第8話 蝿の王
ベリアルは戦車を召喚した。
前方には炎を放出する馬が2頭、そいつらが
車輪には棘のようなものが取り付けられている。
あんなので
ベリアルは戦車に飛び乗ると片手剣をこちらに向ける。
「クククッ。俺がこの戦車を召喚したということは、わかってるよなクロイ?」
「新しいおもちゃで舞い上がってるのか? それともその程度の武器でこの俺を殺せると思ったか?」
ベリアルは苦虫を噛み潰したような顔になる。
「天使に向かってそのような態度を取るとは……。まあいい、お前をギタギタに轢き殺してからあの小娘の血液をもらう。もちろんお前の体も有効活用させてもらう」
俺はマチェットナイフを構える。
こんな小さな武器でやつの戦車を止められるとは思わない。
しかしコートの能力は1つの世界で1回ほどしか使えない。
「では行くぞクロイ。走れ
ベリアルの命令により馬が戦車を引いてこちらに突撃してくる。
馬は発火しており触れただけでも燃えてしまいそうだ。
迫りくる戦車に俺は左に大きく回転して回避する。
「おうおう。ジジイの割にはうまく躱すではないか!! ならば速度をあげよ!!」
馬がもう一度こちらに向かって突撃してくる。
さっきよりも速く更に火力が増している。
「おじさん!!」
ルスペルカが叫ぶ。
これはさっきのようには躱せない。
俺はとっさの判断で上に跳躍する。
しかしそれを待ち望んでいたようにベリアルは薄ら笑いを浮かべる。
「空中では逃げ場はないぞ!! そら、《プロミネンスブレイド》!!」
ベリアルが燃える片手剣で俺を切り裂こうとする。
おそらくこの攻撃にはレオの言っていた呪いの効果がある。
しかし臆することなく俺はベリアルの片手剣の上に乗りナイフを構える。
「何?!」
俺は2本のマチェットナイフで首を切り裂く。
しかし切った手応えはあったがすぐに傷が回復する。
なんて回復速度だ。
クソ、堕天使とは厄介だな。
俺はすぐに戦車から離れる。
「今のは驚いたぞクロイ。まさか剣の上に乗るとはな!! サーカス団にでも入ったらどうだ?」
「お前こそもっと剣の腕を上げたほうがいいんじゃないか? まるでズブの素人だな」
「クッ!! 言わせておけば。行け炎馬!! クロイを轢き殺せ」
また来るのか。
こうなったら戦車の車輪を破壊する。
もちろん相手の攻撃にさらされるだろう。
それでも俺は戦車に突っ込んでいく。
「ほう、迎え撃つつもりか。いいだろう。この戦車を切り裂けるものなら試してみろ」
戦車はまっすぐこちらに向かってくる。
俺はトップスピードで接近し足にダークマターを集中させる。
そして瞬間的に左にずれ戦車を回避する。
しかし馬の炎で俺のスーツが発火する。
クソ、肩がやられた。
しかしここで諦めるわけにはいかない。
するとベリアルが剣を振り上げるのがみえる。
俺はそのまま車輪に向かって攻撃を仕掛ける。
「馬鹿め!! その腕はいらないのか? ならばもらった!!」
すれちがいざま、俺は
「何?!」
「車輪はもらったぞ」
俺は戦車の車輪をまっすぐ切断する。
すると俺のナイフはその威力に耐えきれず粉々に砕けたが戦車はバランスが取れず横転した。
ベリアルはすぐに戦車を捨てこちらを見る。
どうやら横転する前に空中に逃げたようだ。
「ふん。まあ戦車はどうでもいい。また時間が経てば召喚できるしな。そちらはナイフだけでは済まなかったようだな」
俺は右目を抑える。
能力の使いすぎでついに右目から出血した。
正直左目も怪しいぐらいだ。
「はぁはぁ」
俺は肩で息をする。
「老人にはきつかったか? なに、すぐに殺してやる」
ベリアルは余裕の笑みで片手剣を構える。
俺は最後のマチェットナイフを構える。
ナイフはあと料理包丁とサバイバルナイフ2本。
しかしどれもコートの中だ。
こちらには魔法攻撃を防ぐ手段はない。
ならば使うしかないか。
「うん?」
俺はマチェットナイフを地面に置く。
「ほう、とうとうコートの能力を使う気になったか?」
ベリアルはほくそ笑む。
そうか、こいつはコートの力を見たかったのか。
「残念だがお前がコートの力を見ることはないだろう」
「では潔くこの俺に殺されるか? なに一瞬で終わらせよう。最もこの娘の方はじわりじわりと殺していくからな」
俺はスーツを脱ぐ。
そして体に力を入れる。
奥底から俺の根源からダークマターを引き出す。
「肉弾戦か? 受けて立つぞ」
「お前は聞いたことはあるかベリアル?」
「なんだ遺言か?」
「あるものを食べたら、そのものが持つ能力を手に入れた、とかな」
ベリアルは失笑する。
「それで? お前が何をできると言うんだ?」
俺も笑いながら話す。
「いやな、政府や組織にも言ってなかったんだが俺は虫を食べてな、そいつの能力が今も俺の中にあるんだ」
すると俺の体がどんどん変化していく。
「なんだ?」
頭がハエのようになり角が2本生える。
体は鉄のように固くなり虫のような見た目に変わる。
背中からは羽が生え足は細くなり速さに特化した形に変わる。
「まさか、お前?!」
ベリアルは俺の姿に恐怖し一歩後ずさる。
「根源の悪、
「まさかありえん!! 人間が根源の悪を持つなど!! 断じてありえん」
「俺は運が良くてな。超人類だからできてしまったんだよ」
「クッ。姿が変わっても人間は人間。俺が殺してやる!!」
ベリアルは俺に向かって剣を振りかざすが何もかも遅い。
俺はベルゼブブの能力、《瞬間移動》を使用して背後に回り込む。
そして鋭く首に拳をめり込ませる。
『ゴキ!!』と音がしてベリアルはその場に倒れる。
「息がッできないッ!!」
「そうかかわいそうに、俺が代わりのものを用意しよう」
俺は《眷属召喚》により大量のハエを召喚する。
「さあ息を吸えないらしいから息ができない体にしてこい」
ハエたちは俺の言うことに絶対に従う。
ベリアルの口からハエがどんどん入っていく。
ベリアルはもがき苦しむだけで攻撃を跳ね返すことなどできなかった。
「もがッ!! うぅ!! アアアがっ!!」
そして数分後ベリアルの死体を残しハエたちは役目を終えて消失していった。
「なんとか勝てたな」
俺は能力を解く。
そしてルスペルカの方に駆けていく。
ルスペルカは泣きながら俺に飛びつく。
「おじさん!! 怖かったよう!!」
「大丈夫だ。もう悪いやつはいない」
俺はベリアルの方を見るがそこに死体はなかった。
俺は周囲を探る。
すると空中で天使の羽を羽ばたかせているベリアルがいた。
まさかあれでも死なないのか。
しかしベリアルはかなり息が荒れていて血も流している。
「これで勝ったと思うなよ。次こそはお前をぶち殺す!!」
そう吐き捨てるとブラックホールのような穴に入り姿を消した。
なんとか撃退はできたな。
すると俺の喉に何かが詰まる。
「がはッ!!」
「おじさん!!」
俺は咳き込み口からは血が大量に出てきた。
変身の代償として俺の体の中は悲鳴を上げていた。
それだけではない。
俺の右目はもうすでに見えず左目も薄っすらとしか見えなかった。
「とりあえず移動しよう」
俺たちは少し移動して手頃な洞窟を見つけた。
ここなら少しは休めそうだ。
一応地面の振動を探ってみたがここには生物らしい生物はいない。
「おじさん大丈夫?」
ルスペルカが心配してくれる。
「休憩すればなんとか行けるだろう」
俺は右目に目薬をさす。
これで時間が経てば見えるはず。
だが期待はできないな。
さて、あとはベルフェゴールを倒せば根源の悪はいなくなりホワイトホールが開くはずだ。
俺は残る武装を確認する。
料理包丁とサバイバルナイフ2本。
ヒートナイフはもう熱を帯びていないので捨てる。
これで王都に向かわないといけないのか。
「少し休もう。ルスペルカは水を飲みなさい」
俺は洞窟でしばし休憩する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます