第3話 ひとえに運がよかった。
『マジでうまくいったな』
「だろ?割とどうにかなるもんなんだよ」
『そうはいってもこれからどうするつもりなんだ?』
「さすがにここにいるのはまずいかもな。僕の顔を覚えてるやつが増えるともっと上のやつが出てくるかもしれないし」
『でもあのモンスターはどうなったのかわからねぇんだぞ?』
「これは経験則だけど、モンスターっていったん自分が通った道はもう2度と通ろうとしないんだ。だから一旦はあいつが通過した場所に行こうと思う」
『それ、本当に大丈夫なのか?』
「大丈夫だって」
少年は少女の問いに心ここにあらずといった様子で返事をする。
ヤクザの拠点から逃げてきた後、奪った銃を見ていた。回転式拳銃。6発装弾可能。リロードの仕方も単純であるため、知識のない少年でもリロードができた。
少年が銃を構えていると、少女が注意してきた。
『言っておくが、耳栓はちゃんと持っておけよ?じゃないと耳が悪くなっちまう。今の俺達には耳による索敵が一番の生命線なんだからな?』
「わかってるって。これから恵の雪崩に探しに行こうとしてるんだよ」
『…大丈夫か?ここよりもあそこはモンスターに近いが…』
「さぁ?でも銃を使えるようにするのは火急だろう?それに、今ならあいつと戦って勝つ見込みはあるし、戦ってもいいと思ってる」
『なぜ?』
「あそこまでべらぼうに強そうなやつ初めて見た。そして、今日は遠征の日じゃないから上層の人がたまたま居合わせるなんてこともないだろうさ」
『もし戦うならどうするつもりだ?』
「目に銃弾をぶち込むしかないな」
『そんなこと、できるか?』
「できなきゃ逃げるか死ぬかしかないな」
『ったく、突然割り切りやがって』
「仕方ないだろう?こうしなきゃ強くなれねぇんだ。それに、これはいい機会だ。こんな肉壁が多い場所で銃を持った状態で戦えるなんてまたとないチャンス。
しかも、さっき言ったように1度調べたところは探そうとしない習性を理解しているから途中逃げもある程度可能だろう。
野良犬を100体倒し続けるよりも、ここで一発当てて野良犬を安全に狩れるようになったほうがいい」
『まぁ、これはお前の体だからお前に任せるが、お前が死んだら俺もどうなるかわかんねぇ。気を付けてくれよ?』
「もちろん」
少年もまた、下層で生きてきた人間である。楽観的な想像に突き動かされやすいものなのだ。
しかし、ほかの下層の人間と違う部分がある。上層に住んでいた、貴族の少女の存在だ。彼女がその楽観的な行動に対して対策を取らせることで、チャンスを本当の意味でつかみ取りに行くことができるのだ。
少女に注意された通り、恵の雪崩で耳栓の代わりになりそうなものを探していた。
20分後、フード付きのチャックが壊れた前開きのパーカーと、臭いタオル、リュックサックを見つけた。
そのタイミングで、人々の悲鳴が近づいてきていた。
『オイ!多分来たぞ!』
もの探しに少年が集中していても、少女が回りを警戒してくれる。
「わかった」
耳を押さえつけるように臭いタオルを頭に巻き付け、その上からパーカーをはおい、フードを被る。リュックは近くの地面に置いた。
「RGYAAAAAAAAA!!!」
近くの建物が破壊された直後、雄たけびが聞こえた。
『マジで戦うんだな?』
「もちろん」
その直後、目の前の家がつぶれ、その奥からモンスターがジャンプして飛び出てきた。ゴリラのようなその巨体は、全長5mほどにもなる。さらに、その速度は時速25kmほど。ぶつかれば少年はひとたまりもない。
そこでとっさにスローが入る。
ゆっくりと突進してくるモンスターをゆっくりと潜り抜け、片手でゆっくりとモンスターの肛門を狙い、撃つ。
「ッ!」
銃を撃ったことがなかったのと、片手で撃ったために、右肩が痛み出した。
『オイオイオイオイ!どうするんだ!?外したぞ!?』
そこでスローが切れる。さらに、撃った弾は大殿筋のような鋼で防がれる。
「スローは!?」
『あと1分は使えねぇ!』
スキルのない一般人となってしまった。
『どうする!?ほかの人間は右側にいたはずだぜ!』
モンスターは尻に銃弾を撃たれたことによって少年をターゲットに切り替えた。振り返ってすぐに、少年に飛び込む。
『かわせぇええええ!!!』
少年はとっさに右後ろにバックステップ。すると、紙一重でモンスターの攻撃をかわした。直後、モンスターの顔が目の前にある状態になる。
ダン!
リボルバーを両手で構え、目に向かって打ち込んだ。
「BWAAAAAAAAAAA!!!」
目を抑え込んで叫び始めた。少年は少し離れてから口の中に銃弾をぶち込む。
「ァ"ァ"ァ"ァ"」
モンスターは声帯がわずかに震えるばかりになり、身動きを取らなくなった。白目をむいているモンスターの目に手を突っ込み、脳を外側に引きずり出し、殺しきった。
「はぁ、はぁ、運が…よかったな」
『よく無傷で倒したな……でもマジでもうやめろ』
「わかった…」
『もうだめかと思ったんだぞ?』
「ごめんごめん。でもこれで結構レベル上げられるんじゃない?」
『お前なぁ、レベルなんて死んだら意味ねぇんだぞ?』
「生きてるじゃんか。もう二度と無茶しないからさ。な?とりあえず今忙しいんだよ」
少年はせっせとモンスターを金づちで叩いてモンスターの金属を引きはがしていた。モンスターの部品はかなり高値で取引されている。いくら雑魚と呼ばれているモンスターでも、野良犬とは段違いの収入を得られる。
「ふぅ、すぐに換金に行く。あいつらが殺到する頃にちょうど帰れるようにしたいからさ」
『ん?なんでだ?』
「こういう風に討伐されることって前にもあったんだよ。その時も住民がみんな群がって奪い合いが始まったんだよ。それからは金を持ってるやつをカツアゲしたり、その金で組織に入れてもらったりもしてたな」
『なるほど。カツアゲする奴が増えるから、そこから逃げ出すためにハイエナどもをあえてカモフラージュに使うってわけか』
「うん」
そそくさとリュックを背負ってその場を去った。
少年は血だらけになってしまっていたパーカーとタオルを脱ぎ捨て、換金所に来た。
「おっちゃん!こいつを換金してくんない?」
「んん?おお!これすげえな!中層のやつに結構人気なんだよ!そこの料金表にある通り、1kg当たり500タースでどうだ?」
「ん?1kgあたり700って書いてますけど?」
「おおっと、しまったしまった!間違っちまったわ。700だったな!おまけして710タースにしとくから許してくれ。な?」
「あ、ありがとうございます」
「計量するぞ?…7kgだから4770タースだな!」
「4970タースですよ」
「んん?えーっと、ああ、本当だ。すまんすまん。はい、4970タースだ。数えてみな」
「5000タースになってますよ?」
「いいんだよ。受け取っとけって」
「わかった。ありがとう」
「じゃあな」
何度も安く買いたたこうとしてくる男の言葉を何度も修正させ、正規価格以上を手に入れた。
『お前、普段からそうしろよ。これまでも結構ぼったくられてたぞ』
「いやだよ。めんどくさい。今はお金が欲しいタイミングだし、今まで手に入るような料金とは桁違いだし。ここでめんどくさがったら逆に面倒になる。そんなことより、この金の使い道を考えようよ」
『えーっと、5000タースだったか?そうだな~、銃を買うには少なすぎるし、戦力増強には使えなさそうだな』
「そういえば銃ってどこで買ってきてるんだ?下層にそんなもの売ってるところ見たことないんだけど」
『中層で買ってきてるんだろうな。あ、そうだ。中層入場資格試験でも受けるか?試験料は丁度5000タース。受けられるはずだぜ?』
「え?結構高いな…それ受けたら僕は何にも買えなくなるぞ?大丈夫か?」
『大丈夫大丈夫。それがないとどうせ何にもできないし。それに、再発行までお願いできるからな。お金を下層で盗まれたらオワリだが、中層入場資格は盗まれても消えねぇ」
「じゃあ、それでいこうか。僕もなんか勉強したほうがいい?」
『いや、そこは俺が教える。それにそんなに難しい問題は出ねぇよ。中層でやっちゃいけないことを最低限わかっているどうかの確認のための試験だからな』
「わかった」
『じゃ、恵の雪崩の左をそうように進んでくれ』
「了解」
少年は中層に向かって歩き出した。
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