第7話 業火
俺は村から出て30分ほど歩き続けた。
しかし一向に敵の陣地は見えない。
どうなっている?
敵の幻惑魔法か?
だが俺はこのコートを着ている限り魔法はある程度カットできる。
それに俺自身の魔法耐性もかなり強い。
このことから俺に幻惑魔法は通じない。
よほどの強敵、
だから魔法という可能性は殆どないに等しい。
しかし敵が陣地を動かした可能性もある。
少し調べるか。
俺は地面に手をつける。
僅かな地面の揺れを頼りにここら一帯の地形を把握する。
特に陣地らしきものもない、鬱蒼とした木だけがある感じだ。
しかし1つ妙なものがある。
一定のリズムで地面が波打つような感じがある。
これはとても微細な揺れだがダークマターで鍛えられた俺の超人的な力で感じ取れた。
行ってみる価値はある。
俺は振動のする方に歩き始める。
植物や木には大量のダークマターが付着しておりかなり汚染されていることがわかる。
普通の人間ならばこんなところに近づけば一瞬で悪い影響が出るが俺にとっては絶好の回復スポットだ。
俺は地面に咲いている汚染された植物を引っこ抜きそれを口に入れる。
なんとも言えない苦さ。
そして汚物のような臭さだ。
しかしこれが俺の体内に存在しているダークマターの回復にはうってつけなのだ。
歩いているとどんどん波打つ力が弱くなっているのを感じる。
少し急ぐか。
俺は小走りで走っていくとそこには大量の獣人の死体が転がっていた。
なんだ?
何があった?!
俺は波の感じる方へ歩く。
するとまだかすかに息がある獣人がそこにはいた。
「大丈夫か?」
俺は肩を叩き意識があるか確認する。
するとかすかに口元が動く。
大丈夫だ生きている。
俺はその獣人の全身を見る。
特に大きな怪我はない。
頭を打って気絶しているのかもしれない。
俺は懸命に呼びかける。
「う……うぅう」
「大丈夫か? 話せるか?」
獣人はうなりながら何かを話そうとしている。
俺は口元に近づき何を言っているのか聞き取ろうとする。
「ちゃ、ちゃり……」
「なんだ? もう一度言ってくれ」
「
戦車?
「レオ……裏切り」
なんだと?!
レオの裏切り?!
俺はその言葉を聞いた瞬間、全身に悪寒が走った。
レオが裏切った。
敵の陣地は嘘で俺を村から遠ざけるための罠。
しかしあの傷はなんだ?
あれは紛れもなく敵からの攻撃のように見えたが。
考えていても仕方がない。
「すまない」
俺は獣人そう言い残し村に全速力で引き返す。
ルスペルカが危ない。
レオは嘘をついていたのか?
俺が陣地に行くと言ったときにレオの顔は嘘をついているようには見えなかった。
しかし村が危ないのは事実だ。
それに戦車とも言っていた。
俺は止まらずに走り続けた。
すると粉のような黒いものが舞っているのに気がつく。
何だこれは?
俺の手にチラチラと落ちる。
これは、灰?
俺は村の方角に意識を向ける。
メラメラと揺れるなにか、崩れ落ちる家の音、間違いない村が焼けている。
すると村の方角から火柱が天に昇るのが見えた。
敵の攻撃だ。
あと村はもう少し。
俺は全力で駆ける。
そして村の中にまで入れた。
門は焼け落ち家はボロボロになり焼け焦げている。
村の中心に行くとルスペルカとゴエがいた。
そしてゴエが弓を構える先にはレオと天使の羽をはやした謎の人物がいた。
「すまないゴエ」
するとレオは大剣をゴエに向かって振り下ろそうとする。
俺はシャープネスナイフを放り投げる。
そして大剣の軌道を変える。
「何?!」
「おじさん!!」
「ハァハァ。遅くなった」
ルスペルカが俺の方に駆けてくる。
「怖かったよう!!」
俺はルスペルカを抱きしめる。
「もう大丈夫だ」
俺はレオの方を睨みつける。
「まさか裏切るとはな」
「お、俺だって好きで裏切ったんじゃない!! 仕方なかったんだ。このガキを殺してもうじき来るであろう救済者を殺せば村の住人は傷つけないと約束してくれたんだ。なのに村の奴らはこんなヒューマンのガキを守って、なんなんだ?! 俺がわざと背中を切られてさらに嘘の噂を流してヒューマンを殺しやすくしてやったのによう!!」
「まさか、王都の奴らがここに来るように誘導したというのも嘘なのか?」
「ああ、俺が村の奴らを守るために嘘をついたんだよ!! 化け物はこの方に引き連れてきてもらったんだ!!」
「外道め」
俺はマチェットナイフを取り出す。
するとレオの後ろにいる天使のようなやつが喋りだす。
「ふむ。こうなっては仕方ない。レオ、お前は十分に働いてくれた」
「では、俺は見逃してくれるんですね!!」
するとその瞬間レオの胴体に大きな片手剣が突き刺さる。
そしてレオは糸の切れた人形のように地面に倒れる。
「きゃあああああ!!」
ルスペルカが悲鳴を上げる。
そして怖くなったゴエが俺の方に走ってくる。
しかしその途中で天使のようなやつに心臓を一突きされそのまま倒れる。
「ルスペルカ、コートを着ていろ」
俺はコートをルスペルカにかけてやる。
そして天使のようなやつにナイフを向ける。
「ほう、あの目障りなコートを脱いだか。あれがなくては魔法が塞げないのではなかったのか?」
天使のようなやつはシルバーの髪の毛をくるくるといじりながらルスペルカを見つめる。
「お前は誰だ?」
「我が名はベリアル。貴様に引導を渡しに来た天使だ」
「とても天使とは言えない醜さだな」
ベリアルは赤く強靭な体に頭に角が2本、天使のような羽が生えているがとても天使とは思えない。
レオを造作もなく殺したことでヤツの大体の性格は予想できる。
腐った汚物みたいな生き物だってことはな!!
俺はナイフを構える。
敵の戦力がどれほどのものかは知らないが間違いなく強者であることには変わりない。
するとベリアルはなにもないところから剣を取り出す。
あれは召喚魔法?
高度な魔法も使えるというわけか。
「ベリアルと言ったな。レオの言葉から推測するに俺のことを知っているようだがお前は何者なんだ?」
「ふん。俺はあのお方に使える真摯な天使さ」
「とても天使には見えないな」
「まあな。
源星?
聞いたこともない言葉だ。
「肝心なことには答えていないがなぜ俺を知っている?」
「お前はいくつもの世界で邪魔してくれたからな名前は有名だぞクロイ」
「そいつは光栄だな。で、死ぬ覚悟はできたか?」
「口を慎めよ人間!!」
するとベリアルは片手剣を持ち突っ込んでくる。
俺はマチェットナイフを逆手に持ち攻撃を受け流そうとする。
剣とナイフがぶつかり合う。
「重い!!」
「クククッ」
俺はその威力に耐えられず吹き飛ばされ廃墟に突っ込む。
鼻からは鼻血が出ていて体には切り傷ができた。
俺はゆっくりと立ち上がる。
するとベリアルは怯えるルスペルカの肩に剣を添えていた。
「俺はいつでもこのガキを殺せるぞ。フフフ。いいのかクロイ?」
「その子から離れろ!!」
俺は音速でベリアルに近づきナイフで腕を切り落とそうとする。
しかし俺の動きに対応して剣でナイフを防ぐ。
「やはり強いなクロイ。しかしそのままでいいのか? コートの真の能力を使えば俺を殺せるかもしれんぞ」
「貴様などコートを使うまでもない」
クソ、あいつ俺のコートのことまで知っているとは。
一体何者だ?
「では俺も少し本気を出すとしよう」
すると地面から火柱が出てくる。
周りは業火に包まれ地面からは戦車が出てくる。
「ハハハハハハ!! これが我が武装、『ヘルフィアーチャリオット』である!!」
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