化け物同士
助けてください。
どうしてこんなに短期間のスパンで殺されそうになっているのだろうか。今回に至っては味方だし割と親近感を抱いていた相手なのに。
「なんでって言われてもどうしようもないだろ。ただきれいな顔だなーとしか思わないし」
信じられないという顔をされる。
小さいころから色に関してあまり気にしていなかった。他の人からしたら色が重要だということは理解していたためそのように振舞ってはいたがそこまで嫌悪感というものはないというよりも全くないに等しい。
そう考えるとハーフというのは他の人からしたらとんでもなく恐ろしいものなのかもしれない。
「この顔を見られてそんなどうでもいいことのような態度をとられたのは生まれて初めてや」
「色は気にしたことがないから」
ぴくりと彼が動く。
そして剣が引き抜かれた。
「このことはくるみしか知らん。君には伝えておかんといずれかは魔力がないことにばれると思たから話したんや」
この話も秘密ということか。
「赤の国の色に興味を示さんかったし総長と一緒にいてもやけに気に入られとったみたいやから赤の国のもんやと勘違いしたわ、すまんな」
「別にらいなにそんなに好かれてたとは思えないけどな。背中に穴開けられそうになったし」
さすがに痛すぎたから治療をしてしまった背中の傷のことを口にする。美少女にピンヒールで踏まれるなんてすごい機会だと思ったが、正直に言うと二度と体験したくないくらい痛かったし最悪の出来事だったのだがあれで好かれているとは思えない。
するとナルは剣をしまいながら微笑んだ。
「あの人は気分屋やから気に入らん相手は速攻でクビにしたりするんやで。面食いなところもあるから気に入られたんかもしれんな」
「ナルに言われたら嫌みにしか聞こえねえな。ってことはナルは気に入られてたのは顔と赤の国に入る権利があるってことか」
猫かんにはハーフだとは言えないから赤の国の住人であると伝えることで赤の国との関与が疑われたときにもごまかせるようにしているのだろうか。
俺は極めて普通の顔をしているから顔で気に入られたわけではないにしろ、ナルは間違いなく誰が見てもどんな面食いでも合格であろう。
俺の質問には自分で答えにくいだろうが少し言葉を選んでから
「顔はともかく、おれはもともと赤の国出身だったんやけどいろいろあって白の国の司令官をするようになったんや」
つまりごまかしのために言ったわけではなく猫かんは赤の国から来ているから赤の国の住人に違いないと考えているということか。
「じゃあそこでも司令官をしていたのか」
「驚くと思うんやけど戦闘専門の幹部をやっとったんや」
「え、戦闘!?」
「その辺の話はまた今度ゆっくりするわ」
戦闘専門の幹部だったならもしかすると猫かんと直接敵として戦ったことがあって、それから恋に落ちたという可能性があるわけか。
え、なんてロマンティックな話なんだ。
しかもナルはハーフであることを隠していて、その正体がばれてしまうと嫌われてしまうかもしれないからその気持ちを隠しながら別れをつげたとしたら。
俺が入る隙間なくね?
関われば関わるほど憎めない存在だがなんとも言えない立場にいる。
とりあえず今日は口止めするための話だったってことだろう。
「そういえばらいなが器を用意しているからとか何とか言ってたぞ」
そういうと、彼の動きが一瞬止まった。
顔が見えないのだが、どんな表情をしているのだろうかと気になってしまうくらいの動揺がここからでも伝わってくる。
しかしすぐに顔を上げて笑顔を見せた。
「わかった」
時間になってしまったためそろそろ退出しなければならないことに気付いて声をかけて、ドアのほうに向かっていったが考え事をしているようでなにも返ってこなかった。
扉をゆっくりと閉める。
「やはり、化け物が好きになるのは化け物・・・ってことやな」
そう、つぶやいている声は聞こえなかった。
俺はオムライスをテーブルに置きながら猫かんの前に座った。
この家は誰も家事ができる人がいなくて冷凍食品ばかりを使っていたらしいため俺が来たことによってQOLが格段に向上したらしい。今までどうやって生活していたんだろうと思ってしまうほどにこの家の人たちは家事ができない。
目を輝かせてスプーンを手に取ってから口に運んでいる姿を見守る。
「いただきます」
美味しそうに頬張っている姿にほほえましくなりながら、切り出した。
ちなみにオムライスを食べたことがなかったらしい猫かんは初めて出した時には不思議そうにつついていたがすっかり気に入ったようで何度もリクエストをされている。
「俺に訓練をしてくれないか」
こんなもので釣るような真似をしてしまって申し訳ないが、どうしても協力が欲しかった。頼んでみたら恐らくいいといってくれるだろうが世界で一番強いと呼ばれている少女に訓練を直々にしてもらうなんて恐れ多い。
意外なことだったようで口をあんぐりと開けている。
「急にどうしたんですか」
「久遠に気に入られていなかったから、せめて認めてもらうために久遠に勝ちたいんだよ」
性格には認めてもらうためには本人から魔法を使わせてみろといわれたためそのレベルでいいのだろうがもっと上を目指したいところだ。
ケチャップをぐちゃりと広げる。
「勝つって言っても久遠さんは防御魔法で普段から鍛えていますし佐倉先輩は回復魔法専門ですよね?どうやって戦うんですか」
至極まっとうな指摘だ。
「俺の考え方が間違っていたんだと思うんだけど、自分の領域だけできていればいいわけじゃなくて久遠みたいに防御専門だからって攻撃にも目を向けたほうがいいんだろうなって思ったから戦闘の方向にも目を向けたくてさ」
なんとなく理想論としてはわかっていたが実際には他の人がしてくれるからいいだろうと油断していた部分があることをわかっていなかった。だからこそ久遠の不快を買ってしまって殺されそうになる事態になったのだろうと自分なりに考えたのだ。
猫かんが静かにスプーンを置いた。
目を閉じている彼女が何を考えているかはわからない。
「私は久遠さんとは考え方が全く違っていておまけに嫌われています。もちろん尊敬はしていますし否定するつもりもありません。私は、自分の領域だけを極めることが正解だと思っています」
「え」
「もちろん人を守るための防御や回復に近いものを少しはかじっています。ですが他の方よりも器用ではないので練習をしたところで普通の人レベルにしかできません」
猫かんは確かに不器用なほうだと思う。魔法意外に取り柄がないとよく言っていて実際に料理をしてもらうにも方法もわからず教えたところで違うものが出来上がっていた。本当に少し調味料を入れてもらうだけだったのに。
でも、悲観的になっている様子はない。
「人を傷つける才能だけはあるので」
仕方がないことだと、あきらめている顔だった。
「他の領域を広めていく方法と、一つだけの領域を極める。二人とも行き過ぎなければ間違った考えはして辺と思うで。ええんとちゃうか、訓練」
真後ろから聞こえてくる蕩けるような美声。
「な、ナル!?」
白い髪の毛をかぶったナルが俺の反応に満足したのか猫かんの隣に座る。匂いがしないだけに普通の人では絶対に気付くことが出来るのに全然気配を感じなかった。匂いなんてわからない人でも魔力というのは無意識下で人を惹きつけるものだ。
俺と会うまでは部屋から出てくることもなかったのに平然と自分の分のオムライスを要求してくるから仕方なく差し出す。
質素な部屋だからこそ目立っているのだろうかとも思っていたがどこから見てもきれいな顔をしている。
「ナルさんやっと外に出てきたんですか」
「引きこもりみたいに言わんといてや。おれもいろいろ奏多と会うにはタイミングとかいろいろ事情があったんや」
困ったように笑っているナル。
きっと魔力の匂いを嗅ぐことが出来る能力のことは伝わっているようだから、こっそりと伝えるタイミングをうかがっていたのだろう。猫かんがいるときにうっかり聞かれでもしたら大変なことになっていただろうしな。
魔力がないため俺に居場所がばれないとわかっていたのだろう。
「猫かん、訓練したってくれんか。俺もついていくわ」
「もちろん私でよければお付き合いします」
快く引き受けてくれたことはうれしいがナルもついてくるなんて上司がいることへの緊張と、複雑な気持ちがある。
猫かんの表情が穏やかで楽しそうに見える。
こんな仲がよさそうなお似合いの二人が別れるなんて何があったのだろう。
「君がどんな戦いをするのかが気になったんや」
「別にただの捨てみな戦い方をしているだけだけどな」
「ハンデはどうしますか」
とても複雑な気分になってしまうがハンデがない限り消し炭ならぬ氷漬けになってしまう未来しか見えないのだが。
ここで尻込みしていたら何事も始まらないよな。
「なしで」
すると、空気がこおりついた。
「恥ずかしいのはわかるんやけど、魔力を抑えるブレスレットを付けるくらいのハンデはつけへんと司令官としては許可できひん」
力強い否定があって、ブレスレットを三つつけてもらうことになった。
変に意気込んだことで恥をかいてしまう結果になった。猫かんにも申し訳なさそうな顔をさせたし何事も調子に乗るものじゃないな。
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