猫かんとの再戦

訓練室に入ると、猫かんとナルがもうすでに入って会話をしていた。




猫かんはいつも以上に動きやすい恰好をしていて戦う準備は万端という様子だ。訓練をしたことで仲が悪くなってしまったため来てくれないかと思って心配していたがよかった。




二人は仲よさそうに話している。こう見ると猫かんが孤独を感じそうな要素はないがあんなに仲よさそうなのに秘密を抱えられているところが直感的に分かっているのだろうか。




「ネコとナル。付き合ってくれてありがとな」




声をかけると、猫かんが気まずそうに顔をそらす。




「こら猫かん。仲直りしたいんやろ、それやったらちゃんと話し合わんとあかんで」




それを見た猫かんをナルが押し出す。すると猫かんははっと思い出したように俺のほうを見たがそれでもまた顔を俯けた。




つまりは、猫かんも俺と仲直りをしたいと思ってくれているのか。




安心することが出来たが仲直りは実力を見てもらってからだ。








「じゃあ訓練を始める。猫かんはとりあえずちょっと抑えめくらいで魔法を出してくれればええから魔力防止のブレスレットはなしで」




「本当に大丈夫なんですか?」




煽っているわけではなく自分の実力を知っているため俺が怪我してしまわないかが心配してくれているのだろう。




前回は三本もつけてもらっていたんだもんな。それでも全然かなわなくて卑怯な手を使ってなんとか形上での勝利をおさめられたわけだが普通に魔法で対決したとしたら一生近づくこともできなかったと思うとやはり世界最強って恐ろしいな。




「でもおれとしてはけが人だけは出したくないから前回同様白い円を描いてそこからは猫かんには動かないようにしてもらう。ええな」




そういうと猫かんは頷いた。




さすがにゼロハンデはきつすぎるからな。




「それで今回は戦いというよりも奏多の特訓の結果を試すための訓練やから猫かんに攻撃をしてもらうことを主にしてもらう」




「お手柔らかに」






ナルが手を上げる。




開始の合図だ。












佐倉先輩がせおってくれるといってくれた時は本当にうれしくて泣いてしまった。でも私は背負われるには重すぎるし自分がとんでもない人物だということは生きてきてわかっている。




たまに自分で自分が怖くなる。




身体が悲鳴を上げてしまうほどの、成長に見合わない魔力に苦しめられている。佐倉先輩が治療はしてくれるけれどそれでも私が感じている痛みはただ魔力栓のせいだけでなく自分の身体の成長以上に生成される魔力が身体を圧迫しているからだ。




この前の戦いでも正直言って失望した。




もしかしたらこの人ならなんとかしてくれるのかもしれないと期待してしまっていたから余計につらい気持ちになった。




当たり前なのだ。




この見た目も猫耳が生えていてしっぽがあって普通ではない。自分は生まれながらにして、特別な存在なのだから。




普通の人間の彼が倒せるわけがない。






ざざっと、昔の記憶がフラッシュする。






「なんで、お前が」




「やめて」




「助けて」






逃げ惑う人々。




恐怖に顔をゆがめていく彼らを覆っていくのは冷たい氷だ。




私は助けを求める彼らを見つめる自分が、氷に反射して映る。目を細めてごみを見るような瞳でただただ乱暴に魔法を繰り出していく今の自分からすると一番嫌いな種類の人間だった。






いや・・・『化け物』というほうがお似合いだろう。








嫌なことを思い出した。




私に勝てるのはナルさんだけしか知らない。






仕方がないことなのだ。






「はじめ」




ナルさんの声を聴いて、魔法を展開する。




佐倉先輩が以前に教えてくれたことだがその人によって魔法の感覚は違うらしく私のように開くように発揮するタイプがあれば押し出すような感覚の人や久遠さんのように守るタイプだったら自分を中で引きこもるような感覚が多いなどたくさんあるようだ。




身体の中にある魔力が手に集中する。




指の先がじんじんとする。佐倉先輩と仲が悪くなってしまってから少しだけ魔力栓が出てきてしまっているため痛みが増している。




そして、広げる。




指の先から氷が創造していく。




鋭い結晶だが佐倉先輩にあたったとしたら痛いはずだが大丈夫だろうか。この前は避けられるようにしていたのに顔面を狙って避けなかったことが驚いたしそんな危ないことをしないでほしかった。自分の魔法がどれだけ危険なものか理解している私は非常に恐れた。




他人ならまだしも仲のいい人が傷つく姿は見たくない。




「いきます」




氷の結晶を投げる。




今度こそは何かしらの策があるはずだ。そのため控えめにはしているものの、前回よりは威力を増して攻撃する。それにぎょっとした顔をした気がしたが気にしないことにする。




しかし、佐倉先輩は一歩も動く気配がない。




「え、さ、佐倉先輩?」




まさか前回と同じ手を使ってくるのか。




冷汗が出て、氷の結晶の方向性を変えようと手を振り上げた。






しかし






氷の結晶がなくなった。






「え・・・?」




私は目を丸くした。




まだ氷の結晶を消すどころか移動させることもしていないのに。それにあの消え方は不自然だ。だって魔法を自分で消した時は粒子がキラキラと舞うような美しい消え方をするはずなのに、なんだか魔法がバリアが張られて拒否されたような消え方。




その消え方には覚えがあった。




というよりも忘れるはずがない。




昔に強烈な印象をもたらした人物が持っている魔法だ。




「ナル、さんの魔法?」




「あー・・うん、そうだよ」




すこしのあいだ不思議そうな顔をしていたが、納得したように佐倉先輩が頷いた。でもナルさんの魔法はかなり特別なものと聞いている。魔法には数種類しかないためナルさんが持っている魔法は存在するはずがないのだ。




それに魔法は一つしかもてないはず。




「どうして?」




「本当に実践できなかったら死ぬかと思った。魔力を触ることが出来るだろ?だからそれを利用してナルの魔法を俺が借りてるみたいな感じ」




魔力を触ることが出来ること自体がよくわからないのだが。




「でも確かにもしも当たっていたら頭が吹き飛んでいたかもしれません」




冗談ではないがそんなことになる前に方向を変えていただろうけれど。




すると佐倉先輩が露骨に驚いて体を震わせる。よっぽど自信があるから頼んだのだと思っていたが意外にも危険な橋を渡っていたらしい。




その姿に微笑みがこぼれる。




でも、本当に凄い。






実際にはナルの周りの無魔法地帯を動かしているのだが、猫かんは知らない。ちなみに動かしたところでナルの周りには動かすことが出来ない無魔法地帯を持っているため、魔法が効くということはない。






やはりナルさんも佐倉先輩もすごい。




「じゃあもう魔法が効かないんですか?」




「いや、ナルが近くにいないと使えない技だからあんまり実用性はないかもな。でも周りの魔力を動かして魔法の動線を変えることが出来るぞ―――――――――――――っとわぁ!?」




その話を聞いて小さい氷の結晶を飛ばすと、その動きが不自然に曲がり壁に突き刺さった。




これだと魔法を動かすようにできるように見えるが実際は周りの魔力を利用しているという話から、早すぎてつかめないことを考えると周りの魔力をつかめば移動させられるため便利そうだ。




ナルさんは強いのに戦闘に参加しないためこちらのほうが利用する機会が多いだろう。




「ちょっとネコ!あぶないだろ」




そういいながらも軽くよけているところを見ると、実践はしていないにしろナルさんとかなりの経験を積んできたのだろう。




これならば。




「佐倉先輩を戦いに出すこともできそうですね」




そういうと佐倉先輩が嬉しそうに顔をほころばせた。




あんなところに行きたいと思うのが尊敬する。私にとっては居場所であるのと同時に行きたくない場所でもあるのだから。




皮肉なものだ。




犯罪を嫌って警察官になっても犯罪がなければ警察は存在しなかっただろうし、そもそも警察のような法律によるものがなければ犯罪という概念すら存在していなかった。私も同じだ。




戦いのない世界にするために世界最強なんて謳われている私は戦っているのだが、実際に戦いがなくなってしまえば何が残るのだろうかと考えてもこの自分を永遠と苦しめる魔力だけだ。それに大きすぎる力のせいで魔力を定期的に排出しなければ魔力栓でつまってしまうから戦いで救われてしまっている部分が大きいのだ。




矛盾している。




でも私は佐倉先輩やナルさん、それに久遠さんに一応総長もいる。




居場所を自分で捨ててしまった私を受け止めてくれる人がいる。








「大事な話があるんや」








「はい・・・?」








ナルさんが珍しく言いにくそうに言葉を選んでいる姿。




そんなに戸惑わなくても言いたいことがあればちゃんと聞くし否定もしないのに、と考えながら顔を緩ませる。




佐倉先輩が驚いた表情でナルさんの服の裾をつかんだがナルさんは首を振って、その手を優しく外していった。




首を傾げる。








ナルさんが口を開いた。














その言葉を聞き終わるころには、氷の結晶が彼の眼に向かって放たれていた。








確実にえぐったと思ったのに彼の目の前で氷が砕ける。




ぱら、ぱらりと彼の足元に落ちる前に消えていく。






ナルさんが白い髪の毛をとって、床に投げ捨てると下から赤い髪の毛が出てくる。久しぶりに見たその赤色は燃えているようで氷を扱う私には熱く感じる。








「違う!」






「違わへんよ」






「違う違う違う!ナルさんはそんなものじゃないです!」




ナルさんの顔が歪む。




体中の魔法が悲鳴を上げそうなほど膨大に膨れ上がっていくのが分かる。何も消そうとしているわけではない。そんなことをしたら大好きなナルさんが壊れてしまう。






彼の赤い髪は見たことがある。




でも、赤い瞳は見たことがなかった。






そんなわけがないのだ。






ナルさんが赤の国の人であることは知っていて以前から少しだけ抵抗があったのだが慣れてきてやっと普通に過ごせるようになってきたのに、そんなものなわけがない。




瞳に何かを詰め込んでいるはずだ。








それならばえぐって、確認しないと。


































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