第50話 裁判
――アトラスも、まさか自分が再びこの場所にやってくるとは思ってもみなかった。
「ジョージ王子。お前の罪を問う裁判を始める」
裁判長となった王が告げる。
王宮にある裁判所。前に≪ブラック・バインド≫のギルドマスターであったクラッブが裁かれたのとまったく同じ場所であった。
審議が行われる部屋の前方には、王を中心に近衛騎士の面々が座っている。
そして部屋の中心には鎖につながれたジョージ王子が立つ。
後方には宮廷騎士団の騎士たち――ジョージの部下が控えている。
「父上! なぜ僕が鎖につながれているのですか!!」
そう抗議する王子。だが、それに対して王が一喝する。
「黙れ! まさかこの期に及んで罪を認めない気か?」
王の言葉のあまりの鋭さに、王子は一気に縮こまる。だが少しして反論する。
「確かに王室の剣を持ち出しましたが……」
「持ち出した? 封印された魔剣を盗み出し、扱いきれずにそれに飲まれたのだ。一歩間違えば、民に甚大な被害が出ていたのだぞ」
王の鋭い言葉に、王子は弁明の余地はないと悟った。そこで、情に訴えることにした。
「父上! わわわ、僕はこの国の王子です! まさかその僕を裁くというのですか!?」
だが、王は全く動じることなく言う。
「お前は、自分の欲のために掟を破り、民を危険な目に合わせた。当然のことだ」
「ししし、しかし! 僕は宮廷騎士団の団長として、王国の威信を守ろうとしただけでございます!!」
「何が威信だ。宮廷騎士団の名誉を傷つけただけではないか」
「ぼ、僕は団長として皆を立派に率いていたはずです」
「馬鹿を言うな! お前が腹を立てるたびに、優秀な騎士たちを離島送りにしたことは聞き及んでいる」
王がそう言うと、王子はここぞと反論した。
「それは、怠けている者に少しお仕置きを!」
彼は心の底から本気でそう思っていたのだ。だが、その腐った根性に王が一喝する。
「自分の実力不足を魔剣で補おうとしたやつが何を言う! お前以上の怠け者がおるか!」
再び縮こまる王子。どうやら自分が相当まずい状況にあるとそこでようやく理解したのだ。
だが、ジョージ王子に罪を悔いる気がないというのは明白だった。
「……ジョージ。お前が罪を認めるのであれば、多少罰を軽くすることも考えた。しかし、お前にその気はないようだな」
「ちちち、父上!? ままま、まさか、お、お、おおお王子である僕を本気で裁くのですか!?」
震え声の王子に、王は静かに告げる。
「もはやお前は王子ではない」
それを聞いてジョージは絶句する。その言葉にはそれまで彼によって虐げられてきた部下たちさえも息を飲んだ。
そして少しして、ジョージは取り乱して言う。
「ち、父上!! わ、私は長男ですよ!? 跡継ぎはどうするのですか!?」
確かにジョージ王子は、王の長男であった。普通なら王位を継ぐことになる。だが、
「ルイーズがいる。何の問題もない」
王は妹のルイーズに王位を継がせる決意をしていた。王子のことは見限ったのだ。
「そそそ、そんな!!!」
そして、王は息子に対する判決を言い渡す。
「ジョージの王子としての地位をはく奪し、エリバ島に流刑とする」
「えっ、えっ、え、エリバ島!?」
王都から遥か彼方の離島であるエリバ島。そこは今までジョージが気に入らない部下を送り込んできた場所である。
「そ、そそそそんな!」
生まれてからこの方ずっと王都で過ごしてきた王子にとって、まともに食料さえない島での生活は想像を絶する。
「お、おい! お前たち、僕がいないと困るだろ!?」
と、ジョージは宮廷騎士団の元部下たちにそう助けを求める。
しかし、助けを求められた副団長はこう言った。
「ジョージ様。エリバ島にはジョージ様のご配慮によって送られた騎士たちがたくさんおります。その者たちがジョージ様のお世話をしてくれることでしょう」
その騎士たちは、国で一番名誉ある宮廷騎士の立場から、いきなり離島に左遷されて全てを失った者たちばかりである。王子の立場を失ったジョージをお世話するとなれば、多少(・・)力が入ってしまうのも無理はないだろう。
「そそそそ、そんな!!」
「騎士たち。罪人をエリバ島に連れていけ!」
王が命令すると、たちまち近衛騎士たちが王子の両脇を固め、引きずっていく。
「そそそ、そんなぁぁあああああああ~ たた、たすけてぇ~~~~!」
裁判所に元王子の情けない声が響くのであった。
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