第27話 年なんて終わらなきゃいいのに

「また揶揄からかって」

「……可愛すぎる」

「どんだけ……ゴホ、失礼しました」


 思わず吐き落としたレンヴラントを見て、アルバートが咳払いをする。


「しかしなんでまた、なんでティーカップを?」

「念のためって、言ってましたね」

「ふむ、」


 レンヴラントは立ちあがり、贈られたカップを手にとって、銀の装飾を眺めた。

 

「すみません、あなたより先に贈ってしまって」

「構わない。有難いくらいだ」


 少し特別扱いしただけで、彼女の身に事件が起きすぎているのだ。控えめに言っても、心配すぎる。

 レンヴラントは顔を撫でた。


「こういうものはいくらでもあった方がいいだろうな」


 と、カップを静かに置いた。


「嫁殿も心配していましたよ」

「お前、嫁に有る事無いこと話してるのか?」

「まさか、ない事は話してませんよ」


 アルバートが肩を竦める。


「それじゃあ、ある事は話してるじゃないか!!」

「わたくし共はレンヴラント様の幸せを願ってますので」

「ていよくまとめたな。全く」


 腕を組み、レンヴラントが鼻を鳴らす。


「ですが、あなたにだって期限が迫っているのですから、そろそろ婚約者を決めるようプレッシャーがかけられますよ」


「あぁ……年なんて終わらなきゃいいのに」


 そしたらレティセラの期限だって来ない。

 だからといって、彼女を婚約者として選ぶには、貴族という火の粉で、燃やされてしまうのではないかと思うと怖い。


「もう、そんなに想っているのでしたら、既成事実でも作ってしまえばいいじゃないですか。メイドなのですから」


「そんなバカなこと、出来るわけないだろう!!」


 レンヴラントは、バンッ、と机を叩いた。


「まぁまぁ。落ち着いてください。例えばの話ですから」

「例えばでも、それは考えてはいけない気がする」

「健全な男性というのは、気のある相手に一度くらいそういう妄想を抱く物です」

「そういうものか? それでも嫌だな」


 悪いことをしているみたいだ。


「ですが、話だけでもしてされたらいいじゃないですか。自分には気になっている相手がいて、と」


「そうだな……考えておく」


 レンヴラントは止めていた執務を再開しはじめた。


 そうだ、話しておけば少しは障壁にはなるな。

 身分については……まぁ、両親は問題ないだろう。誰でもいいから選べ、と言われているくらいだし。

 面倒なのは彼女と、その家の方か。


 レティセラは『ずっと専属として働いて欲しい』と言った時、断ろうとしていた。それを気づいていて、聞きたくないから、と返事を先延ばしにしている。


 だが、あの時、たしかに願いみたいなものも感じた。もしかしたら、彼女自身はここにいと思ってくれていて、そう出来ない理由が何かあるのかもしれない。

 これは、ただの”都合のいい解釈”である。


 おそらく、レティセラがここで働いてるのは、家を出るための手段に過ぎないのだろう。とにかく、お互いの期限が来るまでに、どうにかして彼女を引き留めなくては。


 差し当たっては誕生日。そこがチャンスになるだろう。これは、誕生日プレゼントが欲しい、というレティセラの気持ちは置いてきぼりにして、俺がただ贈りたいだけというのもあるが。


「アルバート、宝石屋を呼んでもらえるか?」


 誰かにこうした贈りものをするなんて初めてだ。


 うまく選べるだろうか。

 喜んでもらえるだろうか。


 そんな不安はあるものの、考えるのは幸せで、楽しいと感じていた。

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