第23話【ギルマスside】王女様についた嘘
わずか10分でダンジョンから逃げ帰ってきた≪ブラック・バインド≫の一行。
「まったく、お前たち! たるんでるぞ!」
クラッブはパーティメンバーを一喝した。その様子はアトラスが抜けた後ダンジョンで苦戦した時のトニー隊長と全く同じだった。≪ブラック・バインド≫のSランクパーティが、まさかこんなに弱いはずがない。皆、気が抜けているに違いない。クラッブはそう思ったのである。
「次こんな情けない戦いを見せてみろ、お前ら全員クビだぞ!!」
ギルマスの言葉に戦慄するパーティメンバーたち。
――と、そんな殺伐としたところに、突然馬車の音が聞こえてくる。
「あれは……」
クラッブが音の聞こえてくる方を見ると、馬車の上には王国の旗が掲げられていた。
「王女様だ!!」
大事な依頼主の登場に一気に緊張感が走った。クラッブは部下たちにすぐさま列を作るように命じる。
そして、メンバーの前に馬車が止まる。降りてきたのは、やはり王女ルイーズだった。
「おはようございます、クラッブ殿」
「これはこれは、王女様! こんな朝から一体どうされたのですか」
クラッブが聞き返すと、ルイーズはを少し赤らめて答える。
「今日から早速攻略されると聞いていたので、いてもたってもいられず来てしまいました」
(――まずいな。これは、もしかして……)
クラッブがそう心の中でつぶやいた次の瞬間、彼の悪い予感は的中した。
「アトラスさんはどちらに?」
王女様はアトラス目当てで≪ブラック・バインド≫に仕事を任せた。ハッキリ言ってしまえば、アトラスに会いたいがために≪ブラック・バインド≫を選んだのだ。だからこうして朝からわざわざアトラスに会いにきたというわけだ。
「それが王女様……」
クラッブは冷や汗をかきながら言い訳を考えていると、王女の表情が曇った。
「もしかして今日はいらっしゃらない?」
「ええ……申し訳ありません。実はあいにく有休を取っていまして……」
クラッブがとっさに思いついた嘘がそれだった。
「そうなんですか。それは残念です。でも、おやすみは必要ですものね」
「ええ、その通りでございます。うちはホワイトギルドですから。部下には好きなだけ休めといつも申しておりまして……」
クラッブは白々しくそう言った。部下たちは苦い顔をしたが、アトラスのことで頭がいっぱいの王女はそのことには気がつかない。
「それでは、いつアトラスさんはいらっしゃいますか?」
「ええっと、おそらく明後日には……」
クラッブはとっさにそう答えた。
「明後日ですね。わかりました。ではまた出直すことにします」
「ええ、王女様。お待ちしております」
そうして王女は王宮へと帰っていった。その場を乗り切ったクラッブは安堵のため息をつく。
そしてクラッブはコナンに慌てて命じた。
「今日の定時後、すぐにアトラスのところに行け! いいか? 何としても連れてこい!」
「はい、ギルマス!」
コナンはなんの根拠もなく大声で返事をする。そしてその勢いの良さに一安心するクラッブであった。
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