ナルとの特別特訓

「適当に殴りでも蹴りでもしてくれたらええで。魔力操作の練習ができへんことはもうしわけないんやけどな」




そういえばオールラウンダーである総長や基本的に防御専門である久遠はワンピースなどの邪魔になることはないが可愛らしい服装をしているのに比べてナルや猫かんのナルはもとではあるが戦闘を主にしてきた二人はラフな動きやすい恰好をしていることが多い。




顔が整っている子が多いからシンプルな服のほうが際立つ感じもする。






俺はジャージに着替えてストレッチをする。




いくら元戦闘専門の幹部だったとしても訓練をしているところを見たこともない。しかも、眼鏡をかけてすらいない状態だから彼の話が本当だとしたら視界がいまだにおぼつかないはずだ。その影響で戦闘幹部をやめなければならなかったはずなのに。




そう考えていても仕方がない。




「でもずっと立ち向かっていくばかりやったら実践にはあまり役に立たんのやないか」




「?」




「本来奏多に求められているのは猫かんの魔力栓の治療。戦う事なんてほとんどないんやから、無防備な相手に戦わせることもおれは司令せん。やとしたら可能性としてあるのは?」






「相手から襲われること、か」






俺が言い終わる前に、ナルが動き出した。






いつも微笑んでいる彼が笑みを消した瞬間、全身の毛が逆立つような感覚。






猫かんはハンデを付けてくれているうえに手加減をして仕返しはしてこなかった。






しかしナルは本気で俺へ立ち向かっている。




「がっ!?」




腹がねじ切れそうなほどの強い衝撃。ナルに腹を殴られたのだと脳が認識するころには二発目が飛んできていて反射で手で頭を覆う。




しなるような蹴りによって腕が悲鳴を上げる。




骨が一、二本折れてしまった気がするが回復魔法で治療する。彼の攻撃だったとしてもちゃんと治療はできるようで安心した。




とりあえず一旦距離をとる。




「ええなぁ、あんたらは。折れても傷ついても魔法で回復することが出来て」




そういっている声に含まれるものを感じる。




その体は傷跡だらけだった。ハーフがいることなんて考えていない世界では病院で回復魔法専門の人はいるが魔法を使わずに治療することなんてない。




戦闘で戦ってきた傷というよりも執拗に嫌がらせをされてきた影響もあるのだろう。




傷つけられたのが眼球のすぐそばだったのか浅かったのか顔に傷跡は残っていない。






次はどんな攻撃が来るのかと思って構えたが、彼は立ち止まって先ほどまでの気迫をといた。




まるで今の俺にそこまでする必要がないと判断したかのように。






「あんたは魔力の匂いが感じられるんやろ?」




変わりように驚いたが、とりあえず返す。




「ああ。ここは魔力が強い奴ばかりだから俺たちしかいなくても強力な魔力の匂いがしているぞ」




問いかけに魔力の匂いを改めて嗅ぐ。自分の魔力の匂いはわからない。またナルも魔力をもっていないため匂いはしないはずだが今まで数々の魔法使いが使ってきたことで染みついた魔力のにおいがする。もちろんそこまで強いわけでもないが心地いい香り。




が、違和感を感じて目を閉じて嗅いでみる。




魔力の匂いはただの五感としての嗅覚とは少し違う。どこから匂いが来ているのかも体感で感じることが出来る。




ナルの周りだけ魔力の匂いがしない。




それだけ言えば当たり前のことだろうが何と言ったらいいのか、魔力の匂いの膜のようなものがある。




「おれには魔法というよりも魔力がおれを受け付けんようになっとるみたいやけど、もしも周りに魔力があるんやとしたらそれを操作することはできひんのか」




「周りの魔力を?」




「はっきり言って今の奏多に素手での戦闘は向いてへん」




ぐっと息をのむ。




それを感じ取ったのか焦ったように手を振る。




「何も戦闘に向いてへんってことやない。ほかのアプローチが出来ひんのかって思っただけやで。おれは昔は剣を使って戦っとったからな」




剣・・・




今の彼の手にも、おそらくあの部屋の中でも剣を見たことがない。




彼が、瞳を異様に狙われた過去と関係がないことはないだろう。






視力や戦闘幹部という立場だけでなく剣も彼は失ってしまったのだ。






「おれはどんな大きな魔力をぶつけられても一切関係ないから練習台になってもええし一緒に戦闘方法を考えたる。猫かんや久遠は戦う方法も守る方法も魔法にだけ限られとるから役に立たへんけど、考えられることもある」




「お前にとって赤の国に白の国が勝つことはいいこととはいいきれないだろ。なんでそこまでしてくれるんだよ」




「言ったやろ。おれはどっちの国も大切なんや」




それなら、やはり赤の国のことも彼にとってはかけがえのないものなのではないか。




もしも赤の国になれればずっと願っていたであろう赤の国で普通に過ごすことも可能になる。だってそれが出来ないかららいなはこの国にナルを仕方なく送ったはずなのに。




そう伝えることを悩んでいたときにふとナルのことを見ると、何か遠いものを見るような顔だった。




その顔を見ていると、なんだか胸騒ぎがした。




「ナル・・・?」




「ん?」




「なんかよくわからんけど今のお前は間違っていると思う」




驚いた顔をしている。




自分だって何が言いたいのかわからない。それでも伝えておかないといけないと思ったのだ。ナルが以前間違えたら教えてくれと言っていたから。




ナルはまた朗らかな笑顔になった。




全てを隠すように。




「辛気臭い話はやめとこか。じゃあ戦い方を考えよ」






俺はこの時必死に止めるべきだったのか、わからない。












この日からしばらくナルと訓練を重ねた。






それに加えてナルは久遠や猫かんとも戦う準備を進めているらしく、戦闘力を強化していっているようである。




まだ二人とは仲が修復できていないままだが。




「・・・なんかうまいこと出来ているのか?」




よくわからない状態が続いている。




結局剣を使ってみたりいろんな武器をやってみたもののナルに全然だめだとこっぴどく叱られて少しだけかじった程度にしておいた。そして、やはり魔力を操作できる謎の能力を利用することにしたが出来ている気がしてもナル相手ではなにもわからない。




なんとなくできる気がするが実際に結果として出ないし、ナルは当然だが魔法や魔力にはピンと来ていない様子だ。




悩んでいると、




「猫かんに話付けとくから、はよ仲直りし」




そういって頭に手を置かれる。




「い、いいのか?」




「久遠のほうはおれも仲良くなれてへんからなんともできひんけどな」




そういえば確かにナルが総長や猫かんと話している姿を見たことがあるが久遠と話しているところは本当に見たことがない。




だからフォローすることもできずに苦笑いにしておいた。




「ごめんな、よろしく頼む」




「まかしとき」




非常に頼りになる笑顔をこちらに向けてくれた。


















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