第2話

 エアコンは苦手だ。でも、それは休みたいときだけ。

 エアコンが好きなのは!

 エアコンを効かせた室内で!

 体を動かすことだ!

 フィットネスクラブに着くと、平岡は時間の限りランニングマシンで走って体を温め、9時前にスタジオに移動した。9時開始のボディパンプに参加するためだ。

「平岡くん、来たね」

「おはようございます、谷田さん」

 小柄だが筋骨たくましい男性が、先にスタジオに来ていた。

 谷田は平岡より一回り年上だが、気の知れた友人だ。

「谷田さん、今日仕事は?」

「休み。平岡くんが朝から来ているってことは」

「俺も休みです」

「この後、昼飯食いに行こうよ」

「良いっすね」

 9時になり、1時間のボディパンプレッスンが始まった。

 音楽は、湘南乃風の「睡蓮花」。続いて、TM.Revelationの「HOT LIMIT」。知らない洋楽。

 他の参加者に比べたら、平岡は全然動けない初心者だ。それでも、ゾーンに入ったようにテンションが上がり、もっともっと動きたくなる。

 そのテンションが落ちないまま、次のボディコンバットのレッスンにも参加した。

 平岡が体を動かすようになったのは、大学生のときだ。

 三島由紀夫の小説を読み、三島がボディビルに熱中したという事実を知った。そこから影響を受けて、自分も運動を始めた。

 もやしのように細かった体は筋肉がついて引き締まり、うっかり薄着になっても恥ずかしくなくなった。

 でも、未だに心に引っかかっていることがある。

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