第5話 魔獣の森

 俺とルスペルカは街を離れることにした。

 その目的は人がいそうな王都に向かうためだ。

 街を一歩離れるとそこは人間様のテリトリーではなかった。

 そこかしこにストレンジと思われる足跡が残っていることから王都に向けて移動したことが伺える。

 

 「たくさんいるのかな?」

 「だな。俺から離れるなよ」

 「うん」


 俺は細い荒れた道を歩いていく。

 ルスペルカは俺のスーツの袖を引っ張りながら慎重についてくる。

 足跡は殆どが森に続いていた。


 「迷うことなく森に向かっているな」

 「それがどうかしたの?」

 「ストレンジは組織的な動きをしない。動物に近い思考を持っている。だが一斉に森に入っている。このことから奴らにはコマンダーがついていることがわかる」

 「そのコマンダーっていうのは強いの?」

 「俺の敵ではないが警戒はするべきだろう」


 しばらく歩くとやっと森が前方に見えてきた。

 かなり木が生い茂っている。

 しかし不思議なことに生き物の声がしない。


 「森には入ったことがあるのか?」

 「入ったことはないよ。だって危ないもん」

 「レオのせいか?」

 「違うよレオは優しいんだよ」


 どうだかな。

 俺はルスペルカの言葉を信じない。

 俺は他人からの情報をあまり信じない。

 少しは信じるが疑いの心を持つようにしている。

 それは生き残るためでもある。

 この仕事で生き残るのは勇敢なやつよりも慎重なやつだ。

 そう俺の師匠は言っていた。

 事実、俺は何度も異世界から生還している。

 

 そして俺たちは森の中に入っていく。

 するとチラホラとストレンジの死体が見える。

 どうやら戦闘があったようだ。

 俺は死体を確認する。


 「そんなに近寄ったら危ないよ」

 「心配はありがたいがこれも仕事の一環でね」


 どうやらこれは剣により切断されている。

 ストレンジの鋼鉄のように硬い皮膚を両断するとはなかなかの力だ。

 そしてストレンジの近くには矢が落ちていた。

 しかしこれはストレンジに当たってはいるが貫通はしていない。

 威嚇いかくのようなものか。

 本命は剣による攻撃か。

 そして所々に火傷の痕がある。

 火炎放射器、ということはないか。

 おそらくは魔法の力だろう。

 俺は死体を調べ終わる。


 「なにかわかったの?」

 「うむ。強いやつがいるのは確かだ。それに人間と同程度の思考も持っている」


 するとルスペルカは思い出したように言う。


 「そいえばここには獣人じゅうじんと呼ばれる人たちがいたと思うわ」

 「レオの手下か?」

 「たぶん」


 なるほど。

 できれば仲間になりたいものだな。

 戦力は多いに越したことはない。


 しかしストレンジの死体が多いな。

 殺ったやつはかなりの手練だ。

 でも全体の数はもう少しいるだろう。

 手遅れになっていることだけは避けたいな。

 俺は周囲に目を配りながら歩いていく。

 すると数メートル先から妙な視線を感じる。

 俺は目にダークマターを集める。

 そして未来視の能力を使用する。

 能力によれば俺があと5歩進めば遠距離から矢で射抜かれるみたいだ。

 

 「ルスペルカ、俺のコートを着ていろ」


 俺は雑にルスペルカにコートをかける。

 それにルスペルカは少し不満そうに怒る。


 「おじさんのコート重いよ」

 「静かにしていろ」


 俺は前方に神経を研ぎ澄ます。

 俺は敵の殺気を体で感じていた。

 相手もこちらに気づいたようだ。

 慌てて狙いを定めるのが感じられる。

 狙いは俺の心臓。

 そして弓の弦を引いて風を切りまっすぐ俺の方に飛んでくる。

 紙一重。

 俺は矢を素手で掴む。

 それに驚いたのか敵は第2射目を慌てて準備する。

 だがそんな暇は与えない。

 俺は掴んだ矢を素手で投げ飛ばす。 

 その矢はまっすぐと敵の足を射て無力化に成功する。

 ルスペルカは俺の行動に唖然としていた。

 

 「おじさんなにやったの?」

 「敵の攻撃を防いだまでだ。さて行くぞ。コートはお前が着ておけ」


 実はコートは頑丈に作られていて銃弾も防御できるほど丈夫に作られていた。

 その他にもこのコートにはいろいろな使い方がある。


 俺は数メートル先の射手に歩いて近づく。

 急所は外しておいたから死ぬことはないだろう。

 ルスペルカは怖がりながら俺の背に隠れ歩く。

 そして俺は足を抑えながらもだえ苦しむ射手の所まで来る。

 顔は犬のような顔で全身に毛が生えている。

 しかし手や足は人間のようだった。

 これが獣人か。

 俺は相手をにらみながら話しかける。


 「なぜ俺を狙った?」


 獣人は足を抑えながらこちらを睨み返す。

 どうやら俺たちを敵と見ているようだ。


 「俺は異なる世界から来た救済者だ。まずこの森に勝手に入ったことを謝罪しよう。そしてなぜ君が怒っているのか。それを俺に聞かせてくれないか?」


 すると獣人は歯を食いしばりながら怒気のこもった声で話す。


 「ヒューマン、俺たちを盾にして化け物こちらにおびき寄せた。だからヒューマン許さない。お前もヒューマンかと思った。だから殺す行動した」


 獣人は片言の言葉で俺に訴えかける。


 「具体的に何をした? よければ俺に教えてくれ」

 「ヒューマン死体を森に捨てた。やつら血の匂いで寄ってくる。レオは勇敢に戦った。でも怪我した。レオの代わりいない。でも戦う。村、ある。でも人いっぱい死んだ。まだ奴らいる。だから見張りしてた。俺、ヒューマン嫌い。復讐する」

 「わかったありがとう。お前の怒りも理解したが俺は獣人を差別することはしない。俺は君たちを救うことを目的としている。君に協力したいんだ。だから村まで案内してくれるか?」

 「奴らを殺す? それは賛成。でもお前をどうやって信じる? 証がほしい」


 俺はルスペルカの着ているコートからサバイバルナイフを取り出す。

 それを見た獣人は少し怯える。


 「俺殺すのか?」

 「いや、お前にはひどいことをしたからな、その足の怪我を治す」


 俺は獣人の足をつかみ矢を取り出そうとする。

 やじりが奥まで刺さっていた。

 俺はサバイバルナイフで矢の根本をほじくり出す。

 獣人は歯を食いしばりながら痛みを我慢する。

 そしてきれいに矢を取り出すことに成功する。


 「よしこれで大丈夫だ」

 「ああ、ありがたい」


 するとルスペルカは獣人に近づく。

 そして足を見る。


 「これなら私でも治せそうかな」


 ルスペルカは両手を優しく獣人の足にそえる。

 すると緑色の光が傷口から溢れ出してくる。


 「《ヒール》」


 ルスペルカがそう言うと徐々に傷口がふさがっていく。

 魔法か。

 かなり弱い魔法だったがこのぐらいの傷を治すには適していた。

 しかしルスペルカにこのような特技があるとは。

 獣人はゆっくりと立ち上がる。

 そして傷口が閉じているのを見てルスペルカに言う。


 「ありがとう、ヒューマンの娘」

 「元気になって良かったよ」

 「ありがとう、白髪の老いぼれ」


 俺は老いぼれか。

 まあいいだろう。


 「村に案内する。ついてこい」


 獣人は歩き始める。

 俺たちはその後をついていく。

 しかし少し疑問がある。

 ここらにはストレンジが来たはずだが今まで一体も遭遇していない。

 全滅させたのだろうか?

 しかし死体の数からして全滅はありえなかった。

 俺は獣人に聞いてみる。


 「ストレンジはどこにいったんだ?」

 「ストレンジ? ああ、怪物のことか」

 「そうだ」

 「奴らは森の東に移動した。レオを恐れる。奴らは今までのものとは違う。言葉話す。そして魔法使うリーダーいる。村の東に陣地作る。レオは東に殺しに行った。俺は村を守るために見張ってた」


 なるほど。

 ここにはコマンダーがいるのは確実だな。

 コマンダーのもとにいるストレンジは言葉を話す。

 そして組織的な動きをする。

 ただでさえ強いストレンジが戦略を駆使して戦う恐ろしさは何度も経験している。


 「レオは怪我をしたのにまた戦場に行ったのか?」

 「奴らの肉切れるのレオしかいない。その他弓持って行った」


 やはりあのストレンジたちを切り裂いたのはレオだったか。

 そうだ。

 俺はルスペルカにコートを着させてたのを思い出した。

 あれは武器が入っていて重いからな。


 「すまんルスペルカ。コート重かっただろう」

 「もう、汗だくだよ」


 俺はコートをルスペルカから受け取り羽織る。

 これがないと落ち着かない。

 そしてこのコートには特殊な機能がついていた。

 それを使うほどの敵には遭遇していないがあるだけで心が落ち着く。


 「見えてきた。あれが村だ」


 前方に獣人たちの村が見えてきた。

 たくさんの家があり木で作られた門があった。 

 どうやらこれが入り口らしいな。

 家は木で作られており森ぐらしにしては立派だ。


 「お前たちここからどうする?」

 「俺はレオに会いに来た。そしてここら一帯のストレンジを殺すのが俺の目的だ」

 「なるほど。レオは敵を殺しに行ったがすぐ戻る言った。この村で待て」


 随分とレオのことを信頼しているようだ。

 それほど心の器が広いのだろうか。

 俺は大きく深呼吸して椅子らしきものに腰掛ける。

 ダークマターで睡眠や食事は取らなくても大丈夫だが精神的にきつい。

 すると隣にルスペルカが座る。


 「クロイおじさん大丈夫?」

 「ああ、久しぶりに酒でも飲みたいと考えていただけだ」

 「おじさん何も食べてないの?」

 「俺は食事を取らなくても生きていける。そうだ」


 俺は獣人に頼み事をする。


 「この子に水と食料を出してくれないか?」

 「わかった。あと名前を聞いていない。お前の名前は?」

 

 そういや話してなかったな。

 長い付き合いになりそうだし話しておくか。


 「俺は黒井黒斗。この世界を救済しにきた者だ」

 「私はルスペルカ。隣町から来たの」

 「ほう、隣町は壊滅的被害と聞いた。よく生き残った」

 「おじさんが助けてくれたの」


 ルスペルカはまるで自分のことのように俺のことについて話す。

 嬉しいもんだな。

 

 「お前の名前はなんていうんだ?」


 俺は犬型獣人の名前を聞く。


 「俺はゴエ。弓使い。村では一番腕が立つ」

 「ああ、お前の弓の正確さには驚いた」

 「いや、クロイこそ普通のヒューマンでは考えられない反射神経だ」


 俺たちはお互いのことを褒め合う。

 そして一区切り話したところでゴエが水をルスペルカにあげた。

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