第16話 救出


 ――置き去りにされたトニーのパーティメンバーたちは、アラームによって群がってきたモンスターたちの追跡をなんとか振り切った。

 そぁそ後衛である隊長がほとんどのポーションを持っていたので、残されたメンバーたちは回復手段に乏しかった。だから極力戦闘を避けながら、出口を目指すしかなかった。

 しかしこのダンジョンは迷宮。来た道が塞がれてしまうとどうやって外に出るのか――そもそも出られるのかもわからなかった。

「一体、どうすれば……」

 アニスの体は恐怖で震えていた。ただでさえ力不足なのに、ポーションもなく突然迷宮に放り出された。死ぬしかないんじゃないか、そんな思いが頭を駆け巡った。

 前からパーティの雰囲気は最悪だった。でも、そこにはアトラスがいた。危険があれば、いつでも守ってくれた。けれど、今ここにアトラスはいない。いるのはアトラスを無能と罵ってきた、なんの力もない愚かな人間たちだけだ。

「……これでポーションは最後だ」

 隊長の腰巾着だったコナンがそう呟いた。

 これで全員が持っていたポーションを使い切った。もうHPは回復できない。この状態で強いモンスターに襲われれば、HPを削り切られて――死ぬしかない。

 誰もが死を意識した。けれど誰も覚悟なんてできていなかった。こないだまでSランクパーティだとチヤホヤされてきたのに。惨めに死んでいくなんて信じられなかった。

「――グァァァ!!!!」

 ダンジョンの向こうから次の敵が現れた。

 再び現れたリザードマン。ボロボロのパーティでは勝てるわけがなかった。

「クソッ!!」

 コナンたちがどれだけ剣を振るっても、リザードマンたちにまともなダメージを与えることはできなかった。そしてどんどんHPが削られていく。

 ジリジリと後退して、気がつけば一行は壁際に追い込まれていた。逃げ場所はない。

「もうダメだ……!!」

 コナンが諦めの言葉を呟く。

 アニスは必死に剣を振るい続けるが、自分のHPも残りわずか。死は目の前まで迫っていた。

 そして、もうHPが尽きる――

 ――――――――――――――

 ―――――――

 ―――


 だが、


「――――ハァァッ!!!!!!」


 迷宮にこだまする声。現れたのはアトラスだった。

 アトラスはリザードマン相手に無謀な突撃を敢行する。それに対してリザードマンたちは蚊を払うように攻撃を浴びせる。だがその攻撃は二倍になってリザードマンたちへ跳ね返った。

「ぐあぁぁ!!」

 次々に倒れていくリザードマンたち。かつてのパーティメンバーたちがぼう然と見守る中、アトラスはわずか数分でリザードマンを全て倒してしまう。

「……大丈夫ですか」

 アトラスはメンバーたちを見渡した。皆疲弊しているようだったが全員無事だということを確認してさらに一つ大きく息をつく。

「……アトラスさん!!」

それまで押さえていた恐怖心が堰を切ったように流れ出して、アニスはそのままアトラスの胸に飛び込む。

「……あ、アニス」

 アトラスは年下の女の子に抱きつかれてあたふたする。しかし、少ししてようやく自分がなすべきことに気が付き、

「まぁ、とにかく間に合ってよかった」

 そう言っておどおどとアニスの背中を撫でるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る