第49話 王子、逮捕

「か……ったのか」

 絞り出すようにアトラスが言う。

 誰も確信を持てていなかった。

 だが、次の瞬間、巨竜の肉体は光り輝きはじめた。そして肉体は実態を失い光の粒となって宙へと舞い上がり四散していく。

 そして巨体のあった場所に、王子の体が出てきた。 

 アトラスが急いで確認しに行くと、王子は生きていた。気絶状態になっているだけだ。

「……生きてます」

 アトラスは周りにそう報告した。

 巨体が消えたことで、ようやく皆勝利を確信した。

 次の瞬間、

「お兄ちゃん、さすが!!」

 妹ちゃんがアトラスに駆け寄ってきて、抱きついてくる。

「おい、ちょっと……」

 皆が見守る中で妹に抱きつかれ、あたふたするアトラス。

 その様子を見て、周囲の張りつめていた空気も解ける。ワンテンポ遅れて、妹ちゃん以外の人間もアトラスの元へと駆け寄る。

「隊長やりましたね!!」

「いや……みんなのおかげだよ、本当に」

 アトラスは謙遜してそう言ったが、周囲は当然そんな風には思っていなかった。

「隊長の倍返しがなかったら絶対倒せなかったですよ」

 アニスがそう言うと、

「ああ、その通りだ」

 宮廷騎士団の副団長もそう頷いた。

「いや……そんな……」

 アトラスは頭をかきながら、はにかむ。

「なんにせよ、一件落着だね」

 ――と。

 みんなの中から笑みもこぼれだしていたその時だ。

「――王子様を確保しろ!」

 突然背後から、鎧を着て馬に乗った人間が複数現れる。

 アトラスがその姿を確認すると、肩に就いた紋様は彼らが近衛騎士であることを示していた。

 近衛騎士といえば、王の直属部隊である。

 彼らは、王子のもとに駆け寄り、左右から両腕を引っ張ってその身柄を持ち上げる。

 そこで王子がようやく目を覚ました。

「……ぼ、僕は……」

 最初状況をつかめないでいた王子だったが、自分の腕が近衛騎士によって固く掴まれていることに気が付き驚く。

「な、なんだお前たち!? 離せ!」

 王子はそう言うが、近衛騎士が手を緩めることはなかった。

「王子様。恐れながら、王様の命により身柄を拘束させていただきます」

「な、なんだと!?」

「王子様には魔剣を持ち出し、王都を危険にさらした容疑がかけられております。守衛の証言で裏もとれておりますが、ご弁解があれば裁判で王様に直接お伝えください」

「さ、裁判だって!?」

 自分が裁かれるらしいということを知った王子は、驚き目をむいた。近衛騎士のリーダーが部下たちに命令する。

「連れていけ」

「そ、そんな!! や、やめろ!!」

 引きずられていく王子。だが、その様子を哀れに思う人は皆無だった。

 すると、近衛騎士がアトラスに話しかけてくる。

「アトラス殿。これまでの状況を聞かせていただきたく、お時間をいただけますか」

「え、えぇ……」

 アトラスは困惑しながら近衛騎士についていくのだった。


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