ナルのヒミツ
「私がいたら危険な目には遭わせなかったのに!」
耳をぴょこぴょこしている猫かんは、頬を膨らませながら荷物の用意をしている。結局あれから久遠と俺を同室にするのは危険だという話でまとまり猫かんと同室になり総長は久遠と一緒になった。この前引っ越ししたばかりなのにまた引っ越しをしている。
ナルさんから話を聞いたらしい猫かんは今でも怒っている。
猫かんがいたとしたら反射的に相手のことを攻撃しそうだから他国の総長に攻撃して国際問題なんてことになったらとんでもないからよかったのではないか。
「佐倉先輩聞いてます!?」
同じ部屋に住んでいても距離をとらないと鼻を防がないで寝ることが出来ない。
対角にベッドを置いていると必然的に会話も遠いところからになってしまう。聞いているとこたえても納得していない様子だ。
「ネコこそ相手の幹部の相手したんだろ?大丈夫だったのかよ」
そういうと、猫かんはベッドの上で体育座りをする。
「心配されなくたって大丈夫ですよ。どうせ赤の国の狙いは私たちでも総長でもないんですから」
「ナルさんってそんなにすごい人なのか」
体育すわりをした足をゆっくりとこすり合わせているとパンツスタイルなのに変に魅力的に見えてきて目をそらしてしまう。
久遠がいけないわけではないがやはり猫かんのほうが聞きやすい。
「おそらく私が一生勝つことが出来ない相手です」
「ネコに勝てない相手なんているのか」
「私が世界で一番尊敬している方です」
その、ナルさんを想っている瞳がただの信頼関係によるものだと思えなくて。やはり先ほどの言葉を撤回してナルさん関連だったらそれほど特別な思いを抱いていないであろう久遠のほうが聞きやすいかもしれないと思い始めた。
それほど強い相手なのか。
だからこそ久遠や猫かんなど万が一があったときに対応できる戦闘や防御要員から離れているということなのだろう。
「彼は頭が回りますが、それ以上に私への対策として一番いい存在です」
「ネコよりも強いのと、この国の情報を手に入れているからか」
「そうですね。それに、普通の人であれば無理やり連れていくでもしない限り他の国で活動することはできないし隠していかなければ他国を使っているという事実がばれてしまったら信頼関係がなくなります」
つまりはナルさんは普通の人ではないということだ。
もしかして、という心当たりはあった。
「赤の国の人なのか」
白いしっぽがぴくり動いた。
そしてゆっくりと頷いたのだ。まさかのまさかが肯定されて驚きというよりも逆に冷静になる。確かにそれなら赤の国の総長が知っていたのもわかるしきっと赤の国にいたときも上のほうの立場だったことでここでもこうして司令官になっているのだろう。
赤の国の人が司令官ならなかなか俺の目の前に出てこれないだろう。
全てがつながって納得するしかない。
「気になりますか」
「そりゃあ」
今までは経済とか戦争とかあまり気にしていなかったが幹部と一緒に過ごしているとニュースなどに触れる機会が増えて気になるようになった。詳しい話を教えてくれたことはないけれど、勝手に収集して想像している段階だが。
「会ってみますか」
「いいのか?」
「この前会って話してみたいといっていましたよ」
会いたくないものだとばかり思っていたため向こうから会いたいといわれると思っていなかった。猫かんは話しやすいが俺ほどではないものの詳しい話はされずあくまで戦闘のことだけを伝えているようだから分からないことも多い。
俺が聞いてどうにかなるものでもないが、今回のような急な接触があったときにどうすればいいのかなど気になることは沢山だ。
個人的には猫かんの元カレという話にも興味深いものがある。
「ナルさんのこと好きなのか」
「なっ!?ち、違いますよ、もう終わった話ですし!絶対ナルさんに言わないでくださいよその質問。迷惑しかかけていないので」
顔を真っ赤にして否定する。
まだ気があるのだろうと察してしまうほど、彼女は照れた様子で焦っておでこをこする。わかりやすすぎる態度はこの時は裏目に出ている。
俺のテンションが下がってることにも気づかずに猫かんはこれからナルさんに交渉しに行くといって立ち去って行った。
ごくりとつばを飲む。
以前赤の国の少女と一緒に入った部屋の扉の前に立っていた。人がいるはずなのに何も匂いがしないため留守にしているのだろうか。
ここにナルさんがいるのかと思うと突然緊張してくる。
あの後猫かんにナルさんから許可が出たと伝えられた。そのため指定された日時に来てくれと言われたのだが面接のようでどきどきする。
「あの・・・」
情けない声でドアの前から声をかける。
電話で話した限り悪い人ではなさそうなのだが何週間も会わせてもらえなかった人とこうして会うとなればキチンになってしまうのも許してほしい。
そう自分を肯定していると。
「入り」
電話越しに聞いていた声が聞こえた。
美少女と同じ部屋で過ごしていた人権が保障されている人間だしこれからは猫耳後輩と暮らすんだから強く生きようと意味の分からない考えを浮かべながらドアノブをひねる。
かちゃりと開ける。
てっきり誰もいないものだと思っていたが本当にいるのだ。
「改めて初めまして、白国司令官のナルや」
そこにいたのは、息をのむ美しい人物だった。
絵画の世界に飲み込まれてしまったのだろうかと錯覚してしまうほどの美貌。パッと見た目では女性にも見えるが腕の筋肉や首などから中性的で男性であることが分かる。均等な位置に配置された神様が定規などを利用して丁寧に作り上げた最高傑作としか思えない美。
以前らいなと一緒に入った部屋なはずなのに、全然違って撮影スタジオのようだ。
長いまつげに、大きい瞳が隠されており伏目になるだけで色気で殺されてしまいそう。
肌から真っ白な見た目に反して背後に飾られている赤い花の絵がとても映える。その姿に夢中になってしまって声掛けに応えるのが遅くなってしまう。
「ナル・・さん」
「別に呼び捨てのままでええで。多分年上やと思うけど親元から離れてから久しいから年齢とかよくわからんねん。名字もないからただのナル」
何とも答えにくい言葉に目をそらす。
確かにナルのほうが大人びているように見えるが、そこまで変わらないように見えるため20歳ちょっとくらいだろうか。そう考えると少なくとも猫かんとは4つは年上だろうけれど、このご時世に4つなんて関係ないのだろう。
「気にすることやないで。ここにおる人らは全員まともな家庭で育っとらんからな。おれは捨てられとったしくるみは総長になることが決まっとる東城家の長女で、久遠も小さいころからここにすんどるからな。やから他の子らには気を使ったって」
「は、はぁ」
「とりあえずすわりんか、ずっとこの家にはおれしか男がおらんかったから寂しかったねん」
そういってフレンドリーにソファを叩いてくれるのに従って彼の目の前のソファに座る。周りがパソコンばかりだが情報が漏れてしまわないためか2台のパソコン以外は消えている状態である。それもその二台は情報というよりも監視カメラのようにどこかを映している映像だ。
じっと見ていると自分の私物があることに気付いた。
これはいったい何のカメラだろうか。
「これは猫かんとくるみの視点カメラやで。猫かんには内緒でつけとるから知らんやろから言わんといてな。ばれたとしたら緊張してまうかもしれんから」
人差し指を立てて内緒のポーズをするだけでとんでもなく絵になって美しい。
「まじでお前この家にいる人たちの顔面偏差値高いと思っていたけどそれを加味してもとびぬけてきれいすぎじゃね」
「ありがとう」
さらりとお礼を言われるが、謙虚そうに答えられるため実際に自分の美貌が分かっていないのかと思うと罪深い人だ。
「俺にもつけられてるのか!?」
「いいや。猫かんは自分で考えることが得意やないからやらかしたときに口出しできるようにすんのと、くるみは一番重要な人やからつけとるだけやで。久遠は防御しといてくれたらええし、おれのことは好かれとらんから」
そう聞いてほっとしてしまう。
「もちろん戦争のときにかっこええこと言うとったことも丸聞こえやったけれど勘弁してな。戦いになったときには猫かんの画面しかみとらんから」
「うわあああああああああああ!?」
とんでもなく恥ずかしい情報を伝えられてしまった。知らないほうがよかったこともあるだろうけれどここで知ってよかった。これから話しているときはナルさんに聞かれていることを前提にしなければならないのか。
こっそりと会っていたこともばれていたしそもそも出会いからして知られていたこともありえる。
ふと思いついたことがあったが、なんだか言いにくくて言い出せずにいると彼がおれのことを見つめて微笑んだため、思い切って口にしてみる。
「元カノの私生活をのぞき見してみるなんてどんな感じなんだ」
「ああ、その話も猫かんがしてたんやな。そうやなあ・・・」
自分でもかなり失礼だとわかってしまった質問でも嫌な顔一つせずに考えている姿は本当に優しい人物なのだろう。
上を向いて考え込んでいる。
自分だったらいけないことをしている気分になりそうだがなんせ自分が付き合ったこともないため想像することもできない。そもそもどこまでいっているか、どのくらい長い間付き合っているのかわからないくらいだ。
「とりあえず苦しんでいる姿を見るとこちらも苦しくなるし、最近は男性にご執心のようだから少し心配になっているくらいやろか」
そう意地悪な瞳をしてこちらを見る。
男性と言えば俺とナルのほかにいないため俺であろうが、なついてくれていることは確かだが猫かんは明らかにナルのことが頭から離れていない様子でなにか話をするごとに名前がでてくるのだからご執心なんかではないことはわかっているだろう。
意地悪そうな顔と言っても自分に気があると思っているほうではなく本当に猫かんが俺のほうに気が向いているとでも言いたげなからかうような表情だ。
「ナルには負けるよ」
「質問はそれだけやないよな?」
覗き込むような視線。
本題に入ったということだ。
「どうしてナルには魔力がないんだ」
そう聞くと分かりきった答えだったのだろうが、微笑んで足を組んだ。俺は魔力を嗅ぐ能力があるのにどれだけ近づいても匂いはしない。弱い相手であってもこれだけ近づけばかげるものだ。
魔力がないひとなんてありえないのだ。
その瞬間、ナルがハサミを手に取り自分の指を傷つける。傷ついた指は膨らんでから赤い血を垂らして流れていく。自分の傷は回復魔法で片づけてしまいたくないけれど小さい傷だが指の先につくった傷って変に痛むため治してしまうことを思い出して顔をゆがめる。
俺のほうにその指を出す。
「この傷を治してくれないか」
こんな小さな傷なら回復することは簡単だ。
手をかざして力を籠める。
しかし
「傷が治らない・・・?」
魔法が発動していないというわけではない。光の粒子は飛んでいるのだが、彼の身体に触れることが出来ないのだ。
わかりきったことなのかナルは指をティッシュで覆って圧迫している。
「おれには魔力がない」
ティッシュからにじんだ血が広がっていく。それを見ている彼は恐ろしく美しく悲しげだった。
「魔力がないから魔法の影響も受けないという事か。そんなん最強すぎないか」
「最強なんて言えるものじゃないで。最強は猫かんや。魔法がきかんくても本体に攻撃されたら傷がつくし回復魔法もしてもらえへんし家ごとやったら効果もあるけどおれの周りに結界を張ることもできひん欠陥だらけや」
そういうことか。
持って生まれた化け物級の魔力の才能をもつ猫かんにとって、魔法がきかないナルさんは天敵であるはずである。それも猫かんは時折自分の身体でできることを魔法で済ませてしまう癖があるため移動などの手段を魔法に任せて体力や攻撃方法が他にあるとは思えない。
確かに猫かんには最も向いていない存在だ。
でも、そんな存在は本来いないはずなのだ。
「そんな人がいるわけないって思っとるやろ。猫かんが俺のことをなんで好きになったか教えるわ。化け物が好きになるのは化け物なんやで」
そういって、彼は自分の髪の毛に手をかけた。
真っ白な髪の毛がずれていき、現れたのは赤い髪の毛だった。
「おれ、赤と白のハーフなんや」
禁断の、他国との混血である姿をさらした。
赤い髪の毛と、少し曇った白い瞳は互いの国での純血の特徴だった。
「その瞳も偽物なんじゃないのか」
「残念ながら本物やからおれは魔力も持つことが出来ひんし魔法が効かへんからだやねん」
そういって、自虐するナル。
「ところで」
俺の顔の近くに、冷たい感覚。
視界の端にぎらりと映っているのは壁に刺さった剣だ。
「なんであんたはおれの姿を見て平然としてられるんや?」
彼は優しい表情で俺の頬を剣で傷つけた。
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