ナルの過去

事件があった次の日におれは総長から呼び出されたんや。




それもそうだ。おれに絡んできて怪我を負わされた幹部と仲がいい幹部が総長にこう訴えかけたのだ。『あのハーフの子どもが急に絡んできて殴られたらしく大けがを負わされた』と。戦闘幹部であるナルはもちろん他の幹部にけんかで負けるはずがなかった。それにハーフだから魔法も効かへんからな。




しかしここでイレギュラーがあった。




「ちょっと、どうしたんだいその目!」




珍しく焦った様子の総長がおれの顔に触れた。




おれは目の周りに包帯を巻いていた。前日のことだったため出血はもうないが見た目が非常に痛々しいことになっている。




「ちょっとけんかをして怪我しただけや」




「君に限ってあの子に負けるわけがないだろう」




件の幹部を倒したあとに浴びせられる言葉はやはりハーフだから、頭がおかしい、凶暴だとそれぞれ誹謗中傷だけだったが総長はおれの味方をしてくれていた。決しておれを怒る姿勢を見せずおれから手を出したと思っていないようだ。




そのことに安心してみっともなく涙を流してしまった。




ハーフの特性の魔法が効かないというものにはいいことばかりではない。






「目を狙われて、周りを刺されて・・っ目が、かなり見えにくくなった」








本来は回復魔法で治せたはずの怪我も治すことが出来ない。






大体見えてはいるのだが、ふとしたときに距離感を読み間違えてしまうようになったのだ。このミスは戦闘のときに大きく響いた。赤の国では眼鏡という視力を上げるアイテムを使っていたんやけど視力は回復できるのに眼鏡を付けるのはおかしいから付けられへん。




目の周囲を狙われたとしても本当はかわすことが出来た。でも、白い瞳が大嫌いだったおれは刺されて一瞬なくなってしまえばいいのにと思ってしまったことで反応が遅れてしまったのだ。馬鹿な考えだとは理解しているが、それほどハーフという言葉がトラウマになってしまっていたんや。






件の幹部は怪我といっても少し殴っておとなしくした程度だったのに。






このことはおれが謹慎することでとりあえず終息したんや。






相手には何の処分もなかったで。どうしてって?そんなのハーフの子どもが手を上げたとなったら一方的に悪いのはおれになるし仲間が多いのも相手のほうや。総長は適切な処置をしてくれようとしてくれたがこれ以上悪評を流したくなかったため自ら頼んだ。






ここで、白の国と戦ったんや。




そのころは白の国もあれていて他の国にやたらめったらけんかを売りまくっていたんやけど猫かんもまだ完全に強い状態ではなかった。




他国に赤の国がハーフを使っているという噂が流れているという話は聞いていたが、真実とばれてしまわへんように包帯を巻いて戦っとったんやで。一応隙間から見えるようにしとったから戦えはしたんやけど眼鏡がないせいで本領発揮はできんかった。




それでもなんとか勝てた。




そのころの猫かんは今では考えられへんほどに感情のないただの殺戮ロボットみたいな感じやったんや。やから今でも猫かんは恐ろしい人物やって噂は流れとる。まあ敵からしたら今も昔も恐ろしい存在には変わりないけれどな。




ここら辺の話は関係ないからまた今度話すわ。




でも、優位やったのに赤の国は白の国への攻撃をやめた。






その後。






なんとなく呼ばれているような感覚がしてあの部屋に向かったんや。




あの部屋に行くのが怖くていっていなかったんやけど、偶然なのか必然なのか、やはり総長はそこで絵を見つめていた。






「ナル」




「なに」






嫌な予感がしていたのだ。








「君には白の国の幹部になってもらう」








「・・・は?」








見捨てられたような感覚がした。






後から聞いた話になるが、総長はおれを引き取ってもらう代わりに白の国から撤退するという条件を付けていたらしい。一人の人間を動かすために戦争の勝ち負けを決めてしまうなんて公私混同も甚だしいほどのことだ。




でもおれは理解が出来なかったのだ。




みっともなくわめき散らかして嫌だと叫ぶ姿はどれだけみじめに映ったのだろうか。






それでも彼女は、おれにカモミールの絵と、どうやって集めたのかわからない白い髪の毛を集めたかつらというものを渡してくれたのだ。












「きっと、おれの瞳のことを気にかけてくれとったんやと思う。それと白の国やったらかつらさえあったら赤色はバレへんから完全に偽装することが出来る」




そう語るナルは遠いところを見つめていて、おもうところでもあるのだろう。




苦労はしているだろうと思っていたが想像以上に周囲から嫌われていて一人しか仲間がいなかったということが分かった。




「カモミールの絵・・・」




真っ赤に塗られている花の絵を見る。確かにカモミールの花のイメージとはかなり異なっている。白い花だから白の国ではよくこの花を目にする。




ナルが心を奪われたのにも納得できる。




そんな過去があったのなら姉であるはずの総長や、他の幹部に目もむけずにナルのことを探していてどこにいるのかも直感で分かるくらいになっていることが理解できた。彼らにとってお互い大事な存在だっただろう。




しんみりとした空気になる。




とてもピンヒールで俺の背中に穴をあけようとした人と同一人物には考えられない。相手によって変わるのかナルに身内フィルターが入っているのだろうか。




「らいなのこと好きだったのか」




ナルに込められている瞳が、通常の親愛と違うもののような気がして無粋なことを聞く。




ソファに深く腰掛けた。




「どうなんやろ。好きとか嫌いとかよりもおれのすべてやったし何があっても守りたいって考えてたからな」




「らいなが言ってた器って何のことなんだ?」




彼女に託された伝言が気になった。




すると初めて彼がおれから視線をそらした。何か心当たりでもあるのだろうが、彼はわからないという風に首を横に振った。言いたくないこともあるだろうから突っ込まないでおこう。




俺は色に対して不快感が全くないのだが、そのことが色によって偏見や誹謗中傷を受けてきたナルにとって余計に不気味に感じたのだろう。




「おれは昔話だけをしたかったわけやないんや。おれにとって赤の国はいい思い出なんてほとんどないけれど大事な人の大事なもんやから守りたい」




「それは、赤の国につくってことか」




「そうやない。白の国での生活も長くてハーフを隠すことが出来て仲間もできた。世話になったことがかなり多い」




赤の国での話は聞いたが、白の国でどうやって過ごしてきたかはまだわからない。でも信頼関係でいったら恐らく幹部の中で一番いい関係性を築いているように見える。だからこそ感謝することも多いのだろう。隠し事はしつつも、隠し通していればばれないものだ。




彼は何者かになることが出来たのだろうか。




「赤の国はおれにとっても大事な国やから勝ちたいねん。おれが訓練をしたるから一緒に頑張ろうなってことを言いたかったんやけど、つい長話してもた」




「そっか、そうだよな・・・よろしくお願いします」




頭を掻いている姿にも愛嬌がある。




こういうところが好かれる魅力なのだろう。






ナルとともに戦うために強くなってから正々堂々と勝ちたい。






「そういえば赤の国に勝ったとしたらハーフじゃなくなるんじゃないのか」




「そうやな。多分赤色の髪が白い髪になると思うから見た目としては完全な一般人になれると思うで。でも魔力は生まれつきのものやから完全に普通にはなれへんけどな」




それならば。




だとしたら、赤の国が優勢のまま勝っていたとしたらナルは見た目が赤の国の住人になっていたためハーフとは言えない状態になっていたのではないか。今頃は普通に赤の国の少年として普通に過ごしていたかもしれなかったのに。何か事情でもあったのだろうか。




とにかくがぜん戦うためのやる気がわいてきた。訓練を頑張っていこう。










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