第6話 七大罪

 ルスペルカが美味しそうに水を飲んでいた。

 俺はその横でその様子を伺う。

 すると俺の視線が気になったのかルスペルカが言う。


 「おじさんも飲む?」

 「いや、俺はいい」

 「じゃあなんで見てたの?」

 「俺の娘を思い出していてな」


 俺は地球にいる娘とルスペルカを重ね合わせていた。

 俺の娘、リンも成長すればルスペルカのような元気な子供に育つのだろうか?

 はやく娘に会いたいものだ。

 この仕事をしていると休みは殆どない。

 家族サービスもろくにしていない。

 俺が家族に思いをはせていると獣人のゴエがこちらに来る。

 何やら門のあたりが騒がしい。

 ゴエが俺に向かって言う。


 「レオ帰ってきた。化け物いっぱい殺したらしい」

 

 それで門のあたりがうるさいのか。

 俺はゆっくりと腰を上げて立つ。

 

 「いまレオに会えるか?」

 「ああ、レオに聞いてみる」

 「いや俺から行こう。ルスペルカもついてこい」

 「いいよ」


 俺たちは門のあたりに向かう。

 たくさんの獣人が集まっていてガヤガヤとしていた。

 俺がその人だかりに近づくと獣人たちは道を開けてくれる。

 もしかしたら俺が救済者と知って開けてくれたのかもしれない。

 俺は獣人たちが開けてくれた道を進む。

 するとライオンのような顔をした筋骨隆々の高身長な男獣人が立っていた。

 肩には子供の獣人を乗せている。

 レオは俺を一瞥すると肩に乗せていた子供をおろして俺に向かって話す。


 「貴様何者だ?」


 声からはすこし怒気が感じられる。

 こちらを威嚇しているようだった。

 ゴエが言っていたがヒューマンがこの森にストレンジが来るように誘導したんだっけな。

 俺はそのことを踏まえて丁寧に話す。


 「俺は黒井黒斗くろいくろと。こちらの世界で言う救済者だ。ここの森にいるストレンジを全滅させに来た」

 「救済者? お前からは異様な匂いがする」

 「酒なら飲んでないぞ」

 「ふざけるな!! 正直に話せ。貴様は何者だ?」


 レオは大きな声で怒鳴る。

 ルスペルカはその様子を見てビクビクと震えている。


 「子供がいる。もう少し落ち着け」

 「子供がどうした。そんなことよりもお前は何者なんだ。貴様からはまるで根源の……」


 俺はレオの口の前で手のひらを向ける。


 「そこまでにしてもらおう。これ以上言うと周りが混乱する」


 レオは少し落ち着いたのか咳払いを一つして俺を案内する。


 「ついてこい。ここではまずい」

 「ふー。怖かった」


 ルスペルカがため息をして俺のコートを掴む。

 目には涙が溜まっていたが頑張って泣かないようにしていた。

 俺は何も言わずにそっとハンカチを貸す。

 そして俺はレオについていく。

 レオは家に案内すると入ってくれと手招きする。

 家は他の家より少し大きめに作られていた。

 レオの身長が高いからそれに合わせたのだろうか。


 俺は簡素な部屋に入り床に座り込む。

 ルスペルカも俺の隣に座る。


 するとレオは落ち着いた様子でこちらと対面になるように座る。


 「まずは謝ろう。急に怒鳴ったりして申し訳なかった」


 レオは頭を下げる。

 しかしその目はまだ疑っており俺の眼光を鋭くにらみつける。


 「いや、俺も怪しい格好をしてるからな」

 「では改めて聞かせてもらう。お前は何者だ?」

 「俺は救済者。黒井黒斗だ。お前が気になった匂いはすでに俺が滅ぼした。そしてそれは俺の能力となった。だから俺自体はやつとなんの関わりもない」


 レオは頷く。


 「だが倒せるものなのか、根源の悪、七大罪ななたいざいの一人を?」


 ルスペルカは何を言っているのかわからない様子で首をかしげる。


 「七大罪って何おじさん?」

 「とても強い怪物のことだ。俺はそいつの一人を倒しその能力を得た」

 「ちなみに誰を倒したんだ?」

 「それは秘密だ。できるだけ知っている人を増やしたくない。手札が知られればどんな形で敵に伝わるかたまったもんじゃないからな」


 俺がそう言うとレオはそれ以上聞くことをやめた。


 「まずはこの世界の現在を知りたい。なにか知っていることはないか?」

 「はっきりとは言えん。しかしこの世界を滅ぼそうとしているのは根源の悪、七大罪の1人『ベルフェゴール』だ。ベルフェゴールは王都に陣取っている」

 

 俺は地図を広げて確認する。

 王都はここより北に存在する。

 

 「この世界にも七大罪がいるとはな。正直俺も初めて対峙した時半殺しの状態になった。若い頃だから倒せたが今となってはどうだかわからん」

 「ねえねえ七大罪ってなんなの?」


 ルスペルカが聞いてくる。

 いずれ出会うことになるから話しておくか。

 俺はレオと目配せしてルスペルカに話す。


 「七大罪について何も喋らないと誓えるのなら話す」

 「私しゃべんないよ」

 「なら言おう。七大罪は世界に現れる闇の軍勢のリーダー的存在のことだ。奴らは神に等しい力を持ち、なぜか世界に住む住人を殺すよう命じる。その理由はわかっていない。たぶん他の根源の悪に人間を殺すように命じているのも七大罪だ」

 「その1人をおじさんが倒したの?」

 「ああ、若かったからな。今の俺の力が通用するかどうかはわからない」


 するとレオがそこまでにしておけと俺を見ながら頷く。

 俺はルスペルカに話すのをやめた。


 「七大罪のことを知っているのはお前だけなのか?」


 レオは首を横に振る。


 「いや、もうひとりいる人族の王の息子レノンというヒューマンがこのことを知っている」

 「ほう。なるほど、では俺はここの森に潜むストレンジを片付けたら王都に向かう。そして息子と言ったな王は死んだのか?」

 「死んだ。王は最初の戦いで死にそれから各地で怪物が現れた。おそらくは世界創生石ワールドストーンを砕かれ結界が壊れたのだろう」


 世界創生石は世界に魔物が溢れないための防御装置だ。


 「ふむ。七大罪についてはもう何も知らないか?」


 レオが申し訳無そうに言う。


 「すまんが知らない」


 実は組織でも七大罪の情報を集めていた。

 ブラックホールの中の異世界では悪魔や堕天使の名をつけた根源の悪が存在する。

 コイツラを倒すとブラックホールはホワイトホールへと変わり食べたものを吐き出す。

 そして異世界は救済される。

 その根源の悪の中でも神に等しい力を持つのが七大罪である。

 俺は大きなブラックホールを閉じに行くことが多かった。

 ブラックホールが大きいほど異世界に存在する根源の悪は強い。

 

 俺は次にこの森に潜むストレンジについて聞くことにした。


 「ここの森にはコマンダーが存在すると推測しているが本当か?」

 「ああ、俺はそいつと戦ったがはっきり言って強い。闇の魔法を使い俺たちは全滅まで追い込まれた。しかしどうにか退却できたというわけだ」


 するとレオは鎧を脱ぎ始める。

 そして後ろを向いて背中を見せてくれる。


 「これがやつにやられた傷だ」


 背中は真っ黒になっていて肉がえぐられていた。

 出血は止まったようだが傷は癒えてはいない。

 するとルスペルカが近づく。


 「この傷、呪いだよ」

 「呪い」

 「そうだやつは漆黒の剣を持っていてそれに切られた仲間は傷がいえず悶え苦しんでいた」

 「痛くないの?」

 「無論痛いが我慢するしかないからな」


 一度切られれば一生傷が残る。

 それに加えて激痛。

 更には呪いを使用する戦い方か。


 俺はレオの肩に手を置く。

 

 「その敵は俺にとって相性がいい。俺に任せてお前はこの村を守れ」


 レオは正気なのか?

 というような眼差しで俺を見る。


 「まさか一人で行くのか?」

 「ああ、俺一人のほうが殺りやすい。それとルスペルカを頼んでもいいか?」


 するとルスペルカが俺に抱きつく。


 「嫌だよ。私も行く!!」


 俺はルスペルカの頭をポンポンと撫でる。


 「安心しろ。俺は不死身だ」

 「本当に?」

 「ああ、俺は絶対に死なない」


 俺はネクタイを締め直し立ち上がる。

 ルスペルカは今にも泣きそうになっているがレオが優しくルスペルカの肩に手を置く。


 「気をつけろよ」

 「ああ、ルスペルカを頼んだ」


 俺は家から出て東の敵の根城に向かう。 

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