第22話【ギルマスside】コナン「隊長」の誕生


「コナン君、君をトニーの後任者として、パーティの隊長に任命する」

 ≪ブラック・バインド≫のギルドマスター室。トニー前隊長の腰巾着であるコナンは、ギルマスに呼び出され、これまでの冒険者人生で最も嬉しい辞令を受け取った。

「私が隊長に!? あ、ありがとうございます!」

 今まで、出世のために上司に全力でゴマをすってきた彼だったが、その努力が実ったのだ。

(……ふふふ、ようやく私の天下だ)

 コナンはそうほくそ笑む。

「君たちSランクパーティは、我がギルドの顔だ。それに恥じないように頑張ってくれ」

「ありがとうございます、ギルマス!!」

「早速だが、新隊長の君に重大な任務を与える」

「重大な任務、ですか」

「≪ブラック・バインド≫の未来を決める重要な任務だ」

「……というと?」

「前に君のパーティにいたアトラスを早急にパーティに連れ戻せ」

 それを聞いて、コナンの脳裏を苦いシーンが浮かんだ。トニー隊長に命じられてアトラスを呼び戻しに行ったが、全く相手にされず、それどころかアトラスの部下だという女に言い負かされてしまったあの屈辱は、今でも鮮明に思い出せた。

(いや、だが――隊長になった今ならきっと大丈夫だ)

 コナンは自分にそう言い聞かせる。

「わかりました、ギルマス。必ずや連れて参ります」

「それと、SSランクダンジョンの攻略を受注した。攻略には私も参加する」

「ギルマス御自らとは! 百人力です!!」

 コナンは持ち前の太鼓持ちぶりを発揮する。

 それに気分を良くしたクラッブは「そうだろ、そうだろ?」と言ってガハハと笑う。

「俺がお前たちをまた叩き直してやる!」

「ありがとうございます、ギルマス!!」


 †


 翌日。クラッブとコナンは、朝から張り切ってSSランクダンジョン攻略へと向かった。

「お前ら! ついにこの日がやってきた!」

 クラッブがパーティメンバーに演説する。

「このSSランクダンジョンを攻略させれば、我が≪ブラック・バインド≫も超一流ギルドの仲間入りだ。お前たちも英雄扱いされる。決死の覚悟で戦い抜け!!」

「はい、ギルマス!」

 コナンをはじめ、何人かのメンバーは、クラッブの勢いに答えるように返事をする。

 だが、大部分はSSランクダンジョンを前に恐れおののいていた。

 アトラスが抜けて以来Cランクダンジョンでさえ苦戦していたというのに、SSランクダンジョンなんて攻略できっこない……特に若いメンバーはそう思っていた。しかし上が行けと言えば行くしかない。それがギルドメンバーの宿命である。

「それでは、今日はまずは一階層の偵察を行う! 相手はSSランクだ、気を抜くな!!」

 クラッブとコナンは勇んで先頭を歩きダンジョンへと入って行く。

 中に入ると、岩で囲まれた空間が広がっている。いわゆる洞窟型のダンジョンだ。ただ洞窟といっても道はそれなりに広く、1パーティで戦うには申し分ない。

 一行はスキルで明かりを灯しながら洞窟に入っていく。そして歩き出してすぐに最初のモンスターに遭遇する。

「ミノタウロスです!!」

 いきなり現れた強敵。まだ入り口付近だというのに、Aランクのモンスターである。

「さすがはSSランクダンジョン!!」

 クラッブは杖を腰から引き抜いて、部下たちに命じる。

「お前たち! いけ、突撃ッ!!」

 クラッブの掛け声に、前衛たちは一斉にミノタウロスに突撃し、後衛たちは各々支援の魔法をかけ前衛をアシストする。

(相手はAランクのボスレベルとはいえ、俺たちは天下の≪ブラック・バインド≫のSランクパーティ、苦戦するはずなどない)

 クラッブは心の底からそう信じていた。しかし、

「ぐぁッ!!」

 突撃した前衛たちは、ミノタウロスの斧で一気になぎ倒される。

「なんだ、お前たち! 気が抜けてるぞ!!」

 クラッブが檄を飛ばす。しかし、アトラスがいなくなった後は、Cランクダンジョンですら苦戦したパーティなのだ。Aランクモンスター相手に太刀打ちできるはずもない。

「ええい、後衛! 早く回復させろ! 前衛! お前たちもグズグズしてないでもう一度攻撃しろ!!」

 クラッブに怒鳴られ、後衛は必死に回復魔法を唱え、前衛は再び突撃する。だが、やはり簡単に薙ぎ払われ、相手にかすり傷一つ負わせることができなかった。

 そして2度の攻撃で、前衛のHPはほとんど削り取られてしまった。これ以上の戦闘継続は命に係わる。さすがにクラッブにもそれはわかった。

「ええい、無能たちめ!! 一度引くぞ!!」

 これ以上戦っては、後衛の自分にも危害が及ぶ。そう判断したクラッブは仕方がなく退却を命じるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る