに決まったのでここからは班ごとに相談して決めてもらいます。って言っても決めるのは一つだけなんだけどね。班長を決めてくださーい」
先生が冗談を交えながら説明する。
「どうする?」
俺達の班で最初に喋ったのは神岡だった。
まぁ、想像はできてた。
「ん〜どうしよっか。雪とかでいいんじゃない?」
次に喋ったのは橘だった。
とかって言うのが少し気になるが、雨宮でいいんじゃね? 案には賛成だ。
「えー! 嫌だよ麗奈」
しっかりと断りを入れる雨宮。
「となると……」
神岡が喋り、班員全員の視線がこちらに向く。
「え!? 俺ですか?」
意外な所で会話が回ってきた。
俺にはならないと思っていたのに回ってきた。
「そうなるよねー」
「そうなるな」
「春風で……んん゛。春風くんできる?」
橘、神岡、雨宮がそれぞれ順番に喋る。
てか雨宮、また真面目モード切れかけてるじゃねぇか。
「んー。俺は正直雨宮さんがいいと……」
ふと顔を雨宮の方に向ける。
あっ、これダメだ。殺される。
怖っ!
「んん゛ん゛。お、れ?」
俺は雨宮を推そうとした事を咳払いで訂正し、本当に俺がやるのかもう一度問いかけた。
「そうなるな」
「そうなるね」
「そうなるわね」
三人が同時に肯定する。
これはもう無理だと春風は悟った。
「はぁ。分かったよ。俺やるよ」
かくして春風が班長をすることになった。
「時間余ったな」
神岡が喋る。
「皆んな意外とまだ決まってないね」
橘の言う通り、まだまだ皆んな決まらなそうだった。実際隣の班はまだ決まってないみたいだった。
春風は不意に気になったので神岡と橘に話しかけた。
いや、俺は喋るのが苦手とかじゃないからな!
「橘さんと、神岡くんは何で俺達学級委員の班に入ってくれたの?」
純粋に疑問だった。
橘はあと少しで決まりそうであったし、神岡に至ってはいつものメンバーや、その気になったら誰とでも組めたはずだ。
なのにどうして、よりにもよって、俺達の班に来てくれたのか。
しかもあんまり喋った事が無いはずなのに。
橘と雨宮は例外だけど……。
「私は単純に雪がいるからいいやって思って入ったよ。元々の班も人数多くて決めにくかったし。それに神岡ともまぁまぁ仲良いし、春風とだって一回喋ったしいいかなって」
橘が言うには「全員と喋ったことあるし」だと。
あの時の俺と橘のは会話に入るのか? という疑問が浮んだが一旦スルーで。
「俺はそうだな。シンプルに話してみたかったからかな」
「そうなの?」
「あぁ。それに、春風達学級委員仲良さそうだったからな。俺も喋ってみてぇって思った」
「あっ、それ私も思った。いつも楽しそうに話してるし」
「仲良くねぇ!」
「仲良く無い!」
春風と、橘が息ピッタリで二人に指摘する。
神岡と、橘が話してみたかったってのには驚いたけど、仲良いってのは間違いだ。
俺は脅されてるんだぞ?
「ほらそれそれ。やっぱお前ら面白ぇよ」
「よく揃えるよね」
神岡と橘はゲラゲラと笑った。
「はーい。皆んな決まったみたいね。それじゃあ今日はお終い! 解散です」
由良召先生の解散宣言により今日は終わりを告げられた。
俺達学級委員班はその場で解散し、それぞれ帰宅した。
春風は教室を出て階段を降りる。
!?
何かを感じた俺はその場にしゃがんだ。
「あれ? 避けられた」
声が聞こえた方へ振り向く。
俺が感じた何かは鞄を俺にぶつけようとしていた如月だった。
俺は一度如月と目を合わせたが、そのまま何も言わずに階段を降りた。
「ちょっとちょっと!」
そんな春風を如月は後ろから走って春風を追いかける。
「無視はやめてよ!」
相変わらず取りにくそうに一番下まで屈んで靴を取る如月。
そんな如月に俺は鞄を優しくぶつけた。
「痛っ!? な、なんで!?」
「お前がさっきしようとしたやつのお返し」
「私さっきの当ててないよ!」
やっとの思いで靴を履き替えた如月が何故自分に鞄をぶつけられたのか理解できない様子で走って春風に追いつく。
「当てたも当ててないも一緒だわ」
「むー。あっ、そうだ班はどうなったの?」
ほっぺを膨らました如月は不意に思いついたように俺に聞いてきた。
「残念ながらお前の言った通りになったよ。お前はフラグになるからこれからは会わないようにするよ。本当に怖い」
今朝の鬱憤を晴らすため、少し嫌がらせ程度に話す。
「な、なんで? ってか私の言った通りって事は雪と一緒になったってこと?」
「皆まで言うな」
「いいじゃん! 雪と一緒。何が嫌なんだか。私と変わって欲しいよ」
「俺も変われるなら変わりたいよ」
春風と如月はそんな会話をしながら家に帰宅した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます