第5話

 エアコンは苦手だ。

 しかし、ハードヨガで疲れ切った体に36℃の室温は酷だった。

 休日の午後、平岡は猛暑に負けてエアコンをつけた。半裸に短パンになると、冷風が心地良く、ベッドにごろりと横になって眠ってしまった。

 午睡を無粋に遮ったのは、スマートフォンのバイブレーションだ。画面に表示されたのは、幼なじみの女の子の名前「三輪みわ 美冬みふゆ」。電話なんて久しぶりだ。

 平岡は、高鳴る胸筋を落ち着かせてから電話に出た。

平岡ひらおか秋人あきひとぉぉぉっ!!』

 スマートフォンの向こう側から聞こえるのは、平岡をフルネームで呼んでくれる懐かしい声。幼なじみの女の子の、ちょっとハスキーなボイスがノスタルジーなメモリーをリメンバーさせる。

『あんたは猪か何かかよ! いつも行動が突発的なんだよ!』

「ご、ごめ……ごめん!」

 サプライズのつもりで連絡せずに発送おくってしまったのは、良くなかったか。平岡は反省した。

『あんな高価たかそうなものを大量に送ってきやがって……』

「ごめんて……迷惑だったよな」

『迷惑なわけあるか! でも、量を考えろ、量を! 段ボール箱を見た瞬間に、あんたが中に入ってるのかと思っちまっただろうが!』

「本当に、ごめんなさい……」

『ありがと。びっくりしたけど、まんざらでもない』

「え……?」

 数秒だけ、エアコンの風の音が止んだ気がした。

 今! お礼を言われた!

 ありがと、って!!

『ソーセージ、ただ焼くだけでも美味しそうだね。ポトフにも入れてみたい。チーズはバルのおつまみみたいにできるし、クラフトビールも飲み比べしたい』

 幼なじみの声が、花が咲いたように弾む。聞いている平岡も嬉しくなってしまう。彼女のこういうところが、昔から好きだ。人間として!

『それに、あのエプロン、欲しかったんだ。可愛いよね』

 可愛いよ、きみのそういうところが。

『お盆休み、あるの?』

「あるよ」

『たまには地元こっちに帰ってきなよ。そして、食品の消費に協力しなさい』

「手料理振る舞ってくれるのか!」

『あんたは昭和の人間か。あんたも協力しなさい』

「はい! 喜んで!」

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