血染の頸飾 拾貳

 沖浪が数分もかけずに描きあげた。前置きどおりあまり上出来ではなかった――河尻が思えた感想ではない――ものの、上手下手は置いておいていいことだ。


「悪くないんじゃないかな、河尻君」

「そうですね。特徴がはっきり分かるように描いてくれた」

「それはよかった」


 沖浪が頬をゆるめた。


 二、三やりとりをしてから面会は終わり、沖浪は係と一緒に出ていった。


「どうなさるのですか、これは」


 向井が緒都と絵を見比べて言った。


「探す時の手がかりになっていいだろう」

「探すって、首飾りをですか」

「他に何があるってんですか」

「確かに証拠の一つであるとは小官も考えるところでして、被疑者の家やその周辺はすでに探し終えております。他にあてのようなものは――」

「蛇だよ」


 緒都が言った。


「は」

「沖浪君の話からして、あの首飾りには蛇が憑いてると考えるのが妥当だ。だから蛇が隠れていそうなところを探す」

「蛇でありますか」

「あなた方が疑ったとおり、悪霊の仕業と見て間違いはなさそうです」


 在森が言った。向井は棒立ちになっていたが、やがてさも当然とばかりに繰り返しうなずいた。


「我々の見立てが正しかったというわけですな。いや、よかった。とはいえ確信を得ることができたのは無論貞峰様の大きなご助力があってのことです。幾重にもお礼を申し上げます」

「それじゃ一丁やりますか」


 河尻は言った。格子越しに突っ立つ向井に、何が我々の見立てだ言うことをころころ変えやがって、と心の内でまくしたててからのことだ。


「首飾りから取れたっていう玉を借りたいな。探す方角の目星がつくかもしれない」


 緒都は落ち着き払っている。


「ええ、ええ、もちろんです。厳重に保管してありますから、今持って参ります」


 向井が引っ込み、少しして河尻達の背後から現れた。


 玉は小指の爪の半分もない大きさだった。


「これなら大丈夫だ」


 緒都が懐中時計を出し、時計盤とは反対の面の蓋を開いた。中から羅針盤に似た針と歯車が現れた、その絡繰だけで驚くに足りるところを、さらに羅針盤もどきを引っぺがして現れた隙間に玉を入れ、羅針盤もどきをパチリと元に戻した。気づけば河尻は緒都の手の中に釘づけになっていた。こりゃなんだ、と声が出るのも無理はない。


「ただの時計じゃなかったんですか」

「そうだよ。前に見せなかったかな」

「いいや見ませんね、短くない付き合いだってのに」


 言い合ううちに針の揺れが小さくなり、一つの方角を示すようになった。


「おや、止まった」

「あっちは――確か公園がある方ではありませんか?」


 在森が顎に手をあてた。


「そうだ、歌川公園! いかにも蛇がいそうなところじゃないですか。まずはそこから探しましょう」


 河尻は手を叩いた。やっぱりこのバタ臭は嫌いになれない。

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