第20話 鳴り響くノック
魔術で池から飛び出し、レンヴラントは岸に膝をついた。ボタボタと、水滴が冷や汗のように落ちている。
「おい!!」
レティセラの頬を叩いた。
幸い、すぐに引き揚げたからか、息も止まっていない。気を失っているだけのようだ。
エリュシオンと共に走ってきたアルバートが、彼女を運んでいく。全てが、色のない世界で起こっているように見えた。
突き落とした張本人は……どうも逃げてしまったらしい。そんな事をしたって、顔は割れている。
だが、それが分かったところで、おそらく罪に問うことは難しいだろう。それは、レティセラの身分が低いからだ。
「レンヴラント、大丈夫?」
「俺は……なんともない」
「びしょ濡れだけどね」
遠慮がちにエリュシオンが笑った。魔術をつかえば、何もなかったかのように服が乾いていく。それも、今は恨めしく感じた。
これから開かれる夜会にも、出る気にはなれなかったが、そうもいかない。レンヴラントは差し支えない程度で出ることにして、この日は早々に会場を切り上げことにした。
彼には、あと1日残っていることが、苦痛でしかたなかった。
※
次の日、目が覚めたレティセラは、見慣れない場所に少し混乱した後、何があったか思い出して落ち込んだ。
また問題を起こしてしまった。しかも、ロザリーさんには、夜会が終わるまでの間、ここから出ないように言われている。
どうしてこうなっちゃったんだろ。言われた通りにしていたんだけどな。
今日は朝から雨が降っている。しとしと、と降るその音が、自分の代わりに泣いてくれているみたい。
本当なら、今日も働いていたはずなのに。
こんな状況じゃ、流石にやることもない。私は夕方になるまでずっと、窓を眺めているしかなかった。
今頃みんな忙しく働いているだろう。
日が傾いて、部屋が暗くなっていく。部屋の外は物音ひとつせず、雨音だけが響き、それにしばらく耳を傾けていると、足音が響いてきて、部屋の前で止まった。
コンコン……
最初、それはロザリーさんかアルバート様なのかと思った。
だけど何もないも言わない。どうも違うらしい。
コンコン。
呼びかけもなく、ただ響くだけのノック。しかも、2回目は、返答がないことに苛立っているのか、少し強めだった。
もし、その2人なら声もかけるだろうし、鍵も持っている。なぜなら、今あの扉は外から鍵がしまっているからだ。
コンコン!!
3回目のノックが警告のように強く鳴り響く。それは、私を不審感でいっぱいにした。
息を止めて、顔を
だれ………?
私には怖いものがあって、その一つが、幽霊の類である。それでなくても、もはや、恐怖でしかない。
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ!!
段々と増す激しさに、強烈な身の危険を感じて、レティセラは布団に潜り込んだ。
怖い………………怖いっ!!!!
ガタガタと震え、枕を握りしめて涙目になっていると、その音が急に止む。
まだ、飛び出しそうなほど、心臓がドクドクと騒ぎ立てている。何度も息を吸っているのに、苦しさがなかなか治らない。
少しの安堵。そう思ったのも束の間。
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!!!
忙しなく肩を上下させていると、扉が必死に何かを
「……やめて!!」
叩かないで!
やっとの思いで、声が出る。もし、あの扉が壊れてしまったら……私はどうなってしまうのだろう。
お願い、壊れないで!!
バアァァァァ────ン!!!
その願いも虚しく、扉が破られた。
「きゃあああぁぁぁぁぁ!!!! 助けて!! レンヴラント様────!!!!」
なんでその名前が出たのか、それは分からない。けど、自分でもこんなおおきな声がでるの? っていうほど私は悲鳴をあげていた。
怖くて、怖くて。逃げ出すにも足には力が入らない。だからもう、視覚も聴覚も放棄して、レティセラは布団の中で、
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