嘘つき同士の出会い

恋とは無意識に自分にないものを求めるものやと思っとる。




これは剣を失った直後の、出会いの物語。






その出会いは戦闘幹部として戦いの前に白の国に侵入することを命令された時だった。




他の幹部たちとともに行動することなんてできないから、もちろん一人だった。




魔法も持たずに、魔法すら効かないおれが隣国であるが国の間の壁を超えることは難しかった。空を飛ぶことはできないし魔法がかかっている物質に乗ることもできない。ねこかんですらできないことだがもしも地面の中核まで魔法がかかったとしたらおれは地面に立つことすらできなくなってしまう。




それくらいハーフは本来存在しないものと考えられているものだ。




その少女に会ったときに、きれいな人だと思った。容姿が優れているという意味ではなくピンと伸びた背筋や、自分にはない真っ白な髪と瞳を持っていて消えてしまいそうな雰囲気なのに圧倒的な存在感を誇り見る人を惹きつけていた。それもまだ小中学生くらいの幼い少女だ。




異常な存在感があるところはらいなと被った。しかし、圧倒的に違うところは驚くほどに冷たい雰囲気を醸していた。




今の柔らかい雰囲気とは似ても似つかない。




オレはここで生まれて初めて自分の半分である白の国の住民を見た。




白の国なんて嫌いだと、最近急激に落ちてきた視力に何度も涙をしたのにやはり血には抗えないようで見とれてしまった。この時はハーフだとばれてしまわないように目を深いフードで隠しての参戦でもともと視力が低下しているうえに覆っているためほとんど見えない状態だ。




「誰ですか」




綺麗な声だと思った。




だが、警戒していることが分かる。それは国と国の間にある壁の近くに歩いていてフードをかぶっている人なんて怪しい。




今思えばこの時点で殺されなかっただけでも根元のやさしさはあるのだろう。もしかしたら白の国の人からかも知れないと思っていたということだ。




正直に答えるわけにもいかない。




この時はただの一般人だと思っていた。




「猫耳・・・」




「あ」




彼女は、凛と立っていた猫耳を手でつぶすようにして隠した。あとから聞くと彼女は自分の民族にコンプレックスを抱いているようだ。非常に愛らしいとされている猫族だが、人以上に魔法を多く蓄えているがごく少数であり基本的に群れないため各国にいるとされている。しかし強力な魔法を持っていて味方につけられればよいパートナーになれるが人ほど色に縛られないため色の戦争に参加することは少ない。だから表に出てくることも少ないためおれはこのときはじめて猫族を見た。




おれは猫族には好意的に感じていた。




対称的だが、非常に似ていると勝手に思っていた。




「お前も一人なのか」




「も、とは?」




彼女の警戒心は解けないが、おそらくその警戒心もすぐになくなるだろう。聞いた話でしかないが、魔法は人を表すものらしく強い人にはオーラが出るらしい。だから彼女もわかるだろう。おれが取るに足らない人物であると。




その証拠に表情が少し和らぐ。




まあきつい顔であることは変わりないが。




「なんでもない。君は誰だ」




「・・・」




「?」




何故か躊躇するように悩んでいる。




そして、こちらをちらりと見た。




「山田理沙」




偽名だろうとすぐに気付いた。きっと嘘をつくことが苦手なのだろう。バレバレの嘘をついているがおれはなんとなく騙されてやる気分になった。幹部には何度も騙されたし、くるみも嘘は得意でひょうひょうとしている印象だ。だからこんなに素直な人が珍しかったのかもしれない。




何もアクションがないと思っていたが、おれの名乗り待ちだろうか。




待っている間も猫耳が動いていてたまにピクリと動くところが可愛らしい。実に柔らかそうなそれを触ってみたいところだ。




「おれは・・・海藤成人」




「そうですか」




ナルという名前の本当の由来を聞く前はどうしても自分の名前を受け止めきれずにずっと自分で名前を考えていたが使う機会があるとは。




ナルシストにならないためのナルと聞かされていたのに、それでも「ナル」は捨てられなかった。




名字をつけなかったのはきっと東城という名字に縛られてきたが故のことだろうと今となったら理解ができるが昔は納得できなかった。




「この周りは危ないですよ」




おれたちに潜入する指令がかかったように白の国からも赤の国に侵入している人がいることは知っている。だからもちろん白の国の人たちも警戒している。だからおれのように魔力がなく警戒されるにあたらない人物を行かせるというのが赤の国の幹部の言い分だ。もちろんかなり理屈としては通っているが実際は楽をしたいだけだろう。




ならばこの少女も危ないだろう。




猫族だからきっと強いはずだがこんなに若い少女が戦闘に関わっているはずがない。さすがにこの国にもそういう未成年を働かせることには抵抗がある。まあ未成年のほうが魔力が高い傾向があるから実際には未成年の幹部や総長ばかりなのだが、それにしても若すぎる。




雰囲気はかなり大人っぽいが、きっと小学生か中学生のどちらかだろうかと迷うくらいの見た目だ。




おれも若いと思われるが年齢がよくわからないとよく言われるため年齢の把握にはもしかしたら無意識に魔法が使われているのかもしれないな。実は普通に魔力がある人よりも全くない自分のほうが魔力のことを知っているのではないか。




「君も危ないんちゃうんか」




「・・・え、なぜ」







「お母さんとかが心配しとるんとちゃうんか」




そういうと、彼女が眼を伏せた。




ああ、この表情はよく知っている。




「いないです」




「おれも」






この少女はおれとよく似ている。






「私たちよく似ていますね・・・・嘘つきなところとか」






「同じこと思っとった」






やはりこの子もわかっているのだろう。






きっとおれが違う国の男だということもわかっているのだろう。先ほどの自分のことに気付いていないと分かったときの表情の変化で察した。自分の国で有名なのにそれを知らないということは他国の人間だということだ。




おれは会議にも参加させてもらえていないためあまり他国の事情を知らない。




そしておれのことを消さないあたり、この少女は嘘つきだ。












「少しお話していきませんか。嘘つきさん」




「ああ、ええよ。良ければ情報とかくれたら助かるなあ」




なんて冗談を言えば初めて頬を緩めてくれた。






お互いに嘘をついてなのった名前はなんとなく呼ばなかった。






ハーフであることを知らずに、こうして普通に話してくれる人と初めて会うことは衝撃的な出来事だった。








人権がある世界は、とても暖かかった。












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